『ポラリス』インタビュー
Base Ball Bear、新レーベル設立と今後のビジョン スリーピースの熱量詰まった『ポラリス』語る
説明できないものとして歌詞にすることを初めて自分に許してみた
ーー新作の話に戻すと、これ、曲順が逆でも成立するとも思うんですよね。「ポラリス」1曲目で、「PARK」が2曲目とか。
小出:そうだね。だってタイトル曲が4曲目だからね。
ーーその意図はなんだったの?
小出:なんだろうね? でも、自然と。エンディング曲は「ポラリス」だなって。最初からそのつもりでした。
ーー「ポラリス」はバンドアンセムじゃないですか、言うなれば。
小出:バンドのテーマソングですよね。
ーーこういう曲を今作ろうって思えるってことだもんね。数年前だったらありえないわけじゃん?
小出:ありえないですよね。
ーーバンドのことを歌うっていう、もしかしたら小出くんは一番そういうのを嫌がってたっていうか。
小出:そうかもしれないですね。実際、どういう歌詞にするべきか最初から悩んでいて。メンバー3人で歌ってそれぞれソロ回しがあるというのは決まっていたんだけど、何を歌えばいいのかわからなかった。メンバー紹介的な内容の歌詞を乗せた曲ってあるじゃないですか。アイドルソングとかザラにあるから。
ーーラップのマイクリレーも然りね。
小出:そうそう。17年バンドをやってるおじさんとおばさんで、そういう歌詞を歌うの気持ち悪いなって最初は思って(笑)。
ーーでも、ずっとバンドのことを追いかけてるファンの人は泣いちゃうだろうね。
小出:かもね(笑)。でも、自分としては面白い曲として書いたんですよ。
ーー“3縛り”で歌詞を構築したり。
小出:そうそう。
ーーKREVA氏の「挑め」という曲、知ってる?
小出:曲は知ってるけど、歌詞はしっかり知らない。
ーーあの曲は逆に3を言わないって歌詞なんだよね。
小出:なるほどね!
ーーたとえば〈俺は東京事変より能動的〉っていうフレーズがあったり。能動的だけど3分間って言わないとか。
小出:ああ、なるほどね! 3って絶対に言わないんだ。発想が近いね。「ポラリス」も4だったらできない曲ですね。パート分けも難しくなってくるし。あと、ウチのバンドのロゴが最初から三角形だったっていう。だからこのタイミングでまたこういうジャケができるしね。
ーー歌詞のトピックに関しては「試される」は推理小説的な視点に現代社会批評を重ねていくような視点だし、「PARK」も社会風刺的な筆致で、「ポラリス」はバンドの歌。で、2曲目「Flame」は少年から成人になっていく上で覚える喪失を引き連れて生きてくというような、歌詞として受け止めたんですけど。
小出:歌詞の全体の束としてこういうことを書こうというよりも、それぞれの曲でどういうことを言ったら似合うかなというところから始まってるから。
ーーまぁ、それもEPだからこそできることだよね。
小出:うん。「試される」に関しては、最初のプリプロのときからサビだけは〈試される〉って歌っていて。そのフレーズが強いなって思ったからそのまま活かそうと。リスナーも一発で覚えられるだろうなと思ったし。「じゃあ何に試されてるのかな?」「一番試されてる状況ってなんだろう?」って考えたら、たまたま旅行で行った館で殺人事件が起きて、そこに閉じ込められてなんか知らないけど連絡船が来ない、電話線も何者かに切断されてるという状況が浮かんで。
ーーなんでだよ(笑)。
小出:「絶対にこの中の誰かが犯人だ! じっちゃんの名にかけて!」っていう状況が一番試されてるよなって。
一同 (笑)。
小出:で、「今、生きているうえで本当に試されてることはなんだろう? って考えたら、「そもそも今この日本で生きてること自体がが試されてるんですけど~~」って思ったというね。
ーーってことですよね。
小出:「いや、フィクションじゃなくて!」という話を2番の歌詞でしていて。3番で自分が守らねばと思っていたヒロインが犯人だったパターンだったときに、いよいよそこまで自分が守ってきた価値観が揺らぐのが一番試されるじゃんという。虚構から、現実に。そしてさらにその両方を兼ね備えた3番へみたいな。
ーー「PARK」はラップだからこそ言えるワードを時代に対してぶつけていると思うんですけど。デモの段階でサビで〈試される〉ってワードが出ていたということは潜在意識がそう言わせてるのかなとも思うのね。
小出:あると思う。だから、ポロッとアンガーってことですよね。わりと腹立ってる、ずっと。
ーーそういうことですよね。
小出:「PARK」に関しては、Drum Gorilla Park Recordsというレーベル名が 先に決まってたんですよ。それで「PARK」の歌詞の内容を詰めている時に“Gorilla Park”というものがそもそも動物の公園だなと思って。それで、動物の比喩の曲を書こうと思って。寓話っぽい感じで、いろんな動物が出てくる歌詞の中で怒ってみようと(笑)。マテリアルクラブを経て自分の中にラップという武器ができたのも大きいですよね。
ーー〈僕はクラブ活動で知ったって 自分というキメラ〉というフレーズもマテリアルクラブからBase Ball Bearに対するアンサーを自分でしているというか。
小出:そう、これは「00文法」から引用しました。自分から自分へのパスということで。
ーー総じて歌詞のアプローチにおいて新しい切り口がまた生まれたという感じですよね。
小出:そうなんですよね。「Flame」も僕的にはそうなんですよ。ざっくりしたテーマは、イニシエーションなんですけど。通過儀礼。「っていうか、一生通過儀礼じゃん!」と思って。
ーー人生という終わりなき通過儀礼ね。
小出:そう。たとえば、失恋や家族との死別とかもそう。そういう経験を重ねて大人になっていくと仮定するのであれば、これって一生続く通過儀礼のようだなと思って。死んだときに通過することが終わるーーという視点から書き始めたんですけど、これって言葉で説明するのがすごく難しいんですよね。感覚的なことだなと思うから。僕はやっぱりどこかで作詞するうえでストーリーテリングしたがるし、一から百まで説明できる歌詞に落とし込むとすごい限定的な話になってしまう。ある物語における話になっちゃうというか。でも、そうじゃなくて、「Flame」の歌詞では自分でも説明できない感覚を、そのまま説明できないものとして歌詞にするということを初めて自分に許してみたんです。だから、この歌詞のことを百で説明できないんですよね。7~8割は自分でも何でこういうふうに書いたのかなと理解できる部分もあるけど、残りは今後「Flame」を歌っていくことで見つけていこうかなと思ってます。
ーーなるほど。ファンの人はスリーピースになったときの心情を踏まえてこれからのことを歌ってると受け止める人もいるだろうしね。
小出:そういうふうに捉えるのも間違いじゃないと思うし。明確に自分でも正解を持ってないから。逆にそれですとも思わないっていう。でも、それが本来的には歌っぽい歌詞なんじゃないかなと思って。言偏に寺と書いて詩というか、ポエム。そういう筆致でやっと書けましたね。だけど比喩としては全体的に火にまつわることを書いてる。最初のサプライズもね、最後まで読むと誕生日サプライズに引っかかってるという。〈死神〉もそうです。これは落語ネタですけど。本作は2つ落語ネタがありますから。
ーー「ポラリス」の歌い出しの〈志ん朝の三枚起請を聴きながら〉ね。これもすごくいい歌だしだなと思った。
小出:志ん朝も、三代目古今亭志ん朝ですから。
ーーああ(笑)。そこでも“3”を言ってないっていうね。
ーー粋だなぁ。
小出:粋ですよ。江戸っ子なんで(笑)。
ーーそうですね。この4曲を経てここからどういうことを歌っていきたいかというテーマは見えてきたんですか?
小出:これから?
ーーそう、アルバムに向けてとか。いつもわりとそこに悩むじゃない?
小出:でも、マテリアルクラブを経て言葉ともっと戯れたいみたいな気持ちになってる。それもあって、リミットを解除した部分が何個もあるんですよ。固有名詞を解禁したこともそう。それによって描けるリリックの幅はハンパなく広がったんですね。
ーースリーピースのミニマムなサウンドの中で響く言葉の強さや相性というのもありますよね。
小出:あるある。
ーースリーピースのほうが固有名詞がより響くというか。
小出:うん、それはあると思いますね。あとは、さっき言った「Flame」のように自分のまだ解決してない気持ちっていうのをまとめていいんだって思えてるから。これ、星野源さんの言葉を借りるのであれば思ってる中で一番近い言葉がこれかなってチョイスを僕は「Flame」でやっていて、これがありならもっとやれるわって。
ーーじゃあ今後はリラックスして歌詞を書けそうな予感もある?
小出:うん、リラックスできてると思いますね。
ーーそれめちゃくちゃデカいじゃないですか。
小出:めちゃくちゃデカいです(笑)。たとえば、青春感みたいなのは「ポラリス」を聴いてもらえばわかる通り、もうどうしても出ちゃうものなので。作為的に書かなくても出ちゃうもんだから。
ーーどんな服を着ても、どんな髪型にしても顔は変わらないみたいなもんだよね。
小出:そうかもね。バンドの佇まいにもそれは帯びるし、どうしても消せないので。そこは引き連れて行こうと思ってます。そのうえで問題が解決してないなりの機微というものを書いていけたらなと思ってますね。
ーー今、新曲のデモとか作ってるんですか?
小出:作ってません(キッパリ)。でも、すぐ制作を進めると思います。あとは関根さんが作ってくれるし(笑)。
関根:作ります(笑)。
堀之内:頼もしい(笑)。
(取材・文=三宅正一)
■リリース情報
Base Ball Bear EP『ポラリス』
5,000セット限定生産
1月30日(水)発売
価格:¥3,500+税
<収録曲>
・DISC1「ポラリス EP」
1.試される
2.Flame
3.ポラリス
4.PARK
・DISC2「日比谷ノンフィクションVII」
1. The Cut -feat. RHYMESTER-
2. LOVE MATHEMATICS
3. 君はノンフィクション
4. SHINE
5. Tabibito In The Dark
6. yoakemae
7. ドラマチック
8. 祭りのあと
9. 17才(17th Ver.) – Bonus Track
■ツアースケジュール
Base Ball Bear「LIVE IN LIVE〜17才から17年やってますツアー〜」
2月3日(日)広島県 広島CAVE-BE
開場16:30/開演17:00
2月10日(日)宮城県 仙台Rensa
開場16:30/開演17:00
2月11日(祝・月)岩手県 盛岡CLUB CHANGE WAVE
開場16:30/17:00
2月16日(土)静岡県 静岡UMBER
開場16:30/開演17:00
2月17日(日)大阪府 なんばHatch
開場16:00/開演17:00
2月23日(土)北海道 札幌PENNY LANE 24
開場16:30/開演17:00
2月24日(日)北海道 帯広Rest
開場16:30/開演17:00
3月2日(土)石川県 金沢AZ
開場16:30/開演17:00
3月3日(日)新潟県 新潟LOTS
開場16:30/開演17:00
3月9日(土)岡山県 岡山IMAGE
開場16:30/開演17:00
3月10日(日)愛知県 名古屋DIAMOND HALL
開場16:00/開演17:00
3月15日(金)東京都 Zepp Diver City
開場18:00/開演19:00
3月23日(土)福岡県 福岡DRUM LOGOS
開場16:15/開演17:00
3月24日(日)鹿児島県 鹿児島SR HALL
開場16:30/開演17:00
4月6日(土)埼玉県 HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3
開場16:30/開演17:00
4月7日(日)茨城県 水戸LIGHT HOUSE
開場16:30/開演17:00
4月11日(木)京都府 京都磔磔
開場18:00/開演18:30
4月13日(土)香川県 高松DIME
開場16:30/開演17:00
チケット:料金スタンディング¥4,500(税込/1D代別)
※3歳以上チケット必要