乃木坂46、結成7年で育んだグループの基調 アート展からクリエイティブの重要性を紐解く
また、『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』ではCDジャケット用に撮影されながらも採用されなかった未使用写真が大量に展示されているが、それらを連続的に確認すると、表現され得た物語は必ずしも一パターンだけではなかったことがわかる。一瞬ごとに移り変わる彼女たちの佇まいからは、世に出ることのなかったいくつもの物語やメンバー同士の関係性が浮かび上がる。そうした無数の物語の奥行きもまた、ビジュアルデザインに強いポリシーを持つグループゆえに堪能することができる。
この展覧会では、上述のCDジャケットのほか、映像作品、衣装にクローズアップしてアートワークが紹介されている。演技に重点を置いてきた乃木坂46は、時にダンスシーンやリップシーンを用いない全編ドラマ型のMVを制作し、グループとしての表現を模索してきた。あるいは、シングルリリースに際して継続的に制作されてきたメンバーたちの個人PVはさながらショートフィルムの実験場の様相を呈している。それらの制作プロセスを示す資料や作り起こされたプロップスの展示からは、乃木坂46の映像表現の蓄積もあらためて振り返ることができよう。
また、倉庫をコンセプトにした本展の中でも、保管庫を一気に開陳したような作りになっているのが衣装展示エリアだろう。歴代シングルの制服衣装や歌衣装、音楽特番やイベントに際して制作されたコスチュームが巨大なラックに居並ぶが、それら自体が乃木坂46の7年間の歩みを視覚的に示すアーカイブである。
2019年1月現在、衣装エリアにトルソーを設置してフォーメーション展示されているのは、2015年の『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)で初披露された、尾内貴美香デザインによる“額縁”モチーフの歌衣装である。このフォーメーション展示を含めて、衣装エリアの展示内容は時期ごとに入れ替えが行われる。それは、4カ月にわたる会期の中でグループのさまざまな側面を見せるためでもあるが、同時にライブやイベントなど乃木坂46の活動に応じて、この“倉庫”から衣装が出し入れされるためでもある。すなわち、ミュージアム内だけで完結するのではなく、乃木坂46の活動とミュージアムとが有機的につながっていることになる。この展示空間は、そのようにグループとの動的な関わりを見せるものでもある。
乃木坂46は現在あるような組織のブランドを構築するなかで、ビジュアルデザインを含めた基調の構築を一貫して重要視してきた。その意味で、このアイドルグループにとってアートワークは周縁的なものではなく、むしろグループの社会的な見え方を左右する決定的な要素である。だからこそ、『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』は、“乃木坂46のつくりかた”の一端にふれる貴重な空間といえるだろう。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。