エビ中の成長、日向坂46の躍進、女性アイドルの結婚……『アイドル楽曲大賞』2019年のシーンを振り返る
「黒い羊」MVは「観ていてカルチャーショックがありました」
ーー12位は、TEAM SHACHIとロックマンのコラボ曲「Rocket Queen feat. MCU」です。
岡島:特設サイトのスペシャルコラボゲームに、シャチのメンバーが出てきてそのBGMがこの曲です。ゲームが難しくてクリアできないというのがSNSでも話題でした。覆面の6人組ブラスセクション・ブラス民を加えた編成、長岡中越高等学校吹奏楽部の女の子たちとコラボしたりもしていましたね。
ーー欅坂46「黒い羊」は14位です。
宗像:イントロからエレクトロニカのような音と異様に低いキーのアプローチから始まる。MVは日本のアンダーグラウンド演劇を継いでいるような複雑な映像で、観ていてカルチャーショックがありましたね。このレベルのものが日本のアイドルシーンから出てくるのかと。2019年、欅坂46はこれ1枚しか出していない。
ガリバー:(全国握手会を除き)単独ライブでやったのは3rdアニバーサリーライブの千秋楽のみ1回きりで、東京ドームでもやっていない。
ーー年末の『MUSIC STATION ウルトラSUPERLIVE』(テレビ朝日系)のパフォーマンスはよかったですね。
ガリバー:無人状態の幕張メッセを使った「黒い羊」が最高傑作だったんじゃないかな。「大人への抗い」というテーマの最終形として、死をも連想させるMVも含めて、一つの到達点だったと思います。
宗像:「黒い羊」はパフォーミングアートという面が強い。
ガリバー:結果論ですけど、脱退した平手友梨奈は主人公として身を削ることに対して、自分の身体と心のバランスが取れなかった。14歳からその役割を背負って、18歳で脱退をしてしまうわけで、彼女が抱えていたものが大きすぎたんだと思います。
宗像:反骨のヒーロー像をアイドルという文脈で背負わせる。そういった古典的なヒーロー像が秋元康世代だけのものなのかなと思いきや、10代~20代にも広く受け入れられた。雑誌に欅坂46が出ると10代からたくさんのハガキが来るという話も象徴的だなと思います。
ガリバー:欅坂46は、カルチャーアイドルと言っても過言ではない。良くも悪くも、アイドル界隈だけでない層とメディアにリーチしました。アイドルというジャンルに関係なく、平手友梨奈はカリスマでしたからね。
岡島:女“尾崎豊”ですよね。この曲のMVでも白Tシャツにジージャンだし。
ガリバー:尾崎豊的な存在が、今の時代にはいなかったというのもありますよね。欅坂46の現場は客層が圧倒的に若い。「黒い羊」が一旦の区切りになったのは間違いないですね。
岡島:尾崎豊以降にも音楽業界は尾崎豊的な存在を絶え間なく送り出そうとして来ましたが、「大人や社会への反抗」というテーマを、プロデュースや楽曲提供される立場である“アイドル”が歌いパフォーマンスする、という構造が斬新だったと思います。
ーー昨年インディーズの方でランクインしていた眉村ちあき「ピッコロ虫」がメジャーで16位に。Maison book girl「鯨工場」が17位に入りました。
ガリバー:LINE CUBE SHIBUYAでのライブ『Solitude HOTEL ∞F』が衝撃的で、そこでも「鯨工場」が要所で使われていましたね。メジャーに行ってもサクライケンタの世界観が継続して展開されていて、少しずつ客層を増やしている。同じ事務所ekomsのZOC、クマリデパートが、ポップな方向に対して、ブクガがブレずに視野を保っているのは強い意志を感じますね。
ーー19位はでんぱ組.inc「形而上学的、魔法」で作詞、作曲は諭吉佳作/menです。
宗像:去年4月に開催されたO-EASTのワンマンライブで開演前、もふくちゃんから「この子が次のシングルのカップリングを書くんだけど」って紹介されたのが諭吉佳作/menだったんですね。<Maltine Records>周辺の人脈から新しい才能を掘ってきて、新しいでんぱ組.incの象徴のひとつとして、カルチャーフィールドで最先端なものをやるんだという意志表明を感じます。でんぱ組.incは10年以上活動しているグループですけど、今この位置にきたというのはそういうことなんだと思います。衝撃を受けましたね。
ーー昨年は、NegiccoのNao☆が4月に入籍を、でんぱ組.incの古川未鈴が9月に結婚を発表した年でもありました。
ガリバー:10年戦士のアイドルの子たちが27~29歳になったらグループを卒業して、その後の恋愛は自由みたいなところが前からふわっとありましたけど、それが在籍しながらでもいいというのが形になったのが去年だった。現場の人たちには多少の複雑な気持ちがあったと思うんですけど、これが5年前だったら叩く感じの空気だったんじゃないかな。
宗像:僕としてはもっと素直な感情を見せてほしいな。そういう動きが次のカルチャーに結ばれていくんじゃないかと思うので。
岡島:1997年に西村知美が結婚した時、ウェブチャットでファンが3人ぐらい阿鼻叫喚していて、「(ノーパソの画面を叩き割って)拳が血まみれになった」「会社に行けない」とか辛辣な思いを書いてましたね。美しかった。
宗像:西村知美のファンサイトは僕も見ていて、結婚で最終的に閉鎖になりました。
ガリバー:大前提として、10年続くアイドルがこれだけいるというのが素晴らしい、それは結婚もするよねという流れだと思う。私達はアイドル史上はじめてこんなに沢山の女性アイドルグループが10年スパンで活動している時代を迎えているんだと思いますよ。
岡島:社会に受け入れられる傾向が出てきた、女性を尊重しているというのもあるんですけど、単純にアイドル市場が大きくなったというのもある。今はアイドルを応援するのが一般的な趣味になって、結婚を発表してその人が離れても市場的に成り立つというのも大きいんじゃないかと思います。
宗像:今はアイドルシーンの過渡期なんですかね。
岡島:男性アイドルの世界ではすでに結婚は珍しいことではないですよね。ビジネスジャーナルで「アイドルと結婚」ついてインタビューを受けたことがありました。歴史的に見ても、男性アイドルの展開を女性アイドルが追従する、ということはよくあります。
宗像:男性アイドルのファンは、推しを変えないとか大金を一人につぎ込む傾向があるので、そこら辺は違うのかなとも思いますね。
ーーそれでは最後に、2020年のメジャーアイドルに期待することを教えてください。
宗像:真っ白なキャンバスが3月にメジャーデビューするのが、楽しみでしかないですね。2019年はアイドルシーンがシュリンクしたと、いろんなメディアがネガティブな要素ばかりを流していた。事実ではあるんだけど、多様性は失われていないと思うし、メジャーシーンにも新進気鋭のクリエイターがいっぱいていいなと思うんです。
ピロスエ:ヤなことそっとミュートが3月に、フィロのスも2020年にメジャーデビューするので、今年のアイドル楽曲大賞の顔ぶれもまた変わって面白くなるんじゃないかなと思います。
岡島:すでに今年メジャーデビューしているCY8ER、鶯籠に期待しています。
ガリバー:欅坂46はまた別のグループに生まれ変わっていくんだろうなと思います。センターには誰を据えるのか、今までの楽曲の世界観を引き継ぐのか、完全に路線転換を図るのか。内包的な部分で希望が持てるような、外向きに変わっていくことを願っています。あとは、AKB48グループの世代交代がどこまで進むのか。去年、センターに選ばれた矢作萌夏が卒業してしまい、2020年、新センターの山内瑞葵にその役割を背負わせるのかというところです。若手のリーダー、エースも出てきていますし、長く続いてきているグループの強さを見せてほしいですね。
(インディーズ編に続く)