ザ・チェインスモーカーズはなぜ日本でも絶大な支持を得られた? EDMの枠を超える“情感豊かな”歌詞から考察

 2017年のデビューアルバム『Memories...Do Not Open』が全米1位を獲得し、『第59回グラミー賞』では最優秀ダンス・レコーディング賞を受賞。3日間開催となった2019年の『SUMMER SONIC 2019』では、最終日となる8月18日のメインスタジアムのヘッドライナーを務めたことも記憶に新しい、アレックス・ポール、アンドリュー・タガートとマット・マグワイアによるプロデューサー・ユニット、The Chainsmokers。彼らが通算3作目となるアルバム『World War Joy』(国内盤)を2月19日にリリースした。

The Chainsmokers feat.新田真剣佑 「Closer (Tokyo Remix)」 (Short Video)

 今回のリリースに先立っては、俳優・新田真剣佑による日本語/英語を織り交ぜた彼らの代表曲「Closer」のカバー「Closer (Tokyo Remix)」が公開。Mayu Wakisakaが担当した原曲の世界観を丁寧に残した日本語詞を、スキルの高い感情豊かなボーカルで歌う姿が大きな話題となり、2月6日のMV公開以降、すでに690万回を超える再生回数(2月28日時点)を記録している。

 と同時に、このタイミングで日本語詞を聴いて、「The Chainsmokersの曲って、こんな歌詞だったの?!」と驚いた人もいるかもしれない。「Closer」は彼らがHalseyと共作し、全米シングルチャートで12週連続1位を記録したグループの代表曲。メガヒット曲を多数持つEDMユニットによるアンセムと聞くと、多くの人が想像するのは享楽的なパーティーの風景だろう。とはいえ、この曲の歌詞で描かれている風景は、それとは大きく異なっている。そして、このエモーショナルで切ない歌詞とメロディこそ、彼らの最大の魅力なのだ。

 「Closer」の基本的なテーマは、男女の視点でそれぞれに久々に出会ったかつての恋人とふたたび惹かれ合う様子を描くロマンティックなラブソング。とはいえ、ふいに登場する「君に買えるような車じゃないのは分かってる/(中略)シーツをめくると/昔君が盗んだマットレス」という歌詞が、離れてからのお互いの時間の経過や、どれだけ近づいても埋まらない現在の距離感を浮き上がらせている。そうした楽曲につけられた「Closer」というタイトルと、「僕たちはまだ変わってない」と言い聞かせるように歌われるサビのリフレインが、ちょっとした罪悪感とともに切ない気持ちを運ぶような楽曲になっている。この曲は、彼らが歌詞にも登場するBLINK-182を筆頭にしたエモ/パンク曲を聴き返していた際に、「よりむき出しの感情を出した曲を書きたい」と思って生まれたものだという。EDMシーンを代表するアンセムでありながら、その内容は非常にパーソナルなものになっている。

 実は「Closer」を筆頭に、彼らの楽曲の歌詞はいわゆるEDMアンセムのイメージとは大きくかけ離れたものになっている。たとえば、Coldplayとコラボレーションした「Something Just Like This」では、冒頭から小さい頃に憧れたヒーローの名前を次々に並べ、そんなスーパーヒーローにはなれなかったという喪失感と、「スーパーヒーローである必要はないのよ」と声をかける女性の視点が交錯する、感情の機微を綴ったものになっていた。

The Chainsmokers & Coldplay - Something Just Like This (Lyric)

 もちろん、それはパリでの恋人との思い出を回想する「Paris」や、デイヤがひたすらここにはいない「You(=あなた)」に向けての気持ちを歌う「Don’t Let Me Down」なども同様で、The Chainsmokersの楽曲には、とにかくフロアの様子が出てくるような歌詞がない。むしろ、日々の人間関係の中で生まれる感情のゆらぎをシンガーソングライター的に綴る歌詞が特徴的で、多くの場合はアンドリュー・タガートの実体験をもとに書かれている。

The Chainsmokers - Paris (Official Music Video)
The Chainsmokers - Don't Let Me Down ft. Daya (Official Music Video)

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