THE ORAL CIGARETTESから9mm、cinema staffまで キャリア総括する作品をピックアップ
最後に紹介したいのが、cinema staffの『BEST OF THE SUPER CINEMA 2008-2011/2012-2019』。この作品は、インディーズ時代の楽曲から最新作までの、cinema staffの10年以上のキャリアを総括するオールタイムベストとなっている。先に触れた9mm Parabellum Bulletとcinema staffのインディーズ時代のレーベルは同じ、残響レコードだ。残響レコードといえば、一時期のバンドシーンに“残響系”なるムーブメントを作ったレコード会社である。今回、9mmはオリジナルアルバム、cinema staffはベストアルバムと二組の作品形態は違うものの、どちらも当時のイズムの継承を感じさせる。さて、cinema staffがリリースするベストアルバムの内2曲、「新世界」と「斜陽」は新曲となっている。どちらもポップなメロディを大事にする今のcinema staffのモードが反映されつつも、空間を塗り潰すような図太い音圧や、フレーズごとにリズムの打ち方を変える、“残響系”という名に相応しいサウンドメイクがそこかしこに垣間見られる。
ある程度キャリアを積むと、海外シーンなどでのトレンドの一つとも言える隙間のある音作りも踏まえ、大きくサウンドのあり方を変えるバンドが出てくる。THE ORAL CIGARETTESが、“脱ギターロック”に舵を切ったのも、そうしたトレンドと少なからず関係があるはずだ。一方、9mm Parabellum Bulletやcinema staffのように、ほとんど音の足し引きはせず“演奏レベルを上げること”で自身のサウンドを更新して、自分が思う“カッコいいサウンド”にこだわり続けるバンドもいる。そのスタンスは千差万別である。
始まりはメンバーだけで音を鳴らす、シンプルな“ロック”だったバンドも多いはずだ。しかし、5年や10年のスパンで、バンドが鳴らす音や取り入れる音楽性は変わることもある。一人のリスナーとして、そういう変化こそがある種バンド的だと感じる。人の感情が日々の生活で揺れ動くように、バンドの音楽も日々変化や成長を遂げるのだろう。
■ロッキン・ライフの中の人
大阪生まれ大阪育ち。ペンネームにあるのは自身が運営するブログ名から。人情派音楽アカウントと標榜しながら、音楽メディアやTwitterなどで音楽テキストを載せてます。