ボカロ曲の最新トレンドは孤独な歌詞とローテンポな曲調? 「ヲズワルド」「乙女解剖」などを分析

DECO*27「乙女解剖」

DECO*27 - 乙女解剖 feat. 初音ミク

 ラストに紹介するのは、ボカロP・DECO*27が、2019年1月18日に投稿し、現在YouTubeにおける動画再生回数が633万回(5月21日現在)を突破した「乙女解剖」。同曲を巡るリレーをおこなっているかのように、まふまふや、luz、96猫、Souなどの幅広い人気歌い手がこぞって“歌ってみた”動画を投稿していることから、いかに爆発的な人気を呼び起こしている曲かは明らかだろう。中でも興味深いのは、__(アンダーバー)、S!Nなどが、“歌ってみた”の手書きMVを投稿し、話題を呼んでいること。癖の強い内容だけに、創作意欲が湧いてくるのだろう。歌詞に注目すると、自信過剰な乙女が好意を寄せる男性に一方的に近付き、孤独な心情が表れる点では、煮ル果実の「ヲズワルド」、syudouの「ビターチョコデコレーション」と共通している。しかし、同じ孤独でも、〈病事も全部 /君のもとへ添付 /ツライことほど分け合いたいじゃない〉や、サビの〈恥をしたい/痛いくらいが良いんだって知った〉からもわかるように、自分本位で個性的なアッパー系の人物像が描かれていることにこの曲の特異性がある。

ボカロ曲はよりローテンポな曲調に

 前述の3曲に共通するのは、2008年にcosMo@暴走Pが投稿した「初音ミクの消失」のような、初音ミクなどのボーカロイドに歌わせることを意図したBPMの高いハイテンポなものではなく、比較的ローテンポな曲調であること。ボカロPのみならず、シンガーソングライターとしても活動する須田景凪がバルーンとして投稿した「シャルル」(2016年10月12日)や、神山羊が有機酸として投稿した「カトラリー」(2017年12月25日)といった楽曲などを中心として、シーン全体には以前よりも落ち着いた曲の流れができあがった。2007年当初のボカロ曲に対するイメージが徐々に変化していると言えるだろう。

 様々な“孤独”を表現しつつも、謎を含むリリックと、以前よりもテンポがゆったりとし、どこか影のある曲調が、ボカロシーンにおけるトレンドになってきている。こうした楽曲の登場によって、これまでボカロに親しんでこなかったより幅広い層にも楽曲が認知されていくかもしれない。

■小町 碧音
1991年生まれ。歌い手、邦楽ロックを得意とする音楽メインのフリーライター。高校生の頃から気になったアーティストのライブにはよく足を運んでます。『Real Sound』『BASS ON TOP』『UtaTen』などに寄稿。
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