『第7回アイドル楽曲大賞2018』アフタートーク(インディーズ編)
2018年は実りの多い年だったーーアイドル評論家4氏が語る、インディーズシーンに芽吹く新たな文化
ピロスエ氏、岡島紳士氏、宗像明将氏、ガリバー氏による、5年連続となる『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会の後編。前編(オサカナ躍進、けやき坂46への期待、ベビレ解散…『アイドル楽曲大賞』激動の2018年を振り返る)ではメジャーアイドルのランキングからシーンの現在について語ってもらったが、後編ではインディーズアイドル部門の結果から、2018年、そして2019年のアイドルシーンについて話を聞いた。(渡辺彰浩)
「ライブ・ライフ」は多くの人に訴えるものがあった
ーーインディーズは、フィロソフィーのダンスが1位「ライブ・ライフ」、3位「イッツ・マイ・ターン」、9位「ダンス・ファウンダー (リ・ボーカル & シングル・ミックス)」と上位を席巻する形となりました。
宗像:フィロのスは、2018年の夏を駆け抜けたわけですよ。6月のLIQUIDROOMワンマンは初の生バンドを従えて、フロアも満員で。「ライブ・ライフ」と「イッツ・マイ・ターン」は両A面のシングルで、初めてたくさんの予約会を開催。それにはアイドルシーンへのメタ的なものもあったと思うんですけど、結果オリコンランキングでデイリー1位(2018年08月30日付)、ウィークリー7位(2018年09月10日付)という結果を出した。「イッツ・マイ・ターン」は90年代のアシッドジャズ、90'sソウルといった文脈で、「ライブ・ライフ」はさらにソウル寄りなんです。
ーー1位が「ライブ・ライフ」、3位が「イッツ・マイ・ターン」という結果についてはどう見ていますか?
宗像:「イッツ・マイ・ターン」はレトロチックなネタ的な要素があるMVなんです。一方、「ライブ・ライフ」はLIQUIDROOM公演で撮影されたドキュメンタリーなんですよ。
ガリバー:曲が始まる前にメンバーへのインタビューがある。
宗像:そこで十束おとはが、「(ほかの)3人だけでフィロソフィーのダンスが完成されているんだと思って、自分の必要のなさがつらい時期があった」って発言をするんです。フィロソフィーのダンスの結成当初、十束おとは、佐藤まりあの2人はサビ以外の歌割りが与えられなかったメンバーで、フィロのスは奥津マリリと日向ハルのツートップのボーカルグループだったんですね。
今は成長して歌割りも均等ぐらいになっているんですけど、それがグループのストーリーになっていて。MVでは、十束おとはが「あなたにとってフィロソフィーのダンスとはなんですか?」という問いに「人生」って言うんですね。まさに「ライブ・ライフ」というタイトルにかけていて。「イッツ・マイ・ターン」も、「ライブ・ライフ」と同じくらいライブで歌われているんですけど、なぜこの差がついたかというのは、MVで生身だった「ライブ・ライフ」がみんなの心を打って1位に来たのかなと思っています。
ピロスエ:24位の「ラブ・バリエーション」は、2018年5月の発売時に「モー娘。にオマージュを捧げる」というリリース記事が出ていて、確かにディスコファンク要素のある曲ではあったんですが、残念ながらハロヲタの間ではほとんど話題にならなかったですね。同時期のDA PUMP「U.S.A.」と被っちゃったというのもあるかもしれませんが……。
宗像:そもそも日本人はファンクミュージックに対して敷居が高いというイメージが昔からあるんです。
ピロスエ:日本人と欧米人では、音楽のグルーヴに対するノリ方が根本的に違う、みたいな話は以前からよく言われてますね。
宗像:そこをなぜ越えていくのかというのと、フィロのスは必ずしもファンクだけではない曲を持っている。ブラックミュージックに対する幅広さがあって、そこにハロプロであったり、様々な人の思い入れなり、新しい探究心なり、間口が開いている。
ガリバー:2017年に解散したEspeciaがポジション的には近しいところだと思っているんですけど、フィロのスの方が圧倒的にボーカル力が上なんですよ。奥津マリリと日向ハルを中心とした歌声が、純粋にポップスというものに変換されている。
宗像:前提としてファンクを歌いこなすグループを作るというコンセプトがフィロのスにはあって、その上で4人が歌っていると。十束おとは、佐藤まりあのボーカルもメキメキ上がっている。4人がキャラクター的にも立っていって、人間的な成長が出ているんですよね。ソウルミュージックは人間が成長していないと、歌っても説得力がないんですよ。短期間で葛藤したり、試行錯誤してきた4人だから歌いこなせる。「ライブ・ライフ」も4人の成長が多くの人に訴えるものがあったんだろうと思いますね。
ーーその「ライブ・ライフ」に僅差まで詰めていたのが、2位の桜エビ~ず「リンドバーグ」です。
宗像:Have a Nice Day!の浅見北斗が作詞、作曲しています。ハバナイと新宿LOFTで対バンをした時に、「リンドバーグ」の時だけ動画撮影OKになったので、当時のライブ動画がYouTubeなどでたくさん上がっているんですよね。MVを撮っていた森岡千織さんがライブ動画も撮っていて、それが公式として上がっています。「リンドバーグ」を歌っている時に、延々とオタクがクラウドサーフされてきて、中にはそれを見てドン引きしているメンバーもいる。でも、水春さんはそんなことを構わずに、「私がこのグループを仕切っているんだ」ぐらいで歌っていて「すげぇ!」と思って。人がゴミのように見えるぐらいのライブで、水春さんの真の凄さが発揮されるんだと。
岡島:水春さんは以前からソロでネット配信番組に出演し続けているんですよね。モノマネが上手かったり、芸達者で。かつ、MCだったり現場の対応力がとびきり高い。
宗像:なぜ、藤井(ユーイチ)さんが浅見北斗に曲を頼んだのかというのにも興味があって。
岡島:誰が依頼したのかは分かりませんけど、エビ中や桜エビの運営陣って、音楽がすごい好きな人たちなんだと思います。それこそネットレーベルの曲だったり、いろんなジャンルをチェックしていて、誰に曲を依頼するかを常に考えているんだと思うんですよね。だからこそ、エビ中にしろ、桜エビにしろ、いろんな人を起用できるんだろうなと。
宗像:浅見北斗がちゃんといい曲を書いたっていうのが嬉しかったですね。楽曲構造的にはハバナイにもこういった曲はあるんですけど、ちゃんとサビがあるアイドルポップスを作って、フロアにフックしていく過程を見ることができたのは、東京アンダーグラウンドがスターダストに受け入れられたのを感じました。
ガリバー:スターダストがスターダスト以外のアイドルのインディーズシーンでも、高い機動力で動き回れるというのを桜エビで実践した。
宗像:ところで、7位の「灼熱とアイスクリーム」という、いかにもシティポップな曲を書いたピオーネって誰なの? スリーピースバンドが演奏しているような音だよね。
岡島:配信シングルのジャケットはイラストを使っていたり、メンバーのビジュアルを推していないのが面白いですね。
ガリバー:スターダストの配信解禁というのは、トピックとして重要だと思っていて、結果それを12カ月連続配信という企画と楽曲のクオリティの高さでアドバンテージに変えていたのが、桜エビだったのは面白い現象だなと。
岡島:水春さんがインフルエンザでライブを休んでいた時があったんですけど、それでもライブは成立していて。要はパートを均等に分けているからで、そのバランス感覚はエビ中と同じではある気がします。でも、やっぱり水春さんは強いので。彼女を中心にした曲で勝負に出たら面白いと思います。あとは、桜エビはエビ中の研究生ユニットとして結成された妹分なので、客観的に見たら彼女たちがエビ中に入るという期待もあるのかなと。
ガリバー:本当に!? それはないでしょ。
岡島:水春さんってもともとエビ中がすごい好きで、エビ中のオタだったんですよね。でんぱ組.incのねむきゅん(夢眠ねむ)と根本(凪)さんみたいなところがあって。エビ中のドキュメンタリー映画(『EVERYTHING POINT』)で一人だけファンの視点でインタビューされているんですよ。もしも、エビ中に入ったとしたら桜エビは変わっていくことになりますけど、ファンは受け入れるんだろうな、という気がします。それをネガティブに捉える人もいるだろうけど、僕はポジティブに受け止められる方です。もちろん、このまま桜エビ~ずとして続けて行く方向性も良いなと思います。