長谷川白紙、中村佳穂、King Gnu……柴 那典が選ぶ、2019年期待のニューカマーベスト10

6位 崎山蒼志『いつかみた国』

「国」Music Video
崎山蒼志『いつかみた国』

 Abema TV『日村がゆく!』の「高校生フォークソングGP」でバズった時には、実は静観しようと思っていた。「天才高校生!」といろんなメディアが彼を持ち上げているのを見て、もちろん巨大な才能があるのは間違いないのだけれど、ギター1本で弾き語る彼の原石を過剰に持ち上げてしまうのは、そして“○○の再来”的な何らかのノスタルジーをそこに重ねてしまうのは、その才能をスポイルすることにつながってしまうのではないか、と勝手に思っていた。

 でも、アルバム『いつかみた国』を聴いて、脱帽しました。特に初めて打ち込みにチャレンジしたという4曲目「龍の子」。序盤はいかにもチープなリズムボックス風なんだけど、中盤、歌が入ってくるポイントから「おおおっ」となる。6/8拍子で始まってナチュラルに4拍子に抜けていく「国」の曲展開にも、底知れないものを感じる。

 刺激を受けたアーティストにYves Tumorをあげていたり、長谷川白紙を敬愛したりしているのを見ても、きっと彼の頭の中にはギター1本だけにとどまらない複雑な音響世界が広がっているような予感がする。どんどんヤバい曲を作ってほしい。

7位 須田景凪『Teeter』

須田景凪「パレイドリア」MV
須田景凪『Teeter』

 もともとバルーン名義でボカロPとして活動してきた須田景凪。彼の存在は、いわば10代と20代以上の音楽文化の“分断”の象徴と言ってもいいかもしれない。代表曲「シャルル」はJOYSOUNDの10代のカラオケランキングでは2017年、2018年と2年連続で1位。間違いなく2010年代後半を代表するヒット曲の一つになっているわけだけれど、その存在感は上の世代には、まだあまり届いていない。その“分断”を埋める一つのきっかけになるだろう作品が、メジャーレーベルである<Unborde>からの初リリースとなる1stEP『Teeter』。

 Eveのところでも書いたけれど、須田景凪や、Eveや、ヨルシカや神山羊や、いわゆるボカロシーン、ネットカルチャーからどんどん新しい才能が出てきているのが2018年から2019年にかけての状況。ただ、僕が重要だと思うのは、シーンの見取り図とか誰がブレイクするかとかそういうことじゃなく、それによって新しい音楽的な語法のようなものが広がり定着しようとしている、ということだ。

 言語化するのはなかなか難しいのだけれど、須田景凪の場合は、メロディの抑揚とリズムと日本語の響きの相互作用で生まれる快楽性にポイントがあると思う。そして、それを体感するにはたぶん「シャルル」や新作に収録された「パレイドリア」を歌ってみるのが一番早いと思う。

8位 Ghost like girlfriend『WINDNESS』

Ghost like girlfriend - shut it up
Ghost like girlfriend『WINDNESS』

 シンガーソングライター岡林健勝によるソロプロジェクト。

 1月16日にリリースされた3rdミニアルバム『WINDNESS』に関しては当サイトでインタビューをやっていて、そこにも書いたのだけれど、彼のポテンシャルはすごく大きいと思う。そして匿名的な形で活動をスタートさせたことで、それがストレートに広まってきているのが今だと思う。

 サウンドとかアレンジの幅は広いし、スタイルは自由で、どこにでも行ける。だけど、どこに行っても幽霊がついてくるように、ある種の孤独感と、それと表裏一体にある親密さがずっとある。そういうところが僕は好き。

 音数を絞り込み強い言葉を並べることでフックを作り出す「shut it up」のセンスもすごくいいと思う。

9位 kolme『Hello kolme』

kolme / The liar
kolme『Hello kolme』

 昨年10月にcallmeから改名した3人組ガールグループ。1月30日に3rdアルバム『Hello kolme』がリリースされる。これまでの活動経歴やキャリアを考えるとニューカマーとして扱うのは失礼かもしれないけれど、おそらく名前を変えるのは心機一転のタイミングということだと思うし、callmeとして活動してきた頃とはだいぶ文脈も変わってきたので、ここに選ばせてもらった。

 簡単に言うと、最初はダンス&ボーカルグループとしてスタートしたグループが、今はサウンドの方向性もメンバーが主導するクリエイティブユニットとなっている、ということ。作曲とトラックメイクはMIMORI(Mimori Tominaga)がサウンドプロデューサーRumbと共に手掛け、作詞はメンバー3人が担当。

 先行配信された「The Liar」を筆頭に、エレピやアコギなどのスムースな音を軸にバウンスするグルーヴと音色の“引き算”で魅せる曲が並ぶ一枚。

10位 Mega Shinnosuke『momo』


 福岡出身、18歳のシンガーソングライター。ストリーミングサービスのリコメンドがきっかけで「桃源郷とタクシー」を聴いて「おっ! これ誰!?」となった。同曲はmini EP 『momo』は店舗限定CD収録。AAAMYYYがゲストコーラスで参加している。本人のTwitterはすぐに見つかったけれど、どうやら今のところ持ち曲はまだ4曲しかないようで、まだまだ本格的な音楽活動はこれからのよう。

 なのでまだまだ本領を発揮するのは全然先だとは思うのだけれど、「桃源郷とタクシー」と「狭い宇宙、広いこの星」の2曲を聴くと、すごく可能性を感じる。歌詞もすごく良くて、フィッシュマンズが90年代に体現していたセンスや美意識をヴェイパーウェイヴの価値観のフィルターを通してアップデートしたような音楽を形にしてくれるような予感がする。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば」Twitter

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