『ピアノの森』が示した、クラシック音楽の新しい形 反田恭平、牛牛ら手掛けたサントラを読み解く
クラシックを題材にしたTVアニメ『ピアノの森』(NHK総合)のサントラが、日本コロムビアより3月から4月にかけてリリースされている。『ピアノの森』は、一色まこと原作によるコミックをアニメ化したもの。NHK総合にて第1シリーズが2018年4月から7月にかけて放送され、第2シリーズが2019年1月から放送開始、4月14日に最終回を迎えた。
主人公の一ノ瀬海(カイ)は、天才的なピアノの才能を持ちながらも複雑な家庭環境で育ち、森に打ち捨てられていたピアノ(森のピアノ)をいつもおもちゃ代わりに弾いていた。ある日カイの通う小学校に、世界的なピアニストを父に持つ雨宮修平が転校生として現れる。親友となった雨宮との交流を通してピアニストとして成長していくカイ。やがてショパン・コンクールに挑戦、見事優勝を果たし世界へと羽ばたいていくストーリーである。
原作コミックは、今から21年前に連載スタートし、2015年に終了した。主人公を始め、登場する人物は皆それぞれの「葛藤」や「苦悩」を抱えており、ピアノを通して出会った人々との交流の中で乗り越えていく。そんなストーリーや人物描写は、現代において、少しも色あせることなく観る者の心に強く響くのだ。
そんなTVアニメ版の「鍵」を握っていたのは「音楽」だった。なぜなら劇中で流れるピアノ演奏を担当したのが、国内外で活躍する気鋭のピアニストたちだったのである。
主人公カイの師である音楽教師、阿字野壮介のピアノは、反田恭平が担当。2015年に20歳でデビューアルバム『リスト』をリリースした反田は、その並外れた実力はもちろん、サッカー少年からピアニストへと転向するなど、いわゆる「エリート教育」を受けずにピアノをマスターした経歴から、「クラシック界の若き異端児」としてその名を轟かせた。
カイの親友でありライバルでもある雨宮修平のピアノは、現在26歳の髙木竜馬が担当。2歳からピアノをはじめ、渋谷幕張高校在学中にウィーン国立音楽大学コンサートピアノ科に首席合格し、現在はウィーン国立音楽大学に在籍する実力派。さらに同作のクライマックスである「ショパン・コンクール」に参加した中国人パン ウェイのピアノは、現在21歳の牛牛(ニュウニュウ)が担当。中国の福建省アモイに生まれた彼は、3歳で初心者用の楽譜を1冊丸ごと弾き両親を驚かせるなど、早くから才能の片鱗を見せる。6歳のときには聴衆1000人の前でデビューリサイタルを行い、わずか8歳で上海音楽学院の中等部に入学。イギリスのチャールズ皇太子からもお墨付きをもらうなど、海外で若き才能を遺憾無く発揮しているピアニストのひとりだ。
他にも、ショパン・コンクールの参加者であるポーランド人のピアニスト、レフ・シマノフスキをシモン・ネーリング、才色兼備のピアニスト、ソフィ・オルメッソンをジュリエット・ジュルノーが担当。キャラクターの国籍にあわせて演奏者をキャスティングするなど、作り手側の作品愛を感じる細部へのこだわりは原作/アニメファンの期待に十分応えたと言えるし、その豪華なピアニストの面々にはクラシックファンからも歓喜の声が上がっていた。なお、主人公カイの奏者に関しては、非公表となっている。