「SUBURBIA」インタビュー
BRIAN SHINSEKAIが改めて考える、音楽の魅力「色んな境界線の向こう側に連れて行ってくれる」
9月20日に公開となった映画『HELLO WORLD』の音楽を担当するプロジェクト“2027Sound”への参加で注目を集めているシンガーソングライター、BRIAN SHINSEKAI。2018年1月にニューウェイブやEDMを基調にしたコンセプチュアルなアルバム『Entrée』をリリースし、以降は配信限定で「Solace」やそのリミックス曲、「三角形のミュージック」や「ピクチャー・オブ・ユー」などをリリース。今年に入ってからは5月より「多国籍ポップ・ミュージック」をテーマにした連作シングルを発表。彼がその連作の最新版として、配信限定シングル「SUBURBIA」を完成させた。この楽曲は、レゲエ~ダンスホール的なビートに乗せて、〈サバービアの向こうで/踊ろう〉と歌うゆるやかなダンスチューン。そのうえで、じっくりと聴いていくと、彼らしい様々なアレンジのこだわりが顔を出すような楽曲になっている。「自分のやりたいことが見つかった」と語る彼に、今年の連作と最新シングル「SUBURBIA」に共通する今のモードを聞いた。(杉山仁)
「やりたいことが見つかった」という感覚
ーーBRIANさんは2019年に入ってから「多国籍ポップ・ミュージック」の連作をはじめていますが、これはもともとどんなきっかけではじまったものだったんですか?
BRIAN SHINSEKAI:2018年の1月にアルバム『Entrée』を出してから、自分の中で「これからどういう音楽を作っていこう?」ということを模索した時期があったんです。『Entrée』のときは、エレクトロにとらわれすぎていた部分があったんですが、僕はもともとロック出身ですし、ライブをする中でも、ライブ感が失われてしまったような気がして。そこで、リハビリ的に、僕の中のポップス感を出した「三角形のミュージック」などを、2018年にリリースしました。そうしたら、一気に目の前が開けたような感じがしたんです。自分の昔のことも思い出しつつ、それを『Entrée』の作風と融合させたようなものを作ったことで、一気にみなぎってきたというか。それで、「今の自分のスキルや年齢、積み重ねてきたものでどんなものを新しく作ったらいいだろう?」と考えたときに、僕は昔からアフロポップもたくさん聴いていたことを思い出したんですよ。ロックでも、Talking Headsが大好きでしたし、T.Rexにもそんな曲がありましたよね。それ以外にも、もちろん本場のアフロポップも色々と聴いていて。そういう要素にヒップホップの感覚も取り入れて、民族的な打楽器のようなアフロポップの要素も取り入れた、最新版の曲を作りたいと思うようになりました。そう考えていたら、するすると曲ができていったんです。なので、自分としては、「連作を作ろうと思った」というより、「やりたいことが見つかった」という感覚でした。
ーーなるほど。ライブでの体験も大きなきっかけとしてあったということですね。実際、「三角形のミュージック」は、とてもライブに映える楽曲になっていました。
BRIAN SHINSEKAI:ありがとうございます。あの曲は完全にライブを意識した曲でした。僕にとってはもともとあった引き出しの中から作った曲ですが、あれを作ったことで、「自分にとって新しい要素を使って、イチから曲を作っていく」ということに向けての方向性が、完全に見えた感覚があって。それを反映させたのが、今年の5月頃からリリースされている「WAIT」「ATTACHMENT」「TAIWAN」などの楽曲になっているんです。
ーーアフロポップというと、BRIANさんはどんな曲を聴いてきたんですか?
BRIAN SHINSEKAI:僕が音楽の魅力に目覚めたきっかけがニューミュージックのような音楽を知ったことだったんですけど、その中でも、たとえば井上陽水さんの曲のように、どこかその要素を取り入れたものにしっくりと来た感覚があって。アメリカのものをそのままやるというよりは、そこに日本的な要素を加えたり、イギリスやアメリカ以外の地域の要素が入ったりしているものに、自然と惹かれるような感覚が昔からありました。僕はLÄ-PPISCHもすごく好きですし、THE BOOMや平沢進さんの音楽も、聴いていてすごくしっくりと来た感覚があって。それで、ブラジル音楽やトルコ音楽のコンピレーションを聴きはじめたりしました。
ーー思えば『Entrée』のときも、ニューウェイブやEDMなどを基調にしつつも、そういったオリエンタルな要素が音楽にも歌詞の中にも登場していましたよね。
BRIAN SHINSEKAI:僕は音楽を作るときに日本に生まれた日本人であることを重視したくて、欧米のものでかっこいいものを見つけても、それをそのままやりたいとは思わないんです。音楽が、僕自身のパーソナルな要素とシンクロしてしまうので。それもあって、たとえば、YMOさんのように、海外の要素も取り入れながら、そのうえで日本的な要素も表現できるような人たちに惹かれます。たとえば、荒野に映えるエレクトロをかっこいいと思ったとしても、それを自分でやることには違和感があるというか。僕自身は、東京の下町で長く育ってきて、横浜の海の近くに住んだり、歌謡曲や演歌が好きなおじいちゃん/おばあちゃんの影響があったりするので、その全部を出さないとしっくりこなくて、結果的に、色んなものが混ざったものになるのかもしれません。
それはたとえば、ブラジル音楽のようなものも似ている部分があると思うんですよ。現地の母国語で歌っているために、素晴らしいアーティストでありながら、英語圏には伝わりづらくなったりもして、その感じにすごくシンパシーを覚える部分がありますし、それは、日本語詞の歌詞が海外では受け入れられづらいこととも、どこか似ていると思うので。実際に、言語が通じないために欧米では認知されていないけれども、日本にも素晴らしいアーティストはたくさんいますよね。そういう意味では、欧米の音楽よりも、僕はそれ以外の文化圏で生まれた音楽の方が、自分に近いものだと思っているような気がします。あとは、ゲーム音楽の影響も大きいと思います。たとえば、『ゼルダの伝説』の音楽には、アジアの音楽もケルトの音楽も入っていたので。今年リリースした「TAIWAN」にしても、『ゼルダの伝説』のサウンドトラックを聴きなおしたら、「もしかしたら無意識のうちに影響を受けているのかもな?」と、思った部分がありました。
ーー「WAIT」「ATTACHMENT」「TAIWAN」という形で続いてきた今年の5月からの連作曲を通して、改めて気づいたことはありましたか?
BRIAN SHINSEKAI:この3曲の中で、最初に作ったのは「WAIT」に続いて6月にリリースした「ATTACHMENT」だったんですけど、この曲ができたときに、自分の中で完全にオリジナルなものが作れたような感覚がありました。「これがBRIAN SHINSEKAIだな」と、自分でも思えたというか。やっぱり、僕はニューウェイブが好きで、ヒップホップ的な要素も馴染む感覚があってーー。結局、「ホットな音楽」が好きな人間なんだと思います。たとえば、ケンドリック・ラマーのライブって、めちゃくちゃかっこいいじゃないですか。クールでありつつも、同時に熱を感じるというか。そういうヒップホップ的なものや、アフロポップなども含めた熱を感じさせてくれる要素を加えたものを、自信のあるものとしてアウトプットすることができたのが連作を通しての大きな気づきだったと思います。でも、実は「ATTACHMENT」は(メロディに焦点を当てた)「ピクチャー・オブ・ユー」を出したばかりの頃にできたものだったので、どうしようとも思って。それで、そのときにオカモトレイジくん(OKAMOTO’S)に「ATTACHMENT」を送ってみたんです。そうしたら、「絶対にこっちの方がいいよ!」と言ってくれて。僕とレイジくんは10年以上前からの知り合いで、信頼もしているので、その彼に自分が似合っていると思う曲を、「似合っている」と思ってもらえたことで、自信が出た部分は大きかったと思います。
ーーその時点ですでに、オカモトレイジさん率いるOKAMOTO'Sが中心になって担当した映画『HELLO WORLD』の劇伴のためのプロジェクト、2027Soundの話はあったんですか?
BRIAN SHINSEKAI:まだ全然何の話もないときでした。でも、「ATTACHMENT」のときに、レイジくんにはアレンジの相談に乗ってもらっていて、ちょうどそのときに、レイジくんも『HELLO WORLD』の劇伴について、色々と考えていたそうなんですよ。そこで、メロディも書けるトラックメイカーとして、「BRIAN、どう?」という感じで声がかかりました。なので、「ATTACHMENT」の作業と2027Soundの作業は並行して行われていて、その2つの楽曲がお互いに影響を与え合って生まれていったような感覚があったと思います。
ーーオカモトレイジさんの存在は、今年の連作に大きな影響を与えていたんですね。
BRIAN SHINSEKAI:『Entrée』の頃は、「自分が好きなものと世間との接点はどんなものなんだろう?」ということを探りつつ作品を完成していったんですが、今回は自分の中でもEDMへの興味が落ち着いて、ヒップホップへの興味が出つつ、同時に世界的に流行っている裏ノリの音楽への興味もありつつという感じで、そこに自分が寄せていくというよりも、何も考えずに作った曲にもかかわらず、時代が自分の好きなものに合ってきた、という感覚がありました。ここ最近は、低音をがっつり聴かせるラッパーやシンガーの楽曲もヒットしていますけど、僕はもともと自分の声が低いということにも、コンプレックスを感じていたんです。でも、今は自分の曲と他の曲と混ぜてプレイリストを作っても、違和感がないように感じていて。そういう意味でも、今年リリースしている楽曲は、もしも2年前だったら、できていても世には出していなかったかもしれないです。
ーーなるほど。確かに、「WAIT」にはトラップのフロウを思わせる部分があったりもして、それがBRIANさんの低音が印象的なボーカルとも合っているように感じました。
BRIAN SHINSEKAI:ありがとうございます。そうやって、色々なことがいいタイミングで巡ってきたような感覚がありました。