『fragment』インタビュー
片平里菜×小西君枝が語り合う、心を豊かにする人との出会いと“音楽と食”の共通点
2018年にデビュー5周年を迎えた片平里菜。3月に「60分一本勝負弾き語りライブ」、5月に「『愛のせい』アルバム全曲再現ライブ&シングル全曲ライブ」といった記念公演を開催、11月にはキャリア初となるベストアルバム『fragment』をリリースするなど、1年を通してこれまでの歩みを振り返り、改めて自身の音楽と向き合うような活動を行ってきた。そして、12月1日には個人事務所「BUCHI.」の設立を発表。5年という一つの節目を終え、ここから新たな音楽人生を歩んでいくこととなった。
地元・福島県から音楽の道を志し、上京してきた片平。この5年の間には、様々な出来事や心境の変化があったようだ。そんな中、片平の心の支えとなった人物がいる。料理研究家として活躍する小西君枝氏だ。今回リアルサウンドでは、片平と小西氏による対談を企画。二人の対話からは、信頼し合える存在がいることの素晴らしさ、人の人生を豊かにする音楽と料理に携わることの共通点などが浮かび上がってきた。(編集部)
最初は「ただ可愛いから目をつけていたんです(笑)」(小西)
ーーおふたりはいつ頃、どういうきっかけで知り合ったんですか?
片平:1年ちょっと前かな? キミちゃん(小西)がやっていたお菓子のアトリエがあって、私はそこのクッキーが大好きでよく通っていたんです。アトリエに行くといつもひとりでいらっしゃるんですけど、私は人見知りだから自分からは声をかけられなくて。でも、何回か通っているうちにキミちゃんから声をかけてくださって、そこからは行くたびに話すようになりました。で、「もっとゆっくり話したいから、ごはんでも行こうよ?」なんて言って、急接近して(笑)。話していたら地元が一緒だったり、共通点もたくさんあったんです。
小西:里菜ちゃんがお客さんとしてフラッと買いに来てくれていて。でも、まだそのときは音楽をやっている方だとまったく知らなくて、ただ可愛いから目をつけていたんです(笑)。で、「また来てくれた」ってことが何回かあって、ある日お店の閉店間際ぐらいに来てくれたときに、ちょうどお店に残っていた商品を「よかったらこれ、持っていって?」って渡したら、クシャッとした笑顔で「えっ、いいんですか?」って。クールビューティーなイメージがあったから、話しかけられたらちょっと嫌かなと思っていたんだけど、その笑顔を見て「あ、話しかけて大丈夫だ!」と思いました(笑)。それがきっかけで、そこから「お仕事は何をやってるの?」って立ち話で盛り上がって。そうしたら福島出身というのもわかったんです。
片平:それで、ライブにもお誘いして、何回か来てくださったんです。クッキーとかお菓子が美味しくてお店に通っていたんですけど、料理研究家としても活動されているので、ごはんがめっちゃ美味しくて。ライブにも差し入れをしてくださったり、私がひとり暮らしで寂しかったりするからキミちゃん家に行ってごはんを食べたりしてました(笑)。
小西:差し入れを2回持っていって喜んでもらったので、「じゃあ今度、うちに食べにおいでよ」って(笑)。
ーーなるほど。ちなみにライブの差し入れは、どんな料理だったんですか?
小西:仕事が忙しかったり、夜遅くまで曲を作っているのをなんとなく知っていたから、旬のものとかそういうものを食べてもらいたいなと思ったので、1回目はアスパラと鶏そぼろの混ぜごはんのおにぎりを、笹の葉でくるんだものにしました。
片平:どこか不摂生な感じが伝わっていたのかな(笑)。
小西:ふふふ。で、2回目は焼肉と野菜を入れたスタミナ海苔巻きを作ったんですよ。
片平:どっちも美味しかったなあ。
一緒にごはんを食べることで心の栄養ももらえた(片平)
ーー片平さんのライブをご覧になったのは、最初に差し入れを持っていったときが初めてだったんですか?
小西:そうです。六本木のEX THEATERでのライブ(※今年5月10日開催)が初めてでした。音楽をやっていると知ってすぐに曲は聴いて、そこでファンにはなっていたけど、初めて生で歌を聴いたときはすごい感動して、ちょっと泣いてしまったんです。
片平:そうだったなんだ。
小西:里菜ちゃんの歌詞とか声とか言葉とかが、全部リアルに響くんですよ。世代は違うんだけど、生で聴いたら自分の昔を思い出すような感じがあって。私も夢を持って東京に出てきて、ずっと仕事を続けているから、余計にグッときたのかもしれない。
片平:嬉しい(笑)。
小西:地方から上京して自分の夢にチャレンジするわけで、福島を離れるときの気持ちとか、家族や親友と離れるときの気持ちはすごくわかるし。そういうことを歌った歌詞もあって、自分と重なる部分がすごく多いんです。
ーー片平さんと最初にお店でお会いしたときのイメージと、ステージで歌っている彼女のイメージは重なりましたか?
小西:最初、私はモデルさんだと思っていて。
片平:(笑)。
小西:そう。すごく顔がちっちゃくてスラッとしていて、カッコいい感じだったから。そのときはまだ髪が長くて、印象もクールな感じだったけど、実際に曲を聴いたときは、どちらかというとちょっと違う感じがしたの。歌詞や曲の印象とか歌ってるイメージが本当に飾らないもので、生身の里菜ちゃんみたいな感じがすごく強かったから、第一印象よりは言葉を交わしていってからのほうがリンクしましたね。だって、ちょっと人見知りだったからか、最初は笑顔がなかったのを覚えていたので(笑)。
ーー片平さんは小西さんに対して、どういう印象を持ちましたか?
片平:キリッとした顔立ちをしているので、「怖い人かな? 厳しい方なのかな?」と最初は思っていて(笑)。ちょっと警戒というか、様子を見ているところはありました。でも、話しかけてくれるようになってからは一気に打ち解けて、「ああ、こんなに気さくな方なんだ!」と。だから、ゆっくり喋りたいなというのはありましたね。それでごはんに行きましょうと誘って。こんなにチャーミングな方だとは思わなかった(笑)。
小西:里菜ちゃんに対しては結構丸裸で接しているところがあるから(笑)。
片平:本当になんでも話してくれるんです。
ーー最初のきっかけが「食」だったわけですが、片平さんは「食」に対してどういう印象を持っていますか?
片平:私、かなりめちゃくちゃで。本当にお菓子ばかり食べちゃうし、クッキーが好きで、東京に来てから食べ過ぎて肌荒れがひどくなった時期があったくらい(笑)。だから、一時期控えていたんですけど、キミちゃんのお店のお菓子は小麦粉を使ってないグルテンフリー、ギルトフリー(※罪悪感を感じずに食の欲求を満たすこと)のお菓子が多くて。曲を作るときにおなかが空くと甘いものが食べたくなるから、ずっとつまみながら曲を作ったりしてました。しかも美味しいだけじゃなくて、食べながら人と会話したりコミュニケーションをとったり、そういう温かい食卓を提供してくれる。栄養バランスだけじゃなくて、一緒にごはんを食べることで心の栄養ももらえて、「あ、こんなにごはんって美味しいんだ!」って初めて思ったくらいです。
小西:嬉しい。
ーー例えば食で得た豊かさが、音楽に影響を与えることもあるんでしょうか?
片平:心を込めて美味しいものを作ってもらって、それを人と食べて楽しい時間を過ごしたあとに、「ああ、おなかいっぱい」で終わるんじゃなくて「ああ、明日も頑張ろう!」って活力に変わる。それがひとりでご飯を食べているときとはまったく違うし、特にひとり暮らしの食事は味気ないときがあるから、「いただきます」と「ごちそうさま」のありがたみをめっちゃ感じましたね。