THE ORAL CIGARETTESの妖艶さのルーツはどこにある? 山中拓也の存在感を軸に考察
凛として時雨や9mm Parabellum Bullet、the telephonesといった2000年代に台頭したバンドが影響を受けたバンドにX JAPANやLUNA SEAといういわゆるヴィジュアル系の黎明期を作り上げたバンドを挙げたことで、落ち込み気味だったヴィジュアル系は再評価され、上記3バンドは2015年に開催されたLUNA SEA主宰の『LUNATIC FEST. 2015』に出演し、憧れのバンドと共演することとなった。昨年リリースしたアルバム『Kisses and Kills』はオリコン1位を獲得、いまやアリーナクラスでワンマンを行うバンドにまで進化したTHE ORAL CIGARETTESも3年後に行われた同イベントに出演した。このバンドもまたヴィジュアル系に影響を受け、自らのフィルターを通し咀嚼し、その血を受け継いでいるバンドといえる。
その『LUNATIC FEST.2018』で登場するとすぐに「ずっと出たかったんです、このフェス!」と叫んだのがこのバンドでボーカルとギターを担当する山中拓也だ。山中は続けて「普段は別の界隈でライブをやっているんですけど、最初に聴いて育ったのがこっちの界隈(ヴィジュアル系)の音楽なんです。だから今の立ち位置にも若干の違和感を覚えつつなんですけど、俺らは俺らなりに少しでも間を取れる音楽をやっていきたいと思っています」と話すと、オーディエンスから大きな拍手を浴びていたのが印象に残っている。そう、彼らにも間違いなくヴィジュアル系の血が流れているのだ。
数年前に友人に「たまたま有線で流れてたかっこいい曲があって、ヴィジュアル系だと思うんだけど、なんてバンドか知らない?」と聞かれたことがある。言われてみればそう聴こえないこともない。ただ、音楽だけを切り取ればそこまでヴィジュアル系ということでもない。それがTHE ORAL CIGARETTESだった。キャッチーな単音のギターリフと疾走感のあるメロディ、そういったポイントだけを挙げると同郷であるヴィジュアル系バンド・MUCCと切磋琢磨するTHE BACK HORNだって、ヴィジュアル系をルーツに持つアルカラだってそうじゃないかと言われるかもしれないが、オーラルが持っているのはTHE BACK HORNのような男くささや力強さ、アルカラのような奇天烈に突き抜けるポップさではなく、どこか闇を感じさせる妖艶さなのだ。
やはりそれは山中の歌声によるものが大きい。彼らの楽曲を聴いてもらえばわかるが山中の歌声は低く、鼻にかかった独特の湿り気のある声を細かくビブラートさせて歌うのが特徴だ。このような歌声は彼らが出演するようなフェスなどではあまり聴かれることはない。これは彼自身5歳離れた兄の影響でL’Arc~en~Cielを聴いて音楽に目覚め、楽器を始めたと公言しているように彼のルーツによるものが大きいだろう。さらに山中の醸し出す妖艶さは歌声だけにとどまらず、不敵な表情の作り方や陰のある言葉の選び方をする歌詞を表現するために手をうまく使ったステージングなどにおいても同じことが言える。このヴィジュアル系の文脈ではごく当たり前に見られるものをヴィジュアル系ではない文脈に持ち込むことで他にない新しさとなり、今日のTHE ORAL CIGARETTESという唯一無二の存在になったのだろう。
ヴィジュアル系は音楽性を指すジャンルではないということはこれまでも語られていることだが、彼らが世界観を表現するためにするメイクと同じくらい重要な役割を担っているのが衣装だ。それはつまり、頭のてっぺんからつま先まで神経を行き届かせ、鳴らす音楽とメイクや衣装、その他の要素全てを総合芸術として表現しているということである。そう考えると、楽曲以外にも映像やファッションなどのバンドとしての魅せ方にもこだわり、バンドのファッションアイコンでもある山中のアティテュードもヴィジュアル系の文脈で培われたものなのかもしれない。そういった意味では同じくL’Arc~en~CielやDIR EN GREYといったバンドをルーツのひとつとして持ち、音楽性は違えど表現方法にこだわりを持つTHE NOVEMBERSも同じ血を引いているといえる。