『undivided E.P.』インタビュー
cinema staff×アルカラの念願コラボ 飯田瑞規と稲村太佑が語る、リスペクトし合う2組の関係性
cinema staffが今年、CDデビュー10周年を迎える。それを記念し、アルカラとのスプリットEP『undivided E.P.』をリリースした。
cinema staffとアルカラといえば、今年のエイプリルフールにお互いのオフィシャルサイトにて、7人組バンド「アルカラcinema staff」名義で活動することを発表し、ファンをざわつかせたのも記憶に新しい。その真相は、両バンドの新曲や、お互いのカバー曲、そして両者ががっぷり組んで作り上げたコラボ曲が収録された、ファンにとっては夢のようなプレゼントだったというわけだ。
両者の出会いは2009年。東京・渋谷のライブハウスO-Crestで対バンしたのが初対面で、そこから10年かけてどんどん親交を深めていくことになる。たくさんのバンドが存在する中、両者がここまで意気投合し影響を受けあってきたのは、一体どうしてだったのだろうか。
今回は、cinema staffの飯田瑞規、アルカラの稲村太佑による「ボーカリスト対談」が実現。本作『undivided E.P.』制作中のエピソードはもちろん、お互いのバンドとしての魅力などについてざっくばらんに語り合ってもらった。(黒田隆憲)【※インタビュー最後にプレゼント情報あり】
アルカラと一緒にいるとものすごく前向きな気持ちになれる(飯田)
ーー2009年に初めて対バンをしたのが、最初の出会いだったそうですが、その時のお互いの印象ってどんなものでした?
飯田:それがですね、全然覚えてなくて……(笑)。
稲村:あははは。僕らは当時20代後半で、シネマはまだ学生だったんですよね。だから、ライブが終わってそのまま帰って次の日テスト? みたいな(笑)。
飯田:そうなんですよ。いつもみたいに打ち上げもせず。だからまともに喋ってない。
稲村:僕はめっちゃ話しかけたんですけどね、全然覚えてないらしいです(笑)。いやほんと、すげえバンドが出てきたなあって思いました。しかも、若くて勢いだけじゃなくて、歌が良いなって思ったんですよ。ものすごく複雑な変拍子を混ぜつつも、ちゃんと「歌モノ」として成立しているというか。だから、楽屋で彼に「弾き語りで歌謡曲とか歌ったら、また違う世界観が出せるんちゃう?」って言ったんですけどね。
飯田:あー! それか、覚えてる! というか思い出しました。この対談のおかげです! ありがとうございます。
稲村:(笑)。そこから時々顔を合わせたりしてたんですけど、2013年のcinema staff主催ライブにお招きいただいて、大阪と名古屋で打ち上げやってから一気に仲良くなりました。まるで、前世で出会ってたんじゃないか? っていうくらい意気投合しましたね。2014年には沖縄~台湾公演を一緒にやったし、僕らのデビュー15周年イベントにもゲストで出てもらった。そんな中で、ちょいちょい「何か一緒に作りたいね」っていう話をしていたんですよ。まあ、実際に動かすとなると、事務レベルで色々やらなアカンこともあるし、「なかなか難しいなあ」って感じだったんですけど。
ーーそれにしても、沢山のバンドがいる中、なぜこの2バンドがお互いに惹かれあったんでしょう?
稲村:うーん……そんなこと今まであまり考えたことなかったし、単なる飲み仲間としか思ってなかったな(笑)。僕らって、パッと聴いた時には割と素直な歌モノっぽいんだけど、よく聴くと演っていることはエグいっていう。詰め込んでいる内容がめちゃ濃くて。ミュージシャンだからこそ響き合える、深みのところに僕らもシネマもいるから意気投合したと思うんですよね。人間的な魅力はもちろん、音楽に向かう姿勢も含めて僕らは常にリスペクトしているんです。
飯田:僕らロックバンドとしての見せ方はかなり違うんですけど、根本的なところは似ているなって思うんですよね。楽曲を仕上げるときも、普通じゃ済まさないというか。必ずヒネくれた要素を入れるところなどはお互い共通しているのかなって。ヒネくれ者同士なんでしょうね(笑)。僕らメンバーとよく「楽曲の中にムダをなるべく多く入れよう」って話しているんですよ。
稲村:へええ!
飯田:もちろん僕らにとってはムダじゃないんですけど、普通に聴いたら「え、このアレンジいる?」っていう違和感を入れたくて。そこにこそオリジナリティが宿ると思うし、それってアルカラの音楽性にも感じる要素なんですよ。何より「ライブバンド」として、アルカラは最強なんです。例えばセットリストの組み方や、曲間のタイミング……。対バンするたび、いろんなことを盗ませてもらってますね。『ネコフェス』というサーキットイベントを神戸で主催して、毎回あれだけのバンドが集められるところも、「先輩バンド」として心から信頼できる。しかも一緒にいると、明るい気持ちになれるんですよ。何か新しいことを始めたいなと思っているとき、一緒にいるとものすごく前向きな気持ちになれる。それってすごく大切なことじゃないですか。
ーー好きな音楽の話とかはするんですか?
飯田:そういうこと何も知らないな……(笑)。何を聴いてますか?
稲村:結構、全般的になんでも聴いてるんだよね。全然マニアックじゃないし。ラジオで流れてて、「この曲、めっちゃええやん。誰の曲?」って聴いたら、全員が知っているくらいの大ヒット曲だったりして(笑)。昔からずっと聴いているのは戸川純とかかな。彼女はポップスとパンク、それからニューウェーブをミックスしたような楽曲を作っていて。聴くたびに「すげえなあ」って思う。
飯田:そうなんですね。僕はめっちゃ分かりやすくて、USインディとか聴いていますよ。辻(友貴:ギター)のタッピング奏法とかは、明らかにそこからの影響です。
ーーボーカリストとしては、お互いのことをどのように思っていますか?
飯田:バンドマンの中で一番上手いと思ってますね。センスから何からもうとんでもないです。しかも、それをあまり前面に打ち出さないというか。「そんなん、ええねん」みたいな感じでいるんですよね。ライブ終わった後に、「今日もボーカル、ほんっとにすごかったです」とか挨拶しに行っても、「嘘やろどーせ」みたいな感じで、全然真面目に取り合ってくれない。だからもう言うのやめたんですけど(笑)、エンターテイナーとしても本当に素晴らしいボーカリストだと思っていますね。
稲村:僕も同じように思ってる……って言うとウソくさくなりそうですが(笑)、もはや「飯田瑞規」というブランドですよね。唯一無二の楽器。今回コラボした「A.S.O.B.i」では、彼のボーカルを活かしたメロディを考えながら曲を作ったんですけど、実際に歌ってもらったら、期待以上だった。僕は彼の歌声を羨ましいとすら思っています。なんかね、セクシーなんですよ声が。それって長く音楽をやっていく上でめちゃめちゃ武器やなあって思います。
ーーでは、今回のスプリットシングルについてお聞きします。それぞれの新曲はどのように作ったのですか?
稲村:アルカラの新曲「サースティサースティサースティガール」は、たまたまシネマの先輩にあたる9mm Parabellum Bulletの滝(善充)が、僕らのサポートギターで入ってくれたツアーがあって、その時に「どうせやるなら新曲を作ろう」という話になったんです。その流れで作った曲ですね。
飯田:年末に一緒にライブをやって、その時に「サースティサースティサースティガール」を聴いて、イントロがもうズバ抜けてエッジの効いた曲だなと。「あの曲、きっとスプリットに入れてくれるだろう」と思って、僕らの新曲「first song(at the terminal)」も、イントロからめちゃめちゃ試行錯誤しましたね。
ーーお互いのカバー曲は、どうやって決めたのですか?
飯田:どの曲をカバーするかは内緒にしてたんですよ。マスタリングの段階まで知らなくて。やる曲に関しては、ものすごく悩みましたね。とにかく計算し尽くされたアレンジの曲ばかり。シネマがやりそうなアルカラの楽曲、という風に考えると、例えば「半径30cmの中を知らない」や「ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト」、「LET・IT・DIE」とか色々あったんですけど、アルカラを大好きなお客さんが、一瞬でわかる曲にしたくて。だとしたらお客さんの体にも刻み込まれているような昔の曲の方がいいかなと思ったんですよね。それで、あまりシネマがやりそうにない「チクショー」をあえて選んでみました。
ーーめちゃくちゃ凝りまくったアレンジですよね?
飯田:そうなんです。アルカラの過去の楽曲のフレーズをふんだんに盛り込んでいて。例えばイントロは「やるかやるかやるかだ」のリフだったりする。お客さんには、宝探しをする感覚で楽しんでもらえたら嬉しいですね。
稲村:「これでもか」と言わんばかりに盛り込まれてて。曲が終わったと見せかけて、また入れてくでしょう? マスタリングスタジオで聞いていて思わず「もうええって!」ってツッコんでしまいました(笑)。うちのベースの下上(貴弘)は、これ聞いて感動して泣いたそうですよ。いや、本当に愛が込められているなと。
ーーアルカラは、シネマの「great escape」をカバーしています。
稲村:僕らは逆に、歌が始まるまで「なんの曲やろ?」って思わせたかったし、始まっても「うわ、全然違うやん!」って驚かせつつ、この曲の良さをちゃんと活かしたアレンジを心がけましたね。後半はシネマの原曲をサンプリングして、本人登場みたいにしています。これは、『ものまね歌合戦』でモノマネ芸人が歌ってたら、途中から本人が出てきてビックリ! みたいな、そういう絵を想像しながら作りました(笑)。もちろん、原曲リスペクトの気持ちもあって、それを僕らなりにヒネくれた表現でやるとああなったんです。
飯田:聴かせてもらって、とにかく楽しかったですね。まず拍子を変えてきたのには驚いたし、サンプリングももちろんビックリした。アルカラのライブを観ていて思うのは、MCも含めてちょっとおちゃらけたところもありつつ、最終的にはしっかり泣かされるというか。締めるところはちゃんと締めてくれる真面目なところなんですよね。それがこの曲にも表れてるじゃないですか。色んな工夫があるし、ヴァイオリンを使っているのも流石だし。ヒネくれているのにちゃんとカタルシスがある、アルカラそのものだなって。それを自分たちの楽曲で感じられたのも嬉しかったです。