折坂悠太、日本のポップミュージックに起こる新しい波の鍵を握る 2020年さらなる活躍への期待

折坂悠太、2020年さらなる活躍への期待

 「シンガーソングライター同士というのは、親戚のような関係だから」

 折坂悠太がふと言っていた言葉が、記憶に強く残っている。

 去年の12月19日、場所は渋谷のWWWX。折坂悠太とカネコアヤノとのツーマンライブのMCで、両者の関係について語った言葉だった。二人は何年も前からのつながりで、お互いに認めあっていて、共演したことも何度もある。でも、シンガーソングライター同士がつるんだり、仲間として何かを一緒にやったりすることは、ほとんどない。だから、折坂悠太にとってカネコアヤノは、たまに会って、そのたびにちょっとずつ変わっていて、「最近、どう?」と聞きあったりする従姉妹のような存在なのだという。

 その感覚に、すごく腑に落ちるものがあった。

 というのも、「クラブシーン」や「バンドシーン」や「アイドルシーン」などという言葉が一般的に使われる他ジャンルの音楽に比べて、シンガーソングライターたちの「シーン」は、イメージしづらいものがあるから。

 シンガーソングライターというのは、基本的には「個」の表現だ。特に弾き語りだとそれが強く前面に出る。楽器ひとつ、身体ひとつで音楽を奏で、歌をうたう。だからこそ、それぞれのアーティストは基本的には独立独歩のスタンスと目線をもって活動する。互いに刺激を与え合ったり、共振したりすることはあっても、それらをひとくくりにするような場や状況は生まれづらい。

 ただ、そのことを踏まえても、折坂悠太はここ1〜2年でシンガーソングライターたちが日本のポップミュージックの現場に巻き起こしている新しい波のキーパーソンとも言える存在になっていると思う。卓越した音楽的感性と表現力を持った彼が、さまざまな歌い手たちと“親戚”の関係を結び、いわばハブのような象徴になっている気がする。

 特にそう感じたのが、昨年11月22日にヒューリックホール東京で行われた全国ツアー『折坂悠太のツーと言えばカー2019』の最終公演だった。

 ツアーでは青葉市子、イ・ラン、butajiが各公演に1人ずつゲストとして出演してきたが、この日はその3人に加え、のろしレコードの夜久一と松井文が参加。自身の楽曲だけでなく、青葉と折坂が共作した「百合の巣」やbutajiと折坂が共作した「トーチ」など創作を共にした新曲も披露していた。イ・ランと歌ったハン・ヨンエのカバー「調律」も、国境を超えた美しいハーモニーとして結実していた。

折坂悠太 오리사카 유타、イ・ラン 이랑 - 調律 조율 live recording at 漢江

 折坂悠太自身、2019年は大きな転機となった一年だっただろう。

 きっかけは、2018年10月にリリースされた2ndアルバム『平成』だった。それまでも弾き語りを軸に地に足をつけた音楽活動を繰り広げてきた彼だったが、「第11回CDショップ大賞2019」を受賞するなど、あの作品への評価が波紋のように広がっていったことが、一つの足がかりになった。

 浪曲や口上、ヨーデルなども取り入れ、ときに語り上げるように、ときに声を震わせ、独特の歌唱法を用いた歌の表現を見せる折坂悠太。リリースされた当初はフォークやブルースなどの伝統音楽、世界各地の民謡と通じ合うような作風に感じていた。しかしその一方で、彼自身は多くのインタビューで、フランク・オーシャン『Blonde』からの大きな影響を語っていた。最新の潮流を意識した上で、それをただ真似るのではなく、同じ目線に立つために自身の血肉や来歴を掘っていくような作品だった。今思えば、『平成』は、結果として2010年代を代表する作品となった『Blonde』への「日本からの最良の回答」とも言えるべきアルバムだったと思う。

折坂悠太 - 平成 (Official Music Video) / Yuta Orisaka - Heisei

 2019年3月には、新曲2曲を収録したシングル『抱擁』をリリース。ブラジル音楽の多層的なリズムとアンサンブルを取り入れた表題曲を筆頭に、深い音楽性の追求を見せていた。

折坂悠太 - 抱擁 / 櫂 (Official Music Video) / Yuta Orisaka - Houyo / Kai

 その一方で、昨年の折坂悠太は、タイアップにも意欲的に取り組んできた。2月にはノーリツのCMソングに起用され、同社製の住宅設備でお風呂が沸いたことを知らせるメロディをモチーフにした「湯気ひとすじ」も話題を呼んでいた。

NORITZ(ノーリツ)×折坂悠太ミュージックビデオ「湯気ひとすじ」

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