LEX、Kvi Baba、(sic)boy……SoundCloudで頭角を現した新世代ラッパーたち 彼らに共通する内省的な表現とは
三者三様の違いはあれど彼らに共通している内省的な表現はヒップホップに対してのステレオタイプな、いわゆるマッチョなイメージとは離れていることはここまででご理解いただけたのではないかと思うが、そこにある不安や焦り、孤独感などの内省表現は決して若さゆえのものだけではなく、彼らを取り巻く状況も反映されているようにも感じている。日本国内でSoundCloudがアーティストの収益源として現状ではほとんど寄与していないことだけでなく、各サブスクリプションサービスを通した配信でも安定した収入が得られるのはごく一部。楽曲制作が手軽に行えるようになり個人でそれを発信できるようになったことでたくさんの若いアーティストが現れているほか、少子高齢化の波や彼らの使う言語が基本的には日本語であることも作用しているのだろう。実際に彼らの持つ不安や焦りや孤独感はシリアスな問題を孕んでいる。
あるいは、彼らの中にある(LEXのように地元にクルーがいたとしても)フッドをレペゼンするというよりも内省的な表現を外に向けて発信していこうという意識は、こういった社会で同じように生きる若者たちとの“寄る辺のない”感覚の共有に繋がるのではないだろうか。そう考えると彼らの楽曲のメロウさもより多くの人に届けようという意思の現れにも思えてくる。日本中に散らばった、生まれ育った場所よりもSNSをはじめとしたインターネット上に居場所を見出した若者たちの心にそっと寄り添うことができるのは、同じようにネットから居場所を見つけ出した彼らの生み出す音楽だけなのかもしれない。
■高久大輝
93年生まれ。ライター。音楽メディア『TURN』編集部。