Darjeelingが語る、音楽に四季の風情を込める醍醐味 佐橋佳幸「雑談のなかにヒントがある」

Darjeelingが語る、音楽に四季を込める醍醐味

 Dr.kyOnと佐橋佳幸。日本のポップミュージック界になくてはならない存在であるこのふたりがDarjeelingと名乗って活動をスタートさせたのは2005年のことだが、昨年11月に1stアルバム『8芯ニ葉~WinterBlend』をリリース。インストゥルメンタル4曲と4組のゲストを迎えた歌モノ4曲からなる計8曲の構成で季節ごとの作品発表がスタートした。そして、ここに完成した新作『8芯ニ葉~月団扇Blend』はそのシリーズ3作目。ボーカルゲストに曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、大貫妙子、浜崎貴司(FLYING KIDS)、山崎まさよしが迎えられ、夏に聴くのにピッタリの内容に仕上がっている。このアルバムに収録された全曲の話を聞いた。(内本順一)

Dr.kyOn「制作当時とは違う風景が見えてくる」

――前回はDarjeelingの成り立ちを伺いましたが、今回は新作『8芯ニ葉~月団扇Blend』についてのことをたっぷりお聞きできればと思ってます。と、その前に。昨日観に行ったんですよ、Zepp Tokyoのライブを(6月20日に行われたDanny Kortchmar and Immediate Familyの公演。2部制で、第1部はリーランド・スクラーとラス・カンケルのリズムセクションに、佐橋佳幸、Dr.kyOn、小原礼、屋敷豪太、松任谷正隆が混ざり、ボーカルゲストで小坂忠、五輪真弓、中村まり、奥田民生が加わってセッションが繰り広げられた。仕切り役は佐橋佳幸)。いやもう、ただただ贅沢な時間でした。

佐橋佳幸(以下、佐橋):あれね。前日に第1部のセッションのリハーサルをやって。ラスさんとリーさんは出ずっぱりでしたから、大変だったと思います。でも面白かったですね。僕もkyOnさんも彼らがやってきた音楽から、ものすごく影響を受けているんですよ。

Dr.kyOn(以下、kyOn):昔からいろんなところでライブも観てますし。だから憧れのアニキたちみたいな感じでね。やっぱりずっと第一線でやり続けてる人たちだから、現役感があるんですよ。

――そうですよね。それは観ていて感じました。

佐橋:そもそも僕は1994年に『TRUST ME』というソロアルバムを出してるんですけど、それを作るときに(エグゼクティブプロデューサーを務めた)山下達郎さんから「どういうメンバーと一緒にやるつもりなんだ?」と聞かれたから、「The Sectionの人たちとやりたいんですけど」と答えて、「じゃあ、行ってこい」ってことになって。クレイグ・ダーギがメンバーをまとめてくれるんじゃないかってことで、彼に連絡をとったんですね。ちょうどその頃、彼らはサンフランシスコでジミー・ウェッブのレコーディングをしていて、そこにラス・カンケル、リー・スクラー、クレイグ・ダーギがいて。ダニー・クーチはいなかったんだけど、とにかく「サンフランシスコまで来たらやってあげるよ」って返事をもらったんですよ。それでラスさんとリーさんとクレイグさんと3曲くらいレコーディングしたんですけど、それ以来のお付き合いなんです。だからもう四半世紀。そんなこともあって今回の公演のスタッフから「佐橋さん、仕切ってもらえませんか?」とお話をいただき、kyOnさん、小原さん、豪ちゃん(屋敷豪太)にも出てもらったわけなんです。

――Darjeelingの前作『8芯二葉~梅鶯Blend』にも参加されていた中村まりさんがその豪華メンバーをバックに歌ったキャロル・キングの「I Feel the Earth Move」が、とりわけ素晴らしかったです。

佐橋:まりちゃん、よかったよね。「このメンバーだったらやっぱりお客さんはキャロル・キングの曲を聴きたいよね」って話になったときに、誰が歌えるかなって考えて、真っ先に浮かんだのがまりちゃんで。彼女はバイリンガルだから、メンバーとも直接話せるし。それで前日にリハーサルしたら、思ってた通りバッチリでした。あと、五輪真弓さんにもキャロル・キングの「君の友だち(You've Got a Friend)」を歌ってもらいましたけど、日本でThe Sectionと初めてレコーディングしたのが五輪さんだったんですよ。だからヴァン・ダイク・パークスの公演でリー・スクラーが来日したときに萩原健太さんがインタビューしたら、リーさんに「真弓はどうしてる?」って聞かれたらしくて(笑)。じゃあ今回も五輪さんには絶対出てもらおうってことに。

――昨夜はそんな感じで、佐橋さん、kyOnさん、小原さん、豪太さん、中村まりさんと、Darjeeling家族とも言える人たちがステージに揃っていたわけですが、今後、海外のミュージシャンがアルバムに参加するなんてこともありえますかね。

佐橋:タイミングさえ合えばあのリズムセクションに参加してもらいたかったんですよ。今はもう秋をテーマにした次のアルバムをどうするか考えているところなんですけど、「もうちょっとあとだったらなぁ」って話してたところで。

――そうだったんですね。ところで、昨年11月にDarjeelingの初アルバム『8芯ニ葉~WinterBlend』が出た際にはおふたりのプロデュースした川村結花さんの『ハレルヤ』が、今年2月に『8芯ニ葉~梅鶯Blend』が出た際には高野寛さんの『A-UN』が同時にリリースされたわけですが、今回はプロデュース作品の同時発売はないんですか?

佐橋:はい。いろいろ事情がございまして(苦笑)。さすがに時間がない。

kyOn:むしろ、限られた時間のなかであの2枚のような素晴らしい作品ができたことのほうが奇跡的なことで。

――なるほど。相当、短期間で作ってますもんね。今作も前作からわずか5カ月で発売に至るわけで。スピードが問われる。

佐橋:そうなんです。ただ、それが可能なのは、曲のストックがあるからで。前回お話した通り、初めはよみうりテレビの『共鳴野郎』という番組でkyOnさんと一緒にやらせていただいてて、そのなかで毎回Darjeelingの新曲を作ってやっていたので、ストックがすごいわけですよ。番組終了後も同じコンセプトで続けていたので、曲が貯まっていく一方だった。

kyOn:貯金をちゃんとしてたんです(笑)。なので、今のところはそこから引き出して使っているという。

――今回もそうした貯金のなかから曲を選んで、誰に歌ってもらうかを考えていったわけですね。

佐橋:冬、春ときて、今回は夏がテーマなので、夏に合う曲を選んでいって。ゲストの方々もこちらの思う通りにスケジュールが空いてるわけではないですから、何人か候補を出して行く中で、この4人が快諾してくださった。

kyOn:もともとは“インストによる歌もの”みたいな感覚で作っていたわけですけど、このシリーズを始めて、もう一度自分たちの曲を聴き返してみたら、作ったときとはまた違う風景が見えてきたんです。で、そうやって聴いてみると、ふつふつとその人の歌声が聞こえてきたりするんです。“もうこの人しか考えられない”ってくらいに。今回だと特に、「Picnic Tea Basket in the rain」を聴いたらすぐ山崎まさよしくんの歌が浮かんできた。前の2枚のときもそうだったけど、“この曲をやりたいな”と思うと、自然とそれを歌う人の顔が浮かんでくるんです。

佐橋「kyOnさんが発案した“同時多発メロ”」

――それでは1曲ずつ聞いていきますね。まず曽我部恵一さんが作詞して歌った「ユーラシア万歳」。曲を聴いたら曽我部さんの顔が浮かんだわけですね。

佐橋:そう。もともとこれ、インストゥルメンタルでやってたときは「ティンゲルタンゲル」って曲名だったんですよ。『ティンゲルタンゲル』というのは(オンシアター自由劇場の)串田和美さんの80年代の音楽劇の演目で、それをフランスとかで公演されたときにドキュメント番組が作られて、そのビデオを僕も見ましてね。僕とkyOnさんで串田さんの『もっと泣いてよフラッパー』の音楽を担当してましたから、それまでの演目の音楽をいろいろ研究してたんです。そうしたらそのドキュメント番組のなかで、街中でドラム缶を叩いたりしている映像があって。そこから思いついたのがこの曲。それでガラクタを叩いてるようなループを僕が作って、それをもとにkyOnさんと演奏したわけです。そのエピソードを曽我部くんにも話したら、その場でこの歌詞を書きだして。

――その場の勢いで書いてる感じがいいですよね(笑)。

佐橋:それで、ちょっと歌っては言葉を直して、僕らが演奏を繰り返していく内に、この曲ができました。それから(三沢)またろうさんのパーカッションを入れて賑やかにしようってことになって、「これ、基本はカリプソなんじゃない?」という話から「カリプソと言えばバイオリン。じゃあ、金原千恵子さんにお願いしよう」と進めていきました。

――曽我部さんとは、おふたりとも長いんですか?

kyOn:そうですね。『共鳴野郎』にも出てもらってるし、忌野清志郎イベントをはじめ、いろんなところで一緒にやってましたから。

――2曲目「Drop by Drop」。これはどんなふうにできた曲なんですか?

佐橋:これは『共鳴野郎』の第1回目にkyOnさんが作ってきた曲なんですよ。だから、Darjeelingの最初のオリジナル。ライブの最後によくこの曲を演奏していたんですけど、ようやく録音できてよかったなぁと。今までのライブ音源を聴き返して、その総集編みたいな演奏ができればと思いながら仕上げていきました。

――夏にぴったりですよね。聴くと涼しくなる。

佐橋:ねえ。爽やかだから、ちょうどいいでしょ。

――3曲目は浜崎貴司さんが歌詞を書いて歌った「ユビサッキ」。

佐橋: Darjeelingのライブのなかで、kyOnさんが発案した“同時多発メロ”というものがありましてね。いつもライブの少し前にkyOnさんから譜面が送られてくるんですけど、そこに“テンポがこれぐらいで、Aメロは8小節でこんなコード進行、Bメロはこんなコード進行で“みたいな指示が書いてあって、その決め事だけでお互いが勝手に曲を作るんです。で、ライブの本番に“せーの”で同時に演奏したらどうなるかという試みをやっていたんですよ。そうすると、不思議なんだけど、必ずうまくいく。バラバラに考えたメロディなのに、なぜかピッタリ合うわけです。それが面白くてね。で、そうやってできた1曲がこれで。意外とファンキーな感じになったので、「ファンキーと言えば浜ちゃんでしょ」ってことで、頼んでみました。そしたら浜ちゃん、「エロい歌詞にしてもいいですか?」って(笑)。

――“エロい”って言葉がそのまま歌詞に入ってますからね(笑)。

佐橋:うん。で、歌詞を見たkyOnさんが「女性コーラスを入れたらいいんじゃない?」と閃いて藤井真由美さんと志村享子さんにお願いすることになり、さらにベースを美久月千晴さんに弾いてもらって。

kyOn:美久月さんとは、座・カンレキーズというバンドを現在一緒にやってまして。去年結成したんですけどね。因みに僕と佐橋くんが初めて会ったのは、1990年11月の喜納昌吉さんの「花~すべての人の心に花を~」のレコーディングだったんですけど、そのときにベースを弾いていたのが美久月さん。3人揃ったのは、それ以来だったんです。

――浜崎貴司さんと言えばファンクですけど、これはFLYING KIDSのファンク曲とはまた違った趣があります。

佐橋:これはノーザン系ですね。そういう感じもありつつ、シカゴとかのほうのソウルを好きなロックバンドがファンキーな曲をやっているようなニュアンスもあります。Eaglesが「呪われた夜(One of These Nights)」をやるような感じというか。だから小田原豊くんのグルーヴもロックっぽくて、余計なことをしないでガーっていく感じがいいよねって話をして。またちゃん(三沢またろう)のパーカッションもノーザンのイメージで入れてもらいました。

――あと、ギターにCharさんとの共通点を感じたりもしました。

佐橋:ああ、この曲の僕のソロがちょっと戸越の先輩っぽいんですよ。絶対聴かせるの、よそう(笑)。

――ははは。それにしても一発録音ならではのグルーヴが表れてますよね。

佐橋:今回のシリーズがすべて一発録りですから。大貫(妙子)さんの「月光浴」もそうです。kyOnさんの「大貫さんに歌ってもらうなら、“月光浴”がいいんじゃない?」という言葉から大貫さんにお願いすることに。大貫さんから「メロディが少ないから、歌詞、悩むかも」と言われていたのですが、俳句みたいな素晴らしい歌詞が上がってきました。

――1番と2番がそれぞれ4行ずつ。わずか8行なのに情景や思いも伝わるという。

佐橋:もうね、「本当にありがとうございました!」って感じでした。で、kyOnさんがピアノ、僕がガットギター、またちゃんがパーカッションを弾いて録音していたら、大貫さんが「コーラス入れるわよ」と思いついたコーラスを間奏に入れてくださって。あとはkyOnさんがビブラフォンを弾いて仕上げました。

――大貫さんとは長いんですか?

佐橋:僕はかなり長い付き合いです。だって一緒にツアーもやってるし、大貫山弦妙子というユニットでCDも出してますから。80年代から一緒にやってます。

kyOn:僕は一緒に演奏したことは少ないですが、高橋幸宏さんのアニバーサリーで共演して、そのあとずっと一緒にワインを飲んだり……。

佐橋:大貫さんはお酒をよく飲みますからね(笑)。そういえばこの前、「佐橋くん、これからは土よ」と言い出して。

kyOn:なんか、友達とお米を作ってるって言ってましたね。だから大自然な歌が聴こえるでしょ(笑)。

佐橋:土と月の話をいっぱいしましたよね。そういう雑談のなかに音楽のヒントがあるんです。

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