88rising来日公演が示した、新しいアジアンカルチャーの確立ーーimdkmがレポート
Rich BrianやHigher Brothers、Jojiといった数々の人気アクトを擁し、K-POPのグローバルな成功と比肩する“アジアンカルチャーの勢力拡大”の代名詞と言えるコレクティブ、88risingの来日公演が実現した。本稿では、1月10日にはZepp Tokyo、翌11日にはZepp Osaka Baysideで開催された公演から、10日の東京での模様をレポートする。
本題に入る前に、改めて88risingについて解説しておこう。88risingは日系アメリカ人のSean Miyashiroが2015年に立ち上げたクリエイティブ企業だ。アーティストのマネジメントからコンテンツ制作、ディストリビューションまでを幅広く手がけており、SNSやYouTubeを駆使したフットワークの軽さを武器に、ヒップホップやR&Bといったユースカルチャーとアジアを接続し、一大ムーブメントを巻き起こしている。
彼らの活動はいつも話題を呼ぶが、特筆すべき記録として、JojiことGeorge Millerが2018年に発表した1stアルバム『BALLADS 1』は、彼の活動拠点であるアメリカのビルボードアルバムチャートで初登場3位を記録、R&B/ヒップホップ部門ではアジア人として初めて1位を獲得する快挙も成し遂げた。さらに、アジア系アクトだけで構成されたフェス『Head In The Clouds』やアジアツアーも開催し、その勢いはインターネットとリアルの境目をもはや無意味にしつつある。
日本でも、ヒップホップやR&Bのリスナーを中心に幅広い注目を集めてきただけに、今回の来日には期待が高まった。当初のラインナップからJojiとNIKIがやむを得ず出演キャンセルとなったことは惜しかったが、今から振り返ってみれば、ショウの充実度は十分すぎるほどだった。
ロビーからフロアまで若く多国籍なオーディエンスで賑わうなか、まもなく開演というタイミングで、ステージDJも務めるDon KrezがオープニングDJとしてステージに登場。15分ほどの間に2018年を彩ったヒップホップのヒットチューンをこれでもかという勢いで立て続けにプレイ。イントロが鳴る度に歓声が起こり、フックではシンガロングする声が響いていた。
最初のアクトはAUGUST 08。コリアンタウンを拠点に活動するロサンゼルス生まれのシンガーで、2018年にデビューEP『FATHER』をリリースしたばかりだ。チルのフレイバーを漂わせたビートにのせて、巨体をゆらしながら美声を披露。楽曲ごとに振り付けをオーディエンスに促しながら、ときには煽って見せる。甘くほろ苦いメロディアスなパフォーマンスで、ゆるやかにオーディエンスを巻き込んでいった。
続いて登場したのは日本を代表する人気ラッパーのKOHH。Jojiの出演キャンセル後に追加出演がアナウンスされた彼だが、そもそも彼も参加したKeith Apeの「It G Ma」のバイラルヒットが88rising設立を後押ししたわけだから、最適な人選だ。ステージ上で身悶えするようなパフォーマンスと共に披露された「Die Young」などの人気曲では、オーディエンスも声をはりあげ応答。マイク1本で会場の空気を支配するカリスマ性を存分に見せつけつつ、「It G Ma」の自分のバースもパフォーマンス。アジアンカルチャー隆盛の原点となる1曲の力を改めて刻みつけた。
会場がもっとも湧いたのは、Higher Brothersの登場だったかもしれない。あたかもZepp Tokyoが中国のライブベニューかのように錯覚するほど。会場をまるごと飲み込むような「Made In China」のシンガロングには思わず筆者も参加してしまった。
ステージを縦横にかけまわり巧みに観客を煽る様には若きスターとしての風格があった。ポジティブで華のあるパフォーマンスは彼らが単なるノベルティラッパーではないことの証明だ。