上田麗奈『Empathy』、早見沙織『シスターシティーズ』……クリエイターとのコラボで増す歌声の魅力

高いポテンシャルとクリエイターのセンスによる相乗効果

 優しい雰囲気のなかに、一本筋の通った熱いものを感じさせる存在感のある声質で、『鬼滅の刃』の胡蝶しのぶ、『Fate/Grand Order』の牛若丸や『魔法科高校の劣等生』の司波深雪などの役で知られる早見沙織。アーティストとしては、2015年にシングル「やさしい希望」でデビュー。多くの楽曲で自ら作詞作曲を務めているが、2018年のシングル「新しい朝」では、竹内まりやを作詞作曲に迎えたことでも話題を集めた。最新作『シスターシティーズ』では自身が全曲の作詞を担当し、作編曲にはジャズアーティストのKenichiro Nishihara、NARASAKI、堀込泰行、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)などが参加。ボサノバ調で80年代ニューミュージックの雰囲気を持つ「遊泳」や、クラップとコーラスでゴスペルやソウルミュージックを感じさせる「PLACE」などを収録。ドラマのワンシーンを切り取ったような歌詞が楽曲とも相まって、都会的でアーティスティックな世界観を感じさせてくれる作品になった。

早見沙織『シスターシティーズ』

 なかでもKenichiro Nishiharaが手がけた「yoso」は、ウッドベースがブルーノートスケールを奏でるイントロで始まる、アシッドジャズの流れを汲んだ都会的なサウンドが心地良い。低音が続くメロディは声優の楽曲には珍しく、ここまで低音がきれいに出せる早見は希有な存在だと言える。そんな低音から高音に飛ぶ歌声は実に滑らかで、裏のリズムを感じさせるボーカルは、聴いていると自然に身体が揺れてしまうほどだ。曲の終盤にはトランペットのソロが鳴り響き、それに寄り添うようにして聴かせるスウィンギンなフェイクも、実にソウルフルで聴き応えがある。

 この「yoso」を手がけたKenichiro Nishiharaは、アルバム『Elastic Afterwords』がiTunesジャズチャートにてアルバム部門とソング部門で1位を獲得した経験を持つ。早見も学生時代に母親からの影響で3年ほどジャズボーカルのレッスンに通っていた経験があり、ジャズテイストの楽曲を好む。1stアルバム『Live Love Laugh』にも、ムーディーなジャズナンバー「ESCORT」が収録されていた。「yoso」は、そんな2人の出会いが必然だったと思わせるほどのクオリティの高さだ。

 また同曲のMV監督を、ファッションブランドのWEB CMなども手がける映像クリエイターの中山佳香が担当し、エキゾチックな街を女性が舞い踊る映像が、楽曲とマッチしたファッショナブルな映像に仕上がった。早見が元から持ち合わせているポテンシャルが、クリエイターのセンスと見事な相乗効果を生み出した1曲だと言えるだろう。

早見沙織「yoso」Creator's MV

 女性声優アーティスト×クリエイターと言えば、坂本真綾の昨年のアルバム『今日だけの音楽』に、伊澤一葉、大沢伸一、ゲスの極み乙女の川谷絵音などが参加。花澤香菜のアルバム『ココベース』に岡村靖幸、フジファブリックの山内聡一郎、ザ・クロマニヨンズの真島昌利などが参加していたことも記憶に新しい。どちらも言わずもがなの声優界のトップランナーで、その次代を担うと期待されているのが早見や上田だ。声優として多くのアニメファンを魅了している彼女たちの声と表現力には、クリエイターの創作意欲を刺激する魅力があるのだ。

■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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