奥華子に聞く、時代を超えて愛され続けるラブソングが生まれた背景 「孤独だからこそ誰かと繋がりたいと思う」

奥華子のラブソングが愛され続ける理由

いちばん楽しいのは、キラーフレーズを思いついたとき

奥華子「奥華子 ALL TIME BEST」ダイジェスト映像

――では改めて、そんな奥さんの15年の集大成でもある今回のベスト盤について聞いていきたいのですが。今回のベスト盤は3つのディスクに分かれていて、それぞれ「花-HANA」、「空-SORA」、「月-TSUKI」と名付けられています。これは、どういうコンセプトで分けられているのでしょう?

奥:ベスト盤を作ることになったとき、とりあえず入れたいと思った曲を並べてみたら、40曲以上あったんですね(笑)。で、それを最初は、「ハッピーディスク」「失恋ディスク」「人生ディスク」みたいな感じで分けようと思ったんですけど、それで聴いてみたら、同じようなテイストの曲が並んでしまって一曲一曲が活きてこないし、もったいないなと思ってしまって。いろんなパターンを考えたんですけど、最初にお話しした「はなびら」という新曲の歌詞に、〈儚き愛しい日々〉っていうフレーズがあるんですね。

――最初に話した、映画『殺さない彼と死なない彼女』の主題歌ですね。

奥:そう。そういう内容の映画でもあるわけなんですけど、その曲のタイトルを決めるときに、「儚き愛しい日々の象徴って何だろう?」「あ、“はなびら”だ」って思ったんです。儚いからこそ愛おしいというか、散ってしまうからこそ美しいというか。で、その観点でベスト盤に入れようと思った曲たちを見ていったら、「あ、これは“花”だな」とか「この曲は、変わらずにあるものを歌っているから“空”だな」とか「闇があるからこそ見えるものを描いているから、これは“月”だな」とか、“花”、“空”、“月”の3つで分けていったら、代表曲もバラバラになって、すごくいい具合で分けられたんですよね。

――なるほど。

奥:もちろん、丸々全部の曲が、直接そのことを歌っていたりするわけではなく、歌詞のなかにそのワードが登場しない歌もあったりするんですけど……だから、テーマと言うよりも、ひとつの感じ方ですよね。私は、こういうふうに感じたっていう。それでいいのかなと思って、決めちゃいました。だから、新しいアルバムのように聴いてもらえたらいいですよね。きっと、一枚一枚が、コンセプトアルバムのように聴けるのではないかなと。

――先ほど話していたように、発表時期が違っていても、アレンジに統一感があるので、それぞれ違和感なく通して聴けますよね。

奥:そうなんです。それはやっぱりピアノがメインだからだと思います。弾き語りライブも全部ピアノでやっているから、それで成立するように、いつもアレンジを考えているんですよね。ピアノありきのアレンジというか。だから、そんなにアレンジもブレていないんです。あと、アレンジについては、そこまで野心的じゃないんですよね。このプロデューサーと一緒にやって、こういうアレンジにしてもらいたいとか、この楽器を使ったアレンジにしたいとか、そういうことは、あまり思ったことがないので。私の場合、それ以上にやっぱり歌詞に興味があるんですよね。他のアーティストの曲を聴くときも、歌詞ばっかり見ていますから。

――あくまでも歌詞が、その中心にあると。

奥:だから、歌うのが好きとか、演奏するのが好きとか、曲を作るのが好きとか、そういう感覚とはちょっと違うのかもしれないです。もちろん、どれも楽しいんですけど、いちばん楽しいのは、歌詞のキラーフレーズになるようなものを思いついたときなので。それを歌にして、みんなの前で披露して……だから、歌うのが楽しいっていうよりも、その曲を聴いて感動してくれている人を見て感動したい、安心したいという気持ちが大きいかも。そういう意味では、あんまりミュージシャンっぽくないのかもしれないです(笑)。

――(笑)。ただ、そのあたりが最初に言っていた「孤独について歌いたい」という思いと繋がってくるんじゃないですか?

奥:そうですね。だから、私にとって音楽だったり、歌うことっていうのは、あくまでも手段なのかもしれないです。その言葉を伝えるための手段として、メロディがあって、歌がある。そういう意味で、今回のベスト盤に入っている曲は、シングル曲だから、タイアップソングだからっていうことでは選んでなくて……自分がこの曲のこの歌詞を残したいとか、この歌詞をもっと知ってもらいたいとか、そういう曲もたくさん入っているんですよね。

ーーちなみに、先ほどの“キラーフレーズ”の話じゃないですけど、各盤からそれぞれ一曲、この歌詞のここが気に入っているみたいなものを、すぐに挙げられたりしますか?

奥:あ、自分のなかで「書けた!」って思えたものですか? いいですね(笑)。“花”ディスクだったら、「恋」という曲のなかにある〈好きになってくれる人だけを好きになれたらいいのに〉っていうフレーズですかね。これはTwitterとかでも、よく出てくるんですよ。この歌詞とともに「私、今、奥華子状態」とか、つぶやいてくれてたりします(笑)。

――(笑)。年齢や性別に関係ない、普遍的な願いではありますもんね。

奥:そう。で、“空”ディスクだったら、やっぱり「シンデレラ」の〈「別れよう」って言ったのは、「別れたくない」って言葉が聞きたかっただけなのに〉とか……あと、「魔法の人」の〈踏み出す未来も 忘れたいどんな過去も 人を思う力に変えてゆけるから〉っていうフレーズは、自分の曲のすべてのテーマになっているなって、いつも思っています。

――“月”ディスクのなかでは、どうでしょう?

奥:うーん、“月”のなかだったら、やっぱり「楔-くさび-」ですかね。この〈心を繋ぎ止められるものは約束じゃない 約束は自分への気休めなのだろうか…〉っていうフレーズは、「書けた!」って思えた歌詞ですね。

――歌詞の一部だけ抜き出すと、結構シリアスというか、その思いの濃さや切実さが感じられますね。でも、奥さんの声は、すごく軽やかだから、あんまり湿っぽくならずに聴けるところがある。

奥:それはよく言われます。声が明るいから、いいよねって。これでもし声が、すごく低かったり、歌い方が暗かったら、多分ドロドロした歌に聴こえるかもしれないです(笑)。でも、そう言っていただけるのは嬉しくて。さっきも言ったように、いちばん伝えたいのは、その“言葉”だったりするので。

――なるほど。ところで、今回のベスト盤に寄せて「これまでの活動に一区切りをつけるべく……」とコメントされていますが、このあとの予定は何か決まっているんですか? 特にライブやツアーの予定も入ってないようですし……。

奥:今年『KASUMISOU』という10枚目のアルバムを出して、そのツアーを回っていたときから思っていたんですけど、通常だったら、次はどういうシングルを出そうとか、どういうアルバムにしたいとか、漠然と考え始めるじゃないですか。それが今回は、自分のなかにまったくなくて……それを想像することができなかったんですね。なので、ここはちょっと一回立ち止まって、この15年のあいだにやってきたことを振り返って、その流れを一回止めてみようかなっていう気持ちになって。自分がこれから何をしたいのか、何を歌っていきたいのかっていうことを改めて知りたいなと。そのために一回、まっさらな状態になろうと思ったんですよね。

――ということは、今後の予定は、ホントに真っ白な感じなんですか?

奥:そうですね。これからどうなるのか、私にもわからないです(笑)。そういう状態になるのが、初めてなんですよね。だからこそ自分でもちょっと楽しみというか。ツアーの予定も入れてないので、ファンの方々は、ちょっと寂しいなって思ってくださるかもしれないですけど、別に音楽をやめるとか、そんなことは考えてないですし、とりあえず、まだ何も決めてないだけなので安心してもらえればと。でも、ここからどういう道に進もうと、きっとファンの方々は、「あ、そうなんだね」って思ってくれるんじゃないかなって。そういう信頼関係はあるんじゃないかと思っています。とにかく自分でも、これからどうなっていくのか、そしてどうしたいのか、ちょっと楽しみにしている感じなんですよね。

――なるほど。それでは、続報をお待ちしております。

奥:はい、よろしくお願いします(笑)。

(取材・文=麦倉正樹)

■関連情報
奥華子 ALL TIME BEST特設サイト
奥華子宣伝隊Twitterアカウント
「はなびら」配信

■フリーライブ情報
『奥華子 ALL TIME BEST」フリーライブ』ミニライブ&サイン会
11月24日(日)千葉県・ららぽーと柏の葉 センタープラザ
14時00分〜、詳しくは特設サイトにて

■リリース情報
『奥華子 ALL TIME BEST』
11月13日(水)発売

・通常盤(3CD)3,500円+税
・スペシャル盤(3CD+Blu-ray)【MV集(「はなびら」MVほか)、他オフショット映像等収録予定、特製スリーブ仕様】4,900円+税
・完全限定生産15th Anniversary 875BOX(3CD+Blu-ray+スペシャルフォトブック+オリジナルマルチスタンド+15周年記念奥華子バンダナ)8,750円+税

<収録内容>
『花-HANA』
01. はなびら(新曲)
02. プロポーズ
03. 初恋
04. 365日の花束
05. 年上の彼
06. 冬花火
07. 桜並木
08. スターチス
09. 恋つぼみ
10. 二人記念日
11. ガラスの花
12. 恋
13. ロスタイム
14. やさしい花

『空-SORA』
01. シンデレラ
02. ガーネット
03. 愛という宝物
04. 笑って笑って
05. 10年
06. 道
07. 魔法の人
08. 一番星
09. 逢いたいときに逢えない
10. 灯
11. 帰っておいで
12. Happydays
13. 遥か遠くに
14. 足跡
15. 自由のカメ

『月-TSUKI』
01. あなたに好きと言われたい
02. 透明傘
03. 泡沫
04. Rainyday
05. 変わらないもの
06. 窓辺
07. ピリオド
08. 愛してた
09. 楔
10. 青い部屋
11. トランプ
12. 白い足跡
13. 曖昧な唇
14. 恋の果て
15. 迷路

『MV集』
01. 魔法の人
02. 小さな星
03. ガーネット
04. 手紙
05. 初恋
06. シンデレラ
07. 冬花火
08. 楔
09. 花火
10. 君がくれた夏
11. キミの花
12. 最後のキス
13. 思い出になれ
14. 鞄の中のやきもち
15. はなびら

<先着店舗購入者特典(全形態対象)>
・一般店…奥華子デザイン缶バッジ
・Amazon…デカジャケット
※完全限定生産15th Anniversary 875BOXにはスペシャル盤&通常盤のデカジャケット各1枚、スペシャル盤と通常盤はそれぞれのデカジャケット

映画『殺さない彼と死なない彼女』オリジナル・サウンドトラック
11月13日(水)発売
2,000円+税
◇原作・世紀末書き下ろしイラストビジュアル仕様
◇収録楽曲 
・はなびら(Movie Ver.)
他、全23曲収録予定

<先着店舗購入特典>
・一般店…映画『殺さない彼と死なない彼女』オリジナルポストカード>
・Amazon…デカジャケット

<『奥華子 ALL TIME BEST』+映画『殺さない彼と死なない彼女』オリジナル・サウンドトラック連動特典>
・同時購入特典:チロ華子15周年デザインアクリルキーホルダー
※11月12日(火)PM23:59までの予約で必ず特典付与。それ以降はなくなり次第終了。

・早期予約抽選特典:ここでしか聞けない音楽制作裏話を語り尽くす!奥華子+小林啓一監督トークショー付き映画『殺さない彼と死なない彼女』試写会100名招待

日時:11月12日(火)18時開場/18時30分上映開始 (本編123分)(終了予定21時10分頃を予定)
場所:都内某所
予約応募締め切り:10月20日(日)23:59まで
当選発表:10月31日(木)より順次

詳細はオフィシャルサイトにて

■映画情報
『殺さない彼と死なない彼女』
11月15日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
予告編はこちら

<キャスト>
間宮祥太朗 桜井日奈子
恒松祐里 堀田真由 箭内夢菜 ゆうたろう 
金子大地 中尾暢樹/佐藤 玲 佐津川愛美/森口瑤子 

監督・脚本:小林啓一
原作:世紀末「殺さない彼と死なない彼女」(KADOKAWA刊) 
音楽:奥 華子/主題歌:「はなびら」 奥 華子(PONY CANYON)
製作:映画『殺さない彼と死なない彼女』製作委員会
制作プロダクション:マイケルギオン 配給:KADOKAWA/ポニーキャニオン
©2019映画『殺さない彼と死なない彼女』製作委員会
映画公式サイト

■関連リンク
奥華子Official HP
奥華子Official Twitter(@okuhanako)
奥華子Official BLOG

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