みゆはん×コレサワ「恋人失格」特別対談 「曲が広まってくれることがいちばん嬉しい」

みゆはん×コレサワ「恋人失格」対談

 3月にリリースした、みゆはんのコラボレーションアルバム『闇鍋』に楽曲提供をしたコレサワ。もともと、みゆはんがコレサワの「たばこ」という曲が好きで、このアンサーソングとなる曲を書いてほしいと依頼してできたのが、「恋人失格」だ。「たばこ」自体、みゆはんはもちろん、多くの人に愛され、たくさんの歌い手にカバーされている曲。2017年のリリースから時を経て、その人気曲の雰囲気や美しさを損なうことなく、もうひとつの物語を書き上げる難しさはあったのか。また、みゆはんは、できあがった曲をどう表現しようと思ったのか。会うのは2度目というまだぎこちなさの残るふたりに、「恋人失格」についての話を聞いた。(吉羽さおり)

歌詞に「たばこ」を連想させる言葉が散りばめられていて(みゆはん)

ーーまずコレサワさんは、みゆはんさんから楽曲提供をしてほしいと話をもらって、どんなふうに曲を進めていこうと考えたのでしょう。

コレサワ:みゆはんちゃんがどういう子なのかわかった方が曲のイメージも湧くので、まずは一度お会いして、どういう曲がいいのかというお話を聞きました。

みゆはん:そのとき、わたしはもともとコレサワさんの「たばこ」が大好きで、コレサワさんにはぜひ「たばこ」のアンサーソングを書いてくださいってお願いしたんです。

コレサワ:「たばこ」の主人公のその後の曲、というのはじつは作ったことがあったんです。ーー誰にも聴かせていないですけどね。でも自分から「たばこ」のアンサーソングを書こうという発想はなかったし、曲にしがみついているみたいでイヤだったので。みゆはんちゃんから「たばこの相手の気持ちを歌った曲を書いてほしい」と言われたときは、戸惑いましたが、いいきっかけをもらえたなと思っています。

ーーもともと「たばこ」を書いていたときって、相手となる“君”の存在っていうのはコレサワさんの中ではリアルに動いている感じはあったんですか。

コレサワ:あったと思うんですけど、「たばこ」は書いた時からもう7、8年経っているので、あのときのわたしはいないから。ある意味他人の気持ちとして「たばこ」を聴いて書けたのかなというのは思いました。

ーー「たばこ」がどんなきっかけでできたか覚えていますか。

コレサワ:「たばこ」は、19、20歳くらいのときに書いたんですけど。それまでわたしは、ラブソングや恋愛ソングは一切なくて。ある人に「コレちゃんはラブソングがないから恋愛ものを書いてみたら?」って言われて、じゃあ、書いてみようかなって書いたのが「たばこ」だったんです。その当時のわたしの元彼が、たばこを吸ってたので(笑)。結構「たばこ」というワードはすぐに出てきたんですよね。

コレサワ「たばこ」【Music Video】

ーー自分の経験値も入っていたんですね。

コレサワ:そうですね、いつもは自分の経験と友達の話とかをいろいろと混ぜているんですけど、「たばこ」は書いてみたら? って言われたものだったので、自分が歌うというよりは、ただ失恋ソングを書いてみようという気持ちだったんです。自分自身をすべて投影するというより、提供するときの感覚に似ているのかなと思いますね。

ーー「たばこ」という曲は、女性が主人公だと思うんですが“僕”と“君”で書いていましたね。あの曲で、主語を僕としたのは何か理由があったんですか。

コレサワ:あれは……これをいうと夢がないかもしれないですけど、ただメロディに対して語呂がよかったというだけなんです。

みゆはん:そうだったんですね(笑)。

コレサワ:そのメロディにふた文字しか入らなかったので、“わたし”じゃおかしいなという。その頃サンボマスターさんに憧れていたので、“僕”って歌いたかった時期でもありますね(笑)。自分のなかでのブームだったんです。最近は“あたし”というワードで歌うことが多かったんですけど、「恋人失格」はみゆはんちゃんに歌ってもらうものだし、“僕”っていうのも似合いそうじゃないですか。男の子もカラオケで歌ってほしいなという気持ちもあったので、“僕”にしました。

ーーみゆはんさんは「恋人失格」という曲を聴いたときの率直な感想は?

コレサワ:それはぜひ聞きたいです、わたしも。

みゆはん:歌詞に「たばこ」を連想させる言葉が散りばめられていてーーその日デモを聴きながら帰ったんですけど、帰り道に大学があって大学生がたくさんいて。その帰り道のシチュエーションと曲の感じとが重なって、若い人たちの恋愛観がすごく出ているなって思ったら、泣きそうになってしまって。

コレサワ:よかった。マネージャーづたいに、気に入ってくれたという話はもちろん聞いていたんですけど、こうして実際に聞けて安心しました(笑)。

みゆはん:本当に素敵な曲です。

ーーそのデモはどんな形で収録されていたんですか。

みゆはん:アコギでの弾き語りでしたね。

コレサワ:アレンジはまだどうなるか決まっていなかったので、変にアレンジをつけるよりは歌とアコギだけのデモをお送りしました。

ーーそれを聴いたときに、みゆはんさんはサウンドについてもいろんな想像が湧いた感じですか。

みゆはん:アレンジ部分は、どう表現するかいちばん考えました。「恋人失格」の主人公が、まだ相手を引きずっている感じや涙をこらえている様子を表現するのに、弦が震えているような、ストリングスを入れたいなと。でもあまり音を入れすぎると盛大になってしまうので、最大でもカルテットまでかなと思ってカルテットを入れたり。あとはアウトロの後に、ピアノとギターだけになるんですけど。最後まで残っているギターは、相手が出て行ってしまって主人公がひとりになったところを表していたりと、自分なりに解釈してこの「恋人失格」を作っていきました。

ーーここでふたりの曲の書き方についても聞いていきたいのですが、コレサワさんは普段どんなふうに曲を作っていくのでしょうか。

コレサワ:わたしは降りてくるのを待つタイプです、「神様……」っていう。でも基本的に、曲とう◯こは一緒だと思っていて。わたしとみゆはんちゃんが同じニンジンを食べたとしても、同じう◯こは出ないんですよ。昨日食べたものや、一昨日食べたものや体調でも変わるじゃないですか。

みゆはん:ああ、そうですね。

コレサワ:同じものを見ていても、そこにそれまでの経験や今までに見たものが加わって出るっていう感じなので、出るの待ちなんです。いいのが出たらいいなって思ってます。

みゆはん:(笑)。

コレサワ:「恋人失格」はみゆはんちゃんと会った日の帰り道に、こういう曲にしようかな、サビはこういうことを言おうっていうのは、なんとなく出てきて。みゆはんちゃんと会って話してスルっと出てきたので、すごくいい排泄だったんじゃないかなって思いますね(笑)。だから自分も気に入る曲ができたし、誰と会ってもそうなるわけじゃないから。タイミングや何か、いろんなものが合っていたんだろうなと思いました。

ーーみゆはんさんの曲やキャラクターについてもリサーチしたんですか。

コレサワ:はい。でも曲を聴きすぎて似てもダメだからあまり聴かないようにしていたんです。だからボーカルや喋っている感じ、あと雰囲気はTwitterを見たりしたくらいですね。

ーーその印象で、どういう子だと思いましたか。

コレサワ:キャッチフレーズっていうんですかね、それが“コミュ障シンガーソングライター”みたいなやつで。

みゆはん:デビュー時そう言われてました(笑)。

コレサワ:人付き合いは苦手なのかなっていうイメージだったんですけど。会ったら普通に会話もできて。わたしも人見知りなタイプなので、わかるなあという感じはありましたね。初対面ってめっちゃ恥ずかしいんですよ。だけど、気持ちをちゃんと伝えようとしてくれたし、「たばこ」が好きだって言ってくれて、こういう曲を作ってほしいんだっていうのをちゃんと、スタッフからじゃなくて、みゆはんちゃんが言ってくれたので。それを受け止められたらいいなと思いました。

コレサワ

ーー“コミュ障シンガーソングライター”みゆはんさんとしては、今回コラボということで相手の方ときちんと会ってお話しようと、意を決して臨んだ感じですかね。

みゆはん:なかなか人と会って話すことが苦手だったので。これまで意図的に、そういう打ち合わせの場を避けていたんです。でもどうしても、大好きでお願いしたかった方なので、実際に話をして本当によかったなと思います。

コレサワ:どんなお客さんが多いんですかとか、普段どんな曲を聴くんですかとかもそのとき話したのかな。あとは音程、キーですね。どのくらい出るのかも聞いた気がする。今回の「恋人失格」はわたしの曲のなかでは、レンジが広めなんです。歌いづらくなかったですか。

みゆはん:大丈夫です。

コレサワ:よかった、それだけが心配でした。

ーー自分のレンジから外れたところでも曲を書くというのは、曲提供ならではですかね。

コレサワ:提供曲だからレンジを広くしようというわけではなかったんですけど、曲調的にキーが低くなってしまったんです。でもそこは音源を聴いて安心しました。わたしだったら多分、こういう歌い方はできないなと思ったし、何より声がいいなと思いました。今回の『闇鍋』というアルバムはいろんな楽曲があって、曲ごとに声の使い分けがされてるんですよね。声優さんもやってて、声のエフェクターがいっぱいあるのは、羨ましいなと思いましたね。わたしだったらレコーディングでエンジニアさんがいる時点で、これは歌えないなというくらいいろんなボーカルの曲があって。

ーーみゆはんさんはレコーディングも自分で、たったひとりで録るんですよね。

コレサワ:そうなんですか! 歌も?

みゆはん:はい、自分でレコーディングしてるんです。

コレサワ:それはいいですね。『闇鍋』ではTHE BACK HORNの菅波栄純さんが作っている「人間関係満腹中枢」とかすごく好きですけど、確かにあれは、エンジニアさんいたら歌えないですもん(笑)。

みゆはん:ひとりだったら何をやっても大丈夫なので(笑)。振り切ってやってます。

コレサワ:わたしは機材とかに無頓着で、面倒くさいんですよね。逆に、ひとりでやっているとこだわりすぎて、キリがなくできちゃうわけじゃないですか。

みゆはん:確かにそれはあります。何テイクも録っているうちに段々とわからなくなってくることもあって。Aメロだけで100テイクくらい録って、その中から編集して繋ぎ直したりもするんです。だから、結構大変で。

コレサワ:そういうのも全部やってるんだ、すごいな。わたしはあまり自分の声が好きじゃないなというときがあるんですけど。そういうときはつらくないですか。

みゆはん:そうなんですよね……。自分で録るとき、「恋人失格」もそうでしたけど、お手本としてコレサワちゃんのデモ音源を流して、確認もするんです。そうなるとコレサワちゃんの声と比べちゃって、こんなかわいい声は出せないなって、ヘコんだりしちゃうんです。

コレサワ:どうしても比べちゃうよね。それでもひとりで向き合ってやるというのは、みんなができることじゃないなと思いますね。

みゆはん

ーーみゆはんさんは、曲によって演じている部分というのはありますか。

みゆはん:今回のアルバム『闇鍋』以前は曲を提供してもらったことがなかったので、初めての挑戦で。自分なりに曲のキャラを作り上げて演じてみるのも面白いなと感じていますね。楽曲提供をしてもらうというのは成長できる場になるというか、いい経験になったなと思っています。

ーー難しかった歌はありますか。

みゆはん:「恋人失格」は難しかったんですよ。この曲は男の人が主人公の歌で、それまで自分はかわいい感じの声で歌ってきたので、低めの、男の子っぽい声を出そうというのは初めての挑戦で難しかったです。

コレサワ:Aメロとかの、ミドルっぽい響きも良かったですよ。すごく合うと思います。

みゆはん:よかった。嬉しいです。

コレサワ:人が作った曲って難しくないですか。

みゆはん:めちゃくちゃ難しかったです。

コレサワ:それで一枚アルバムを作るというのは、ボーカリストとして燃えるというか、歌ってやるぜってなると思うんですよね。わたしも、全部提供曲でとなったらどんな感じになるのかなっていうのは、興味がありますね。

みゆはん:でもこうして楽曲提供を受けると、どうしても提供してくれたアーティストさんと比べられちゃうんじゃないかなって思うんです。それもちょっと怖くて。

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