友川カズキの日常から見える純粋で強い生き様 ドキュメンタリー映画から伝わる“人としての魅力”

友川カズキの日常から見える純粋で強い生き様

 友川氏は日常会話の端々にハッとさせられる名言が数多くある。映画タイトルであり友川氏の楽曲でもある「どこへ出しても恥かしい人」という言葉も、この映画を観て友川氏の人間性の一端に触れれば、身にしみて理解できるようになってくるだろう。

 作品中にも人々や息子との会話の中に無数の名言が出てくるが、友川氏は自らを「気が小さい」と表現する。その言葉を噛み締めながら映画を観ていると、日常会話が非常に詩的であるために「照れ隠しの方法として、様々なユーモアや名言で自らの思いを表現しているのではないか?」との思いに至った。ほとんどの友人関係を断ち、独りアパートで暮らしながら競輪と絵画を描くことに没頭する日常と、息子という家族の存在、ライブでのステージや外出時に会う人々との会話の全てに、芯が通った強靭な意志が感じられる。若い頃からその意志をまともに正面からぶつけて生きてきた経験により得た、孤独に自らを貫く「武器」のようなものが、友川氏のユーモアや名言の数々なのではないだろうか。

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 注意深くこの映画を観ていると、後ろ姿へのこだわりが感じられる。前述の二男との競輪場の姿もそうであるが、ライブでのアングルも後ろ姿のものがあり、代表曲である「生きてるって言ってみろ」の迫力が背中で感じられる貴重な映像は、一味違った生々しさと臨場感に溢れている。

 自宅のアパートの部屋で独り飯を食い「うんまい」と呟く後ろ姿や、ライブ会場へ向かう高円寺の商店街を歩いているシーン、絵を描くシーンでも後ろ姿からのアングルが多く観られる。孤独と情熱、他者の寂しささえも受け取ってしまう細やかな心と、いつも楽しくユーモア溢れるふざけた姿の全てが、友川氏の背中に表れていると感じざるを得ない。

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 たこ八郎氏との逸話や、ちあきなおみ氏との逸話。友人たちとの酒席や新宿ゴールデン街での酔宴。「部屋でギターを弾くことなどない」と言っていた友川氏が部屋でギターを弾く姿や、映画スタッフを家に招いたときの気遣い。独りアパートで暮らす姿を映した定点アングルなどのほかにも、競輪に興じているだけではない「生き様としてのギャンブラーの姿」がありありとこの映画に映し出され「ギャンブラーという人生はこれほどまでに魅力的なのか」と唸らされてしまう「人間・友川カズキ」の姿がこの映画に詰まっている。

 人間の生き方としてこれほど正しいことはない。しかし孤独に打ち克つ強靭な意志がなければ、正しさは実践できない。

 友川カズキが好きで良かった。

 どこへ出しても恥かしい人は、生きてると言っている。

■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST

『どこへ出しても恥かしい人』

■映画情報
『どこへ出しても恥かしい人』
2020年2月1日(土)より新宿K's cinemaにて公開!以降、全国順次公開予定

公式サイト

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