超歌手・大森靖子を形作る“カワイイ”とは何か MVやアートワーク、楽曲、衣装から考察
メジャーデビュー5周年イヤーを駆け抜けてきた超歌手・大森靖子。特にこの1年は、「超歌手5周年ハンドメイドミラクル5!」と題して、大森が敬愛する道重さゆみや峯田和伸(銀杏BOYZ)とのシングル作品リリースに始まり、キャリア初となる47都道府県ツアー、ストリング編成コンサート『真っ赤に染まったクリスマス』など、より一層精力的に活動してきた。そして、この企画の集大成として2月12日にベストアルバム『大森靖子』をリリースし、アニバーサリーイヤーを締めくくった。音楽活動を始動させた当時からその類稀なる表現力で、アンダーグラウンドからメインストリームまで歩みを進めてきた彼女だが、その表現の傍らには常に”カワイイ”が同居してきたように思う。彼女を形作る”カワイイ”とはなんなのか、「衣装」、「MV・アートワーク」、「楽曲」から紐解いてみよう。
まずは、衣装。長らく衣装を担当しているのは感情を綺麗に吐露し生まれるクリエイト、“嘔吐クチュール”をブランドコンセプトに置き、ハンドメイドニットを扱うブランド『縷縷夢兎(るるむう)』。大森の他にも、でんぱ組.incやZOCなどの衣装も手掛けている。デザイナー・東佳苗の作り出す『縷縷夢兎』の作品は、細かなディテールにこだわり、独創的なブランドの世界観をアイドルの個性に合わせて昇華させ、洋服に命を吹き込む。“間違いなくカワイイから大丈夫”と思わせ、自信に繋がっていき、単なる衣装ではなくたった一つの戦闘服になるのだ。大森の衣装は、ピンクや黒を基調として、ビジューやフリル、リボンなど“カワイイ”ものしか詰め込まれていない。その上で全体のバランスが緻密に練られており、合わせるアクセサリーなど小物使いまで楽しめるような一点物仕様になっている。作品をクリエイトするもの同士の想いと想いが重なり合い生まれた、100点満点の“カワイイ”自己武装=衣装を身に纏う大森は無双モードに拍車をかける。彼女の表現意欲の影には衣装がもたらすパワーはかなり大きいのではないだろうか。
また、MV・アートワークも徹底的に大森の世界観を具現化してきたように思う。例えば、初期から大森のスタッフを務めている二宮ユーキが生み出すMVには、刹那的な場面が映し出されていて、ふとした瞬間の“カワイイ”や気まぐれな女の子のキュートさが閉じ込められている。一人の人間が撮り続けてきたからこそ垣間見れる表情も存在していて、とても儚げに映るのだ。 さらに、ジャケット写真の背景画やメインビジュアル、舞台美術を手掛ける青柳カヲルも大森の世界観を具現化するキーマンだろう。毒々しく、鮮やかな色使いで、生っぽい質感など独創的な作品を生み出す青柳。今回のベストアルバムでも、44曲分のジャケット、特典として付属されているポスターファイルやFC盤ボックスなどの絵を担当している。それらに自らの個性、技術を駆使して”大森靖子”を咀嚼し、5年という歳月を絵の中に落とし込んだ。青柳はTwitter上で、「「CDに残す行為は自分を殺して埋葬しているような感覚」という大森さんの発言から5年分の思いを込めた可愛い棺桶を描きました」と大森への強い敬愛を感じるコメントを残している。アーティストの創作活動やその想いを汲みあげることで生まれた作品と言えるだろう。まさに愛と技術の結晶だ。“カワイイ”の中に想いを込め、血の通ったモノを生み出し続けるクリエイターに支えられ、大森靖子の世界観はより強化されていると考える。