EMPiREが創り上げた独自性とライブの強さ avex制作スタッフの証言と共に2ndアルバムを紐解く
EMPiREが12月18日にリリースする2ndフルアルバム『the GREAT JOURNEY ALBUM』は、NOW EMPiREが加入し現体制となって初のアルバム。グループがこれまで持ち続けてきたオリジナリティと品格を掲げながら、さらなる強さを得て、新たなフェーズに突入したことを知らしめる作品だ。
シングル『RiGHT NOW』のリリース週、10月20日に渋谷WOMBにて突如開催された自主イベント『EMPiRE’S GREAT PARTY Vol. 0』は、VJとライティングを駆使したクラブ演出でこれからのEMPiREを予感させる内容であり、同時にリリース告知された今アルバムへの期待を高めるに相応しいものだった。そこで初披露されたリードトラック「Have it my way」のエッジィで攻撃力の高いトラックとアグレッシブなダンスを前に、「これが観たかったのだ」と強く膝を打った。
ノイジーなギターと打ち鳴らされるダンスビート、ビルドアップしていくエレクトロサウンドとディストーションの効いたボーカル。そのすべてが楽曲の構成要素としてコラージュされ散りばめれているようであり、ボーカルをあえて前に出さないミックスも相俟って、無機的であり実験要素を感じさせながら、スリリングなミステリアスさを醸し出している。
ゆがんだシンセサウンドが重なり蠢きながら怪しい雰囲気を作り出す「RiGHT NOW」。トラックのスピード感を抑制するように、なだらかな音使いの歌メロディと言葉遊びを駆使したキメが交錯しながらも、1曲通しての均一されたテンションを作り出し、キャッチーであるのになぜか掴みどころがないという、聴けば聴くほど異様なまでの強度を感じる怪曲である。だから、この流れに「Have it my way」のようなダンスチューンが来たことは自然に思えた。ただ、これほどまでに攻めた曲だったことは予想外でもあり、現在のEMPiREのポテンシャルをあらためて見せつけられた。
「Have it my way」はソリッドなリズムにけたたましく咆哮するラップ……と、洋楽的なヒップホップのプロダクトを強く感じる楽曲であるものの、次々ビシッとキマっていくボーカルリズムの気持ち良さは、よくいわれる“日本人離れしたリズム感”といった褒め言葉ではなく、“EMPiREならではのグルーヴ”によって生み出されていることに気づく。それは一般的に日本人が苦手とされる横ノリに、真摯に取り組んできたからこそ得たものだろう。
横ノリのグルーヴを持つ曲が多い1stアルバム『THE EMPiRE STRiKES START!!』の楽曲群は、ライブによって育ってきたと言っていい。加えて、NOW EMPiREの存在も大きいはず。10年以上のダンス経験を持つ彼女の加入以来、ステージのノリが変わっていったのは目にも明らかだった。手足の動きよりも体軸の使い方、全員が動きを揃えることよりも、もっと深いところにある心の統率力が高まったように思う。たとえば、「RiGHT NOW」MVでも確認できる、跳ねるように両手を開閉させるサビの振りは、ごく単純な動きであるに関わらず、奇抜でセクシー、ワイルドなのにエレガントなEMPiREのグルーヴを目で見て取れる部分だと思っている。これぞ、EMPiREのオリジナリティ、独自性である。
「独自性はグループの立ち上げ当初より強く意識してきました――」
そう語るのは、avexの篠崎純也氏。2017年のグループ立ち上げ「Project aW」から一貫してEMPiREの制作を担当してきた人物である。本稿の執筆に際し、いくつかの質問を投げたところ、丁寧に回答をいただいた。ここからは、BiSHも担当している篠崎氏のコメントを交えながら、より深く今作を紐解いていく。
「独自性の徹底と確立」と「ライブで強さを出せるアルバム」
「1stアルバムでは「FOR EXAMPLE??」のようなEDM的な曲や、「TOKYO MOONLiGHT」「Don’t tell me why」といった横ノリのグルーヴを持つ曲を制作してきましたが、よりライブでの強さを求める方向性として、今年リリースしたシングル「SUCCESS STORY」「RiGHT NOW」をはじめ、「Have it my way」「WE ARE THE WORLD」「NEW WORLD」など、ダイレクトに伝わりやすいダイナミズムやカタルシス、縦ノリのグルーヴを重視して制作を行いました」
「EMPiREの独自性の徹底と確立」と「ツアーに向け、ライブで強さを出せるアルバム」。この2つが今作において、徹底的にこだわったことだという。
「これまでかなりの数のライブを経験したことにより、グループのパフォーマンスの方向性やストロングポイントがだいぶ作れてきました。彼女たちのポテンシャルを発揮しやすい=ライブをより強く演出できること、だと思っています」
また、「WACKのお客さんが好きな“エモい”方向に安易に行かない」ことも強く意識していると語る。「ライブで強さを出す」、これは単に盛り上がりやすい曲というわけではないのだ。現にEMPiREは昨年9月のマイナビBLITZ赤坂でのワンマン以降、あえて定番曲を外したセットリスト、といった施策で数多くのイベントや対バンライブに出演してきた。その結果、どんなセットリストでもクオリティの高いライブを展開できるようになったのだ。先述の、独自のグルーヴもこうした中で生まれていったものだと思っている。そんなEMPiREであるから、「Have it my way」のような楽曲が生まれたのは必然なのかもしれない。
「松隈(ケンタ/SCRAMBLES、サウンドプロデューサー)さんに「Have it my way」をリード曲にする報告をした際には、「この曲はEMPiREにしかできないと思います」と言っておりました」
「WE ARE THE WORLD」の優美なサウンドスケープも魅力的だ。トラックに溶け込んだボーカルミックスも秀麗で、風光明媚な拡がりを感じさせながらどこかモノラルに寄せた音像は世界的なトレンドでもある。カセットテープでのリリースにこだわってきたEMPiREらしいところだ。
こうした独自性は音楽だけでなく、衣装やアートワーク、ライブ演出、プロモーションに至るまで多岐に渡っている。ワンマンライブでレーザー演出を入れたのはBiSHよりも早く、WACKグループの中でEMPiREが初とのことだ。