Amaranthe、Chthonic、LOVEBITES……“男社会”で格闘するメタル/ラウド系女性アーティスト
エクストリームミュージック、特にハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)の世界は男性を主軸に回っている印象が強いのではないでしょうか。いまだに前時代的な男尊女卑をテーマに歌うバンドも存在するのも事実です。しかし、現在のシーンに目を向けると、女性メンバーを擁するバンドも少なくないし、女性だけで活躍するHR/HMバンドも80〜90年代と比べればかなり増えています。
このキュレーション連載でも、ほぼ毎回女性メンバーを含むバンドの新譜をピックアップしており、すでに「女性だから/女性がいるから」といった要素は特異性には値しない、ごく当たり前のこととなっています。
筆者はこの夏、ムック『ヘドバン Vol.19』にてHalestormのリジー・ヘイル(Vo)のインタビューをお手伝いする機会を得たのですが、そこで彼女は「現在のHR/HMシーンにおける女性の地位や存在感についてどう思うか?」という問いに対し、「明らかに状況は良くなってきていると思う。私たちは2005年くらいからコンスタントにツアーをするようになったのだけど、あの頃はツアー中、たいてい女性は私だけで、自分が女性だっていうことを忘れてしまうこともあったわ。ところが最近出演したフェスティバルや、この特別なツアー(Halestorm、In This Moment、New Years Day、Stitched Up Heartといった女性がフロントを務めるバンドによるツアー)においては、女性というのはマイノリティーですらなかった」と述べています。リジーの言葉からは、この10年ほどで女性メンバーを擁するバンドは確実に増え、地位を確立したことが伺えます。
個人的には「女性だから/女性がいるから」という点で区別するのは好まないのですが、今回の連載では直近タイミングに素晴らしい“女性メンバー/女性シンガーが所属するバンドの新譜”が多かったことから、こういったテーマで“今、聴くべき新作”を紹介していきたいと思います。
まずは、スウェーデンのメロディックメタルバンドAmarantheの5thアルバム『Helix』から。彼らは男女3人のシンガーを含む特殊な編成のバンドで、北欧では2011年のメジャーデビュー以降絶大な人気を誇ります。
このニューアルバムから、新たに同郷のハードロックバンドDynaztyのニルス・モーリン(Vo)が参加。北欧のバンドらしいヘヴィかつメロディアスなスタイルに、今ドキのバンドならではのエレクトロやダンスミュージックの要素を味付けとして加えたモダンな楽曲はさらに磨きがかかり、紅一点のエリーゼ・リード(Vo)の艶やかな歌声を際立たせることに成功しています。
オランダのシンフォニックメタルバンドWithin Temptationは、5年ぶりの新作『Resist』をリリース。キャリアとしてはすでに20年以上と大御所の域に達しつつある彼らですが、この新作に到達するまでにはインスピレーションの枯渇など解散の危機に瀕するなど、決して順風満帆ではありませんでした。
しかし、こういった苦難を乗り越え完成させた7枚目のアルバムは、現代的なモダンポップと彼ららしいシンフォニックな要素、そして荒々しいヘヴィロックが混在する攻めの1枚となっています。シャロン・デン・アデル(Vo)の伸びやかなボーカルはここでも健在で、Papa Roachのジャコビー・シャディックス(Vo)、In Flamesのアンダース・フリーデン(Vo)といった男性ゲストシンガーをフィーチャーすることで、シャロンの個性がより強く打ち出されているように感じます。
(追記: Within Temptationのニューアルバム『Resist』の発売日が、当初予定していた12月14日から2019年2月1日に延期となりました。)
スイス出身の女性5人組メタルバンド、Burning Witchesは12月19日に2ndアルバム『Hexenhammer』を日本リリースします。彼女たちはドイツの伝説的スラッシュメタルバンドDestructionのシュミーア(Vo/Ba)のバックアップのもと、2017年にアルバム『Burning Witches』でデビュー。オールドスクールの正統派パワーメタルはヨーロッパ圏で好意的に受け入れられました。
続く今作『Hexenhammer』でもそのスタイルは健在で、王道パワーメタルからスラッシュメタル風の楽曲、重厚感のあるミドルナンバー、さらにはDioのカバー「Holy Diver」まで“これぞヘヴィメタル!”と叫びたくなるほどド直球のメタルを聴かせてくれます。