西廣智一の2018年ラウドミュージック年間ベスト10
西廣智一が選ぶ、2018年ラウドロック年間ベスト10 ネガティブな話題の中にも豊作が揃った1年
今年は国内アーティストの新作も良作が多く、選ぶのに苦心しました。そんな中、今回は10枚中3作品をピックアップ。Crystal Lakeの『HELIX』は海外リリースも決まりましたが、「これぞ日本のラウド/エクストリームロック!」と叫びたくなるくらいに衝撃的な内容だと思います。オープニングから脳天をかち割られるような激しさは、何度聴いても興奮します。
Sigh久々の新作『Heir to Despair』は、年末に届けられた新譜の中でも特にお気に入りの1枚。狂気をテーマにしたヘビィでサイケ、なおかつジャズやワールドミュージックの要素もを包括する独特なサウンドスタイルはカオスの一言。聴いていると不思議と心安らぐ、まるで精神安定剤のような快作です。
上記2組同様、こちらも海外でリリースされたLOVEBITESの2ndフルアルバム『CLOCKWORK IMMORTALITY』は、アーティストとしての急成長が見事な形で記録された力作。楽曲のバラエティ豊かさは過去イチで、1曲1曲により深みが加わっていることも特筆すべきポイントでしょう。今年は『Wacken Open Air』など海外の大型メタルフェスにも進出した彼女たち、来年はさらなる飛躍が期待できそうです。
このほかにも、“メタルゴッド”の称号にふさわしいJudas Priestの新作『Firepower』や、Emperorのフロントマン・イーサーンの最新ソロ作『Ámr』はともに2018年のメタルシーンを象徴するような傑作ですし、イギリスのメタルコアバンド・Architectsの新作『Holy Hell』も新たなスタンダードになりそうな予感がします。そんな中、The Dillinger Escape Planのリアム・ウィルソン(Ba)と、ノルウェーのテクニカルデスメタルバンド・Extolのクリスター・エスペヴォル(Gt)&デイヴィッド・フスヴィック(Dr)が、紅一点のエレーニ・ザフィリアドウ(Vo, Piano)と結成したAzusaのデビュー作『Heavy Yoke』は、エクストリームミュージックの新たな在り方を提示する、未来につながる1枚のような気がしました。
こうやって2018年のHR/HMシーンを振り返ると、まだまだパッケージのジャンルなのだなと改めて実感させられます。とはいえ、最近は同ジャンルにおいてもストリーミングで、新曲を単体もしくは数曲まとめたEPとして小出しにしていくリリース手法が増えつつあります。いつまでアルバムという形が維持されていくのか、その行く末が気になるところです。
昨年の年間ベストの際にも書きましたが、このシーンは「いかに伝統を守りつつ、その中で時代に寄り添いながら進化を遂げていくか」が重要になってきます。2019年前半には、その「伝統の保守と進化」を体現するBring Me The HorizonやONE OK ROCKが新作をリリースします。ともに前作で新たな時代を築き上げた彼らが、次のアルバムで何を提示するのかも気になります。また、DeftonesやTool、SlipknotといったHR/HMとラウドロックをつなぐバンドたちも新作に取り掛かっているようですし、重鎮AC/DCもスタジオ入りしたという話もあります。新たなディケイドを目前とした2019年、HR/HMおよびラウドロックシーンはどこへ向かっていくのか、今後も温かく見守りたいと思います。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。