(sic)boyとKMが語る、ラップシーンの新潮流 教科書に則ったスタイルから、オリジナルを生み出す試みへ
「(ミクスチャーは)ヒップホップサイドから敬遠されがちだった」
ーー(sic)boyさんのルーツについてさらに詳しく伺っていきたいと思います。「Hype's」を聴いたときアニメソングのような印象も受けました。(sic)boyさんの曲には、〈呪印〉や〈霧隠れ〉といった『NARUTO』を彷彿とさせるワードも出てきます。アニメや漫画の影響は大きいですか?
(sic)boy:アニメも漫画も好きですね。意図してアニメソングっぽく作ろうとは思ってないんですけど......毎日自分のことだけ書いてても疲れが出てきちゃうから、漫画をさらっと読んで「この人どういう気持ちなんだろう?」って思いながら歌詞を書いたり、アニメを観たり漫画を読んだりして主題歌を勝手に自分で作ってみるみたいなこともしていて。そういえば、MAD動画(既存の音声・ゲーム・画像・動画・アニメーションなどを個人が編集したもの)ってあるじゃないですか。自分の曲を調べると出てきたりして、すごい嬉しいですね。
ーーフェイバリットな作品があれば教えてください。
(sic)boy:『NARUTO』と『ジョジョ』(『ジョジョの奇妙な冒険』)が好きですね。あとは『ソウルイーター』『ブリーチ』とか。リアリティがあるものよりも、非現実感というかちょっとファンタジックなアニメとか漫画が好きですね。
ーー(sic)boyさんはBring Me The Horizonがお気に入りと伺ったのですが、彼らからの影響もありますか?
(sic)boy:ありますね。Spotifyで去年一番聴いたアーティストはBring Me The Horizonでした。僕が高校生のときは、スクリーモに近い音楽性だったと思うんですけど、去年リリースされた『amo』でもっと好きになりましたね。その中でも1曲トラップに近いフロウがあったりして、すごく勇気を貰えます。ジャンルレスというか、核としてラウドなギターリフがあるんだけどメロディが綺麗でまとまりがあるバンドだと思います。過激なサウンドなんだけど、優しくもある。こういうバンドって日本では少ないんじゃないですかね。それが今回のEPにも、ボーカルに影響を与えてるかもしれないです。
ーー〈当たり前に変える時代の波〉(「(sic)’s sense」)というリリックもありますが、自分たちがシーンや音楽を更新していくという意識はありますか?
(sic)boy:めちゃくちゃ味方がいるかと言われたら別にそんなこともないので。競争したいっていうよりはめちゃくちゃ作り込んでいるだけ。他と比べたりすることはあんまりないですね。オリジナルなものを作っていろんな人を巻き込んでいけるようにすることが目標です。
ーー共鳴していると感じるアーティストがいたら教えてください。
(sic)boy:それこそOnly UとかLEXの活動は見ていて楽しいですね。もともと結構長い付き合いで。僕より歳下だけど、作る音楽は斬新だし好きです。あとOZworld a.k.a R'kumaくんとかweek dudusくんは、僕では全くできないフロウとか、リズムの取り方ができて、かっこいいですね。日本のラップシーンを、若い人たちが押し上げてる感じがして本当にすごいなと思います。これまでのラップとは、全く別のものとして聴かれちゃうのもわかるなって。
ーーKMさんは、(sic)boyさんのようなアーティストが登場している現在のヒップホップシーンについてどう感じていますか?
KM:ジャンルレスな音楽を作るラッパーがでてきたことはすごく面白いなと思います。僕の中高生時代は、Limp Bizkitとか、Linkin Parkみたいなミクスチャーがものすごい流行っていた時代でした。一方で国内のヒップホップでいえば、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの世代。ティーンズの僕らはどっちも好きで聴いてはいたんですけど、ミクスチャーとヒップホップが交わることはあまりなかったんです。
ーーその時代だとお互いにアプローチがあったとしても合流まではなかったと。
KM:合流していった人もいました。例えばRIZEのJESSEさんにはSORA 3000っていうMCネームもある。ただやっぱりクラブでは厳しい目でみられることがよくありました。DJ側からしたら音がラウドすぎてかけられないというか。「それはかけちゃだめでしょ?」なんて言われることも多かったんですよ。こう言ったら失礼ですけど、ヒップホップサイドからちょっと敬遠されがちだったと思います。今は自分の名前で曲を作ってご飯を食べてるし、そういうことは絶対言わないようにしようと思ってる。だから、「こうじゃなきゃヒップホップじゃない」みたいなことを言う人を弾き出せるような音楽で埋め尽くしていきたい。別にもっと好き放題やりゃいいのにって。そういう意識は若いラッパーにもあると思います。
ーー日本でのヒップホップの固定観念が生まれたのは、いつ頃ですか?
KM:おそらく90年代って輸入の時期だったんですよね。あまり情報がなくて「とにかくNYだ」って話になったと思うんですね。だからNYで流行っていたビートが、ヒップホップとして日本で根付いてしまった。それが00年代に入って、よりエレクトリックな質感を使うプロデューサーが出始めて、国内のプロデューサーも頑張ってUSの音に……USに追いつこうっていう、教科書に乗っ取った時期だったと思うんですよ。2010年代は、機材も進化してますし、そこからさらにオリジナルを出そうっていう試みがあった時期なんじゃないかな。
ーーヒップホップがより自由に表現されるようになったタイミングはありましたか?
KM:ゆっくり変わっていったと思います。DJも変わり始めた時期があったんです、YUKIBEB、DaBook、MARZY(YENTOWN)あたりが出てきて。所謂「クラブDJ」というよりも、自分が好きなサウンドをプレイに落とし込むDJが増えていった。その動きがSoundCloudの進化とかも絡まって、さらに加速していった。そのうち、MARZYがHarlemの金曜日の帯にいたりするようになって。ちょっとずつヒップホップのクラブDJのイメージも変わっていきました。
ーー(sic)boyさんはリル・ピープやXXXTentacionやカート・コバーンにも影響も受けていると思うのですが、彼らのような刹那的な生き方や早すぎる死について思うことはありますか?
(sic)boy:アメリカと日本の違いもありますし、あまり刹那的な生き方について考えることはないかもしれません。ただ、「死にたい」と感じることはあって、そういうときにはできるだけリリックをメモしてます。曲を聴いて共感してくれる人がいるって思うことで、孤独を歌ってるんだけど孤独じゃないみたいな。ネガティブな気持ちにならないように、自分を鼓舞しているようなところもある。同じように悩んでいる人たちにもちゃんと刺さってくれたら嬉しいですね。
ーーネガティブなことは歌に昇華しているんですね。精神的にもKMさんの存在は大きいですか?
(sic)boy:そうですね。
KM:音楽の話はもちろん、世間話もよくします。恋愛相談されたりもするし、「いつ結婚したんですか?」とかも(笑)。他の若手からも人生相談されることは多いですね。
(sic)boy:兄ともあまりしゃべらないし、部活も長続きせず先輩ともそんな口も聞かなくて。こうやって20歳を超えると圧倒的に相談できる大人がいないなと思って。KMさんと知り合ったのが去年の9月くらいで、最初はすごい緊張しましたけど、今はなんでも話せるようになって、年上の人とちゃんと話すことって大事だなと感じてます。音楽的なことだけじゃなくて人間的なことでも。
KM:あんまりそういうことを言っておじさん化されていくのは嫌なんだけど(笑)。
(sic)boy:違うんですよ! 人生の先輩みたいな。音楽以外で稼いでいる年上の人はいるんですけど、音楽シーンで、DJとかビートメイクを仕事にしている人に相談できるっていうのはすごい刺激にもなりますね。KMさんは自分の目標でもあるので。今までずっと1人でやってきたので心強いです。
ーーでは、最後に今後の活動についてもお聞かせいただけますか?
(sic)boy:4から6月に掛けて3曲リリースする予定です。僕らにもう1組客演アーティストを迎えた楽曲になっているので聴いてみてほしいです。
KM:どの月に誰との曲がリリースされるかは当日のお楽しみにしていただければ。三者三様でどれも自信を持って届けられるクオリティに仕上がっているので、ぜひチェックしてほしいですね。あとは、原曲とは違ったライブ構成も考えています。彼はギターもすごくうまいので、“バックDJとラッパー”っていう構成じゃなくてスペシャルライブセットみたいなものを今後はやっていきたいですね。
■リリース情報
(sic)boy & KM 『(sic)’s sense』
1.freezing night
2.(sic)’s sense
3.slayed me
4.(stress)
5.no.13 ghost
label:add. some labels
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