小熊俊哉の2018年洋楽ロック年間ベスト10

小熊俊哉が選ぶ、2018年洋楽ロック年間ベスト10 今もアップデートし続けていることを強く実感

 2018年はアジアンカルチャーの大躍進もあり、グローバルに活躍する日系人ミュージシャンの活躍が目立った。Mitskiこと宮脇ミツキは、アメリカ人の父と日本人の母をもつハーフ。Pitchforkが今年の1位に選出した『Be the Cowboy』ではサウンドが一気に洗練され、ロマンティックで映像喚起力に満ちた一作となっている。現在はニューヨーク在住で、三重や神戸で暮らしたこともあり日本語も流暢。来年2月に来日公演も控えており、もっと注目されるべきだと思う。

 9位に選んだSen Morimotoは京都出身、シカゴ在住のマルチ演奏家で88risingのクルー。『Cannonball!』はジャズやポストロック、チャンス・ザ・ラッパー周辺のヒップホップ/R&Bの要素を織り交ぜたシカゴ的アンサンブルや、英語と日本語を使い分けた歌/ラップなど、自身のアイデンティティが滲み出たサウンドに惹きつけられる。ほかにも、Superorganismの活躍やCHAIの海外進出もあったりと、日本やアジアの存在感は今後ますます大きくなりそうだ(参考:88risingが示唆するポストYouTube時代の音楽のあり方 “横断的なプラットフォーム”が鍵に)。

 さらに今年は、UKサウスロンドンのインディシーンが盛り上がった。トム・ミッシュ、ジェイミー・アイザック、Goat Girlなど挙げたらキリがないが、ロックに絞るなら断然凄かったのがShameのライブ。見た目も青臭い男子4人が、1曲目からテンション全開で歌い、飛び回る狂乱のステージにはありったけの未来が詰まっていた。平均年齢が20代前半と思しきサウスロンドンと同様、アメリカのインディシーンではSnail Mailを筆頭に、Soccer Mommy、Lucy Dacusといった若い女性アーティストの黄金世代が活躍しており、ロックの世代交代は着実に進んでいる。

 その一方、ポール・サイモンやポール・マッカートニー、エルヴィス・コステロなど、ベテランの味わい深い充実作も多かった。そのなかでも一際美しかったのがデヴィッド・クロスビー。ByrdsやCrosby, Stills, Nash & Youngを通じて60年代から活動を続ける巨匠は、何十歳よりも若いジャズ〜フォーク系の気鋭たちと新バンドを結成し、驚異のコーラスワークを披露している。神々しい歌声は息を呑むほど。ここ数年は量産体制に入っており、77歳にして創作活動のピークを迎えている。

 最後に自分の話をさせてもらうと、2018年にもっとも感銘を受けたのはデヴィッド・バーンだった。ニューアルバム『American Utopia』を提げての最新ステージは、Talking Headsによるライブ映画の金字塔『ストップ・メイキング・センス』のセルフオマージュも織り込み(The 1975もMVでパロディしていた)、人種/性別/世代/体型のそれぞれ異なるバンドメンバーが演奏しながら、ミュージカルのごとく縦横無尽に動き回るというもの。筆者は11月に香港で目撃してきたが、NMEが「The Best Live Show Of All Time」と評したとおりパーフェクトすぎる内容で、日本上陸しなかったのが本当に悔やまれる。

 そこで10位は、アンジェリーク・キジョーによる『Remain In Light』の全曲カバーアルバム。Talking Headsが導入したアフリカ音楽のビートを、約40年後にペナン共和国の大御所シンガーが奪還するという構図で、同じくアフリカ音楽に影響を受けたエズラ・クーニグ(Vampire Weekend)や、映画『ブラックパンサー』のスコアでも演奏しているパーカッショニストも参加した意義深い作品だ。

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部を経て、現在は音楽サイト『Mikiki』に所属。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

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