佐橋佳幸×Dr.kyOnが語る、佐野元春らと作り上げた無国籍サウンド「Darjeelingに予定調和はない」

Darjeeling、佐野元春らと作った無国籍サウンド

佐野元春との一風変わったレコーディング風景

――7曲目はセカンドラインっぽい「流浪中」。佐野元春さんとおふたりの共作曲で、佐野さんが歌ってます。

佐橋:もう僕とkyOnさんは、この人なくしては語れないというか。kyOnさんと僕が年中一緒にやるようになったのはThe Hobo King Bandが最初ですからね。で、GEAEG RECORDS(ソミラミソ・レコーズ、Darjeelingが設立したレーベル)が発足したしたときには、佐野さんからメールもいただいた。「レーベル発足、おめでとうございます。いつ自分に声がかかるのかなって思ってます」って。でもなんとなく僕とkyOnさんのなかでは最終章で呼ぼうってことになっていて、それで今回は筆頭に佐野さんの名前があがっていたんです。で、一緒にやるなら、この曲がいいんじゃないかと。

――どのようにしてできた曲なんですか?

佐橋:スタンダードで「Tea For Two」ってあるじゃないですか、「二人でお茶を」。もともとはそのタイトルを文字って、「Tea For Three Two」って曲だったんですよ。スリー・ツーのリズムの曲ということでね。それを佐野さんに送ったら、佐野さんが僕らのモチーフに曲を書き加えてきた。だから共作という形になっているんです。やりとりをする中で、最終的に「このメンバーでいきましょう」ってことになり、「じゃあ僕もスタジオに行くから」って。でも「僕の歌はこれでOKだから」って言うんですね。僕らも「え?」ってなったんですけど、佐野さんは「自分の家で録ったデモは本番のつもりで歌ったものだから、それを聴きながらみんなで演奏してほしい」と言うわけですよ。それで全員でスタジオ入って佐野さんの歌とクリックを聴きながら演奏してたら、佐野さんがいきなり入ってきて、kyOnさんがセッティングしてたオルガンの前に座って「じゃあ、いこう!」って言って弾き始めて。僕らが演奏しているのを聴いていたら、閃いちゃったみたいでね。で、オルガンを録って、さらには「ちょっとコーラス入れていいかな」って言って入れて、ついでに雄叫びまで入れて。そうやってできたのがこの曲。早かったですよー。佐野さんのスタジオ滞在時間、2時間切ってましたからね。

――それはすごい!

佐橋:楽しかったですねぇ。できあがってみたら、やっぱりいかにもThe Hobo King Bandらしい曲になってるのも面白いですね。

kyOn:この曲は、間奏のピアノソロの入り口に、有名な人の曲の一節を入れてるんですよ。

佐橋:そう。それが「流浪中」というタイトルと関係あるって聞いて、「さすがkyOnさん!」って思いました。

――洋楽ですか? 邦楽ですか?

kyOn:洋楽ですね。最初、「流浪」って文字を見ていて、小坂忠さんの「ほうろう」から来てるのかなって考えてたんですよ。で、さんずいがふたつ並んでるから、もうひとつさんずいの字で「渦」って書いて、“流浪の渦”っていうのも面白いなぁって考えて。そのときにふと、こんな名前の人がいたなぁって思い出しまして。

――“流浪の渦”……。流浪渦……。あっ、ルー・ロウルズだ!

kyOn:そう。それで、ルー・ロウルズの曲の一節をソロでやってるんです。

佐橋:しかもそのネタふりをソロでやったあとに僕のソロパートが来るんですが、今度は最後のフレーズをトミー(井上富雄)が偶然同じように弾いたんですよ。ユニゾンになっちゃって。アドリブで偶然同じことをやっちゃったという、なかなか奇跡のテイクなんですよ、これ。どういうわけか我々のレコーディングにはそういう面白いことがよく起きるんです。

――そして最後は「21st. Century Flapper」。

佐橋:串田和美さんの『もっと泣いてよフラッパー』の21世紀再演版をイメージした曲で、ニューオーリンズっぽいやんちゃなものを作ろうと思ったんですけど、なんとなくこれはベースを入れたくないなと思って。

――ベースレスなんですね。

kyOn:正確に言うと、ベースレスじゃなくて、ベーシストレス。ベースレスではないんです。

佐橋:あ、そうそう。kyOnさんのキーボードの左手でベースの音をやっていて、それとバリトンサックスとの合わせ技で低域のグルーブを出すというのがテーマだったんです。あと、ギターのリフがすごいワイドレンジで、さらに(三沢)またろうさんがパーカッションを入れてウニウニした感じになっているっていう。もともと僕が最初に家でデモテープ作ったときにも、いろんな素材を合わせて作っていたんですね。そのループをそのまま使ってライブでやってたんですけど、kyOnさんがそこに「鶏の声、入れていい?」と言って、鶏の鳴き声のサンプリングをしてきて僕のループと合体させたんですよ。で、レコーディングでもそれを使ったんです。

――楽器や音の使い方、曲の展開のさせ方が、いちいち予想外で、予定調和なところがまったくない。それがDarjeelingらしさなんだなと、お話を聞いていてつくづく思いますね。

佐橋:うん。偶然起きたことが面白いんですよ。面白いことが起きたら発展させて、いけるとこまでいくというか。確かに僕とkyOnさんのやってることに、予定調和感はまったくないですね。

――さて、ここまで4枚のアルバムを作ってきたわけですが、今どんな気分ですか?

佐橋:Darjeelingのアルバムとして4枚作ってきましたけど、それプラス、川村結花ちゃんのアルバム(『ハレルヤ』)と高野寛くんのアルバム(『A-UN』)のプロデュースもあって、1年数カ月月の間に6作やったわけで。

kyOn:2カ月に1枚!

佐橋:だからまあ、よく頑張ったなと。働き者にもほどがあるなと(笑)。

――確かに。

佐橋:ただ、4作を振り返ってみると、アルバムのために書き下ろした曲はひとつもないんですよ。全曲ライブでやったことのある曲でしたからね。

――じゃあ、もしまたこの続きの新シリーズがあるとしたら、書き下ろしの新曲を?

佐橋:そうですね。やれればいいですね。

kyOn:でもストックもまだあるんですけどね(笑)。

佐橋:そう、まだあるっちゃあるんですけど、新曲を作りたい気持ちももちろんありますし。あと、ソミラミソ・レコーズ主宰者としては、プロデュースもまたやらないとな、とは思ってます。次に僕らがやるべきことは、どなたかのプロデュースですね。まだソミラミソ・レコーズのカタログは、川村結花ちゃんと高野寛くんの2枚だけなので。そのレーベルのいいサンプラーとして、この4枚があるということですね。あと出したいのは、この4枚のアナログセット。このデザインの大きいのが4枚並ぶと、きっと可愛いですよー。

――それはぜひ実現させてほしいものです。

佐橋:やっぱり1枚に8曲というのがよかったですね。ちょうどアナログ盤的な長さですから。かつてCDで15曲以上が当たり前っていう時代がありましたけど、そんなに曲数多いと集中力がもたないですからね。この長さでよかったなぁと思いました。

――ほかに、2019年の間にDarjeelingとしてやりたいと思っていることはありますか?

佐橋:可能ならば、発表会をやりたいですね。作品はいっぱいあるから。こうして形になったものだけでも8曲×4枚で32曲あるわけですから。まあゲストが多いから、どこまで呼んでどういうふうになるかはわからないですけど。でもやりたいとは思っているので、決まり次第インフォメーションしたいと思います。

(取材・文=内本順一)

Darjeeling『8芯二葉~雪あかりBlend』

■リリース情報
Darjeeling『8芯二葉~雪あかりBlend』
2019年1月23日(水)発売
¥2,315+税

<収録曲[参加メンバー]>
1. Jumpin' Jumping Camellia Sinensis
 [佐野康夫(D)]
2. 砂雪(featuring 河口恭吾)
 [河口恭吾(Vocal)、鈴木慶一(作詞)、三沢またろう(Per)]
3. POP OUT OF THE TEA CUP(featuring 小川美潮)
 [小川美潮(Vocal/作詞)、古田たかし(D)、井上富雄(B)、三沢またろう(Per)]
4. Greedy Green
 [山本拓夫(Cl, Fl)、笠原あやの(Vc)]
5. Seasickness Blues(featuring 山下久美子)
 [山下久美子(Vocal)、KERA(作詞)、佐野康夫(D)、清水興(B)、田中倫明(Per)]
6. Oh Mistake!
 [古田たかし(D)、井上富雄(B)、三沢またろう(Per)]
7. 流浪中(featuring 佐野元春)
 [佐野元春(Vocal, Organ/作詞/共作曲/編曲)、古田たかし(D)、井上富雄(B)、山本拓夫(Sax)、三沢またろう(Per)]
8. 21st. Century Flapper
 [山本拓夫(Sax)、三沢またろう(Per)]
作/編曲:Darjeeling

Darjeeling公式サイト

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