尾崎由香、結城萌子……ミュージシャンとのコラボで引き出される新たなカラー 最新作より考察

結城萌子『innocent moon』

 8月にEP『innocent moon』をリリースした結城萌子。彼女のことを初めて知る人もいるだろう。

結城萌子『innocent moon』

 もう一つ、綿めぐみという名前に覚えがある人はどれくらいいるだろうか。実は彼女は2014年に歌手としてデビューしている。当時の彼女は、小袋成彬が主軸となったレーベル・Tokyo Recordingsから綿めぐみとして作品をリリースしていた。

 2017年頃から活動が途切れてしまったが、「アニメに関わる仕事がしたい」と言い続けてきた彼女に昨今ようやく脚光が当たっている。今年1月に公開された劇場アニメ『あした世界が終わるとしても』で本格的に声優デビューを果たした後も、ゲーム作品などに出演しているのだ。

 そんな彼女の声色に期待をかけるのは音楽畑の人物が多い。シンガーとしての再デビューともいえる今作では、川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoro、独特な人、美的計画)が作詞作曲をすべて務め、Tom-H@ck、菅野よう子、ゲスの極み乙女。のメンバーであるちゃんMARI、そしてミト(クラムボン)が編曲を担当している。

 川谷の楽曲で特徴的なのは、平歌部分のメロディラインの起伏があまり大きくなく、一つの音符に対して複数個の言葉を詰め込むタイプの楽曲が多いことにあるだろう。今作においてみると「散々花嫁」でのAメロからサビへと一気に飛び込んでいく約1分間の展開や、「さよなら私の青春」での50秒あたりからサビが終わるまでのメロディラインなどに、川谷絵音節を見つけることができるのではないかと思う。

結城萌子 - 散々花嫁【Official Music Video】
結城萌子 – さよなら私の青春【Official Music Video】

 このような楽曲は、曲によって「語り」のような歌い口になる。川谷は自身のバンドの曲で、感情の起伏や一個人の思い移ろいを言葉巧みに象ってみせ、聴く者のシンパシーを誘ってみせる。一方結城の細い声色では、より独白的な色合いが強く響いてくる。シンガーソングライター川谷絵音のボキャブラリーと表現がそのまま生かされていることによって、歌手・結城萌子の作品として聴くことができるのだ。

 この色合いが顕著に出ているのは、ミトが編曲を務めた「元恋人よ」である。同曲はピアノと結城の歌声が軸となったバラードだ。途中から差し込まれるストリングスやスネアロールによって、沈痛な心象を独白していく歌声と物語を盛り上げていく。主張しすぎることなく、でも確実に、川谷のメロディと結城の声を引き立てたアレンジがされている。

 『innocent moon』というタイトルについて結城は「初めての作品なので、「まだ色が塗られてない状態の、真っ新なEPです」という意味と、「きっとこれからいろんな私が見られると思います」という意味も込めています」(参照)と語っている。尾崎の言葉とは少し異なるが、両者ともに「ここから様々に変化していく私を見てほしい」という点においては共通しているのではないかと思う。

 多くの参加者とともに多彩な楽曲を歌った尾崎由香、作詞作曲を同一人物に任せた結城萌子。楽曲数に違いはあれども、自身のカラーを探す旅を二人は始めたばかりだ。

■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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