森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.178
井上陽水トリビュート、山下達郎、カーリングシトーンズ……卓越した技術&意外性に溢れたアイデアが楽しめる新作
寺岡呼人、奥田民生、斉藤和義、浜崎貴司、YO-KING、トータス松本らによる“新人”バンド・カーリングシトーンズの1stフルアルバム『氷上のならず者』。バンドの名前が“The Rolling Stones”のモジリであることからもわかるように(?)全員50代のメンバーたちが10代の頃から聴いていたであろう音楽、たとえばThe Beatles、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、サム・クック、Sly&Family Stoneなどへの愛情が、すべての楽曲にたっぷりと反映されている。誤解を恐れずに言うと、洋楽にハマった高校生が“俺もこんな感じでやってみたい!”とオリジナル曲を書き始める瞬間に似ているが、そこはもちろんキャリア豊富なミュージシャンとあって、人生の切なさ、楽しさ、虚しさをたっぷり含ませた、優れたポップソングに導いている。それぞれの活動とは一線を画す、バンドをやる楽しさ、曲を書くおもしろさがストレートに伝わることも本作の魅力だ。
先行配信曲「シャミナミ」「ジェニーハイラプソディー」、アイナ・ジ・エンド(BiSH)をフィーチャーした「不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH)」を含むジェニーハイの1stフルアルバム『ジェニーハイストーリー』。もともとはバラエティ番組『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)の知名度を上げるために始動したプロジェクト、つまりテレビ番組の企画モノだったわけだが、中嶋イッキュウ(Vo/tricot)、新垣隆(Key)、くっきー!(Ba)、小籔千豊(Dr)という異色すぎるメンバーのキャラと音楽的センスを的確に活かした川谷絵音(Gt/Vo)のプロデュースセンスにより、前衛性と大衆性を兼ね備えたポップアルバムを実現している。変拍子、ポリリズムを交えたアンサンブル、緻密に構築されたコード進行、起伏に富んだ(ときにトリッキーな)メロディなど、スリリングにしてポップな楽曲は、川谷のキャリアのなかでも最上位だと思う。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。