『オンゲキ』音楽スタッフインタビュー ゲームと声優&アニメ文化を融合させた新たな挑戦

音ゲーのトレンドの最先端をゆく

ーーキャラクターの明確化という部分では、どんなアーティストにどんな曲を発注するかもポイントになります。『オンゲキ』はオリジナルの歌もの曲が多く、Elements Gardenの上松範康さん、livetuneのkzさん、Tom-H@ckさんなどアニメやボカロのシーンを飛び越えて、メジャーの音楽シーンでも活躍されている方がずらりと名前を連ねていますね。

小早川:最初は、僕らがリファレンスとしてTom-H@ckさんとか、いろいろなアーティスト名をポンポン出していったんです。あくまでもリファレンスだから、さすがにアサインはしないだろうなと思っていたら、KADOKAWAさんが本当に全員アサインしてくれてびっくりしました(笑)。それは僕らではできないことなので、KADOKAWAさんと組ませていただいて、本当に良かったと思っています。TeddyLoidさんなど、僕らはいちファンとして名前を挙げた方をどんどんアサインしてくださるので、とても心強かったです。fhánaの佐藤純一さんも、「まさか!」でしたし。

水鳥:ネームバリューのある方をなるべく多く入れたかったので、頑張らせていただきました!

ーーネームバリューという部分でも、1クールに放送されるアニメの主題歌が全部並んでいるかのような、豪華さとボリューム感がありますよね。ただアニメの楽曲を作られる場合とゲームの楽曲を作る場合では、作り方や制限の違いもあるんでしょうか。

水鳥:けっこうあります。アニメ主題歌は89秒という尺が決まっていますが、音楽ゲームの場合は1曲が2分20秒前後なんです。アーティストの方が普段作られている主題歌よりも長いので、じゃあその分は単純にサビを繰り返せばいいのかと言ったら、そういう簡単な問題でもなくて。「もう1個サビとは違った、オイシイ部分を足してほしいです」と、お願いをしました。

小早川:音楽に対する集中の仕方が、音楽ゲームの場合は根本的に違うんです。音楽ゲームは、1音も聴き漏らさないように音楽に集中するんですけど、普通の音楽をそこまで集中して聴くことはないですよね。しかもゲームに即した構成を求めるので、そこでご調整していただいた部分もありますし。

ーーイントロとか最初の音でジャンル感やイメージが伝わる曲が多い印象ですが、そこは意識されましたか?

小早川:そうお願いしたわけではないのですが、結果的にそうなりました。

水鳥:オイシイところを抽出していくと、そういう曲になることが多いということだと思います。

小早川:ゲーム的には、イントロとアウトロが盛り上がると、すごく作りやすくなるんですよ。例えばボカロ曲は、イントロが強い曲が多いのですが、それは曲の出だしで掴まないと動画再生数が伸びないからなんだと思います。お願いしたアーティストさんの中でボカロ出身の方は、やはりイントロから加速している曲を作ってくださったなと感じていますね。このあたりを言い換えると、「今風」ということにもなると思うんですけど。

水鳥:オリジナル曲は版権曲(著作権をゲームサイドが有していない楽曲)や移植(ある楽器の曲を他の楽器に編曲する)とは違って、まったくゼロ情報の状態でお客さんが聴くので、最初に興味を持っていただけないとすぐ切られてしまうわけです。ゲームをプレイする前のプレビュー画面の時に流れるのはサビが多いので、本当に“どキャッチー”でなければプレイしてもらえないことも多く、その点では、キャッチーさということも、非常に重要ですね。

ーー音ゲーの中でも、その時代ごとにどんなトレンドがありますか?

小早川:10年くらい前までは、音ゲーの世界ではボカロや東方の曲はタブーとされていました。オリジナル曲至上主義の市場で、版権曲や、ましてやプロの作らない音源、例えば同人音楽なんかとはとても相性が悪かったんですよね。それがこの5年くらいで、ボカロPさんや同人作家さんの曲が入ってきていて、それが今の音ゲーのトレンドになっていきました。それと、各社ともにアニソンの割り合いが急激に増えていることも、最近のトレンドですね。アニメやボカロなどサブカルチャーの音楽が、ゲームの世界でも強くなっているのが昨今の傾向だと思っています。

水鳥:アニソンは少し前に、BPMが速ければ速いほど盛り上がる風潮があって、音ゲーも先ほど話に出たように速いほうが譜面にも色々な可能性が広がるので、その部分ではすごく相性がいいんです。それで入れやすくなったのかもしれませんね。

小早川:そうですね。そういう流れがあったこともあって、もう少しアニソンのアーティストさんに寄った楽曲構成にしたいというのも『オンゲキ』スタート時には考えていました。そういう意味では、昨今の音ゲーにおけるトレンドの最先端を感じていただけたらうれしいですね。


ーーとは言え、トレンドばかりを気にすると曲が似通ってしまうおそれがあるわけですが、そこはどんな風に考えていますか?

武田:難しい話ですね。トレンドを抑えつつの差別化という意味では、リズムのバリエーションは意識しています。リズムを変えられれば、音楽ジャンルも変えられますし。

ーーまだ手を付けていないジャンルも?

武田:クラブに寄せた楽曲は、まだ少ないですね。まずはライブで映える楽曲を中心に作っているというのもありますが。

ーーリアルライブ展開することを、当初から考えていると。

小早川:ライブは、だいぶ意識していますね。

ーー確かにライブとクラブでは、楽しみ方が違いますからね。

水鳥:そうですね。だから楽曲の軸に、「コール&レスポンスがほしいです」と各アーティストさんに最初にお話しして、それで曲を作っていただいています。

小早川:それにライブ映えする曲は、音ゲーとしても取り込みやすいんです。音楽ゲームは時代と共に構成が変わって、ひと昔前であれば「キー音」と言って実際に音を奏でて演奏するゲームが多かったのですが、今は演奏する音とは切り離れて「音に合わせてリズムを刻む遊び」が主流です。そうなってくると、演奏する側というより、観客として楽しむみたいな遊び方の方が楽しみやすいんですよね。そんなこともあって、ライブで聴いてノレる曲をゲームにすると、すごく楽しいものができあがります。たとえば合いの手やコール&レスポンスの部分を意識したリズムを叩かせたりすると本当に楽しい。 “ライブ映え”=“音ゲーム映え”みたいな感覚を、最近は感じますね。

ーーゲームで遊んで良し、ライブでも盛り上がって良しと。

小早川:そういうことですね。そんなこともあってか、うちのプレイヤーさんはゲームで合いの手やコール&レスポンスに合わせて体を動かし慣れているので、ライブをやってもノリがすごくいいんです。

水鳥:みんなで練習してきたかのように、動きが揃いますよね。

小早川:イロドリミドリという別の音楽ゲームでやっているユニットのライブをやった時は、コール&レスポンスをセンタービジョンに流したのですが、音ゲーを遊んでいるようなインターフェイスにしたんですよね。そうしたら初めて聴く曲にも関わらず、全員ぴったり合わせてきた。「やっぱり音ゲーマーさんはすごいな」って思いました。そのあたりの面白さは、『オンゲキ』のライブでも踏襲していきたいなと思っています。

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