Amaranthe、Chthonic、LOVEBITES……“男社会”で格闘するメタル/ラウド系女性アーティスト
ここからは新人バンドを2組紹介します。
1組目は歌姫ナスターシャ・ジュリア(Vo)を擁するドイツの5人組バンド、Enemy Inside。彼らは今年2月にライブデビューを飾ったばかりの新人で、11月21日に日本発売となるアルバム『Phoenix』はまさにデビューアルバムとなります。
その内容は新人とは思えないほど高い完成度を誇り、Evanescence以降のモダンメタルを踏襲したゴシック/メロディアスヘヴィロックを堪能することができます。また、パワフルさと繊細さを巧みに操るナスターシャのボーカルからも新人離れした安定感が伝わり、早くライブを観たい! と思わせてくれる1枚です。
もう1組は、日本人ならそのバンド名にドキッとしてしまうかもしれない、男女4人組バンドAzusa。昨年解散したUSエクストリームロックバンドThe Dillinger Escape Planのリアム・ウィルソン(Ba)と、ノルウェーのテクニカルデスメタルバンドExtolのクリスター・エスペヴォル(Gt)&デヴィッド・フスヴィック(Dr)が中心となり結成され、そこに紅一点のエレーニ・ザフィリアドウ(Vo/Piano)が加わり現在の編成となります。
日本先行リリースされたばかりの1stアルバム『Heavy Yoke』はThe Dillinger Escape PlanやExtolといったバンド名からもイメージできる、複雑怪奇でアヴァンギャルドなエクストリームミュージックが展開されていますが、そこに魅惑的なエレーニのボーカルが乗ることで唯一無二の世界観を確立させています。プレスリリースには「ケイト・ブッシュがボーカルのSlayer、もしくはアネット・ピーコックとDeathのコラボレーション」という例えが載っていましたが、それも頷ける独創的なヘヴィロックを堪能できるはずです。
最後はアジア圏から世界に向けて孤軍奮闘するバンドの注目作を紹介します。
1組目は台湾を代表するシンフォニックブラックメタルバンドChthonicの、5年ぶりの新作『政治=阿修羅の戦場 ~ BATTLEFIELDS OF ASURA』。ここ日本でも高い人気を誇り、『LOUD PARK』といったメタルフェスのみならず『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』への出演経験を持つ彼らですが、海外でも『Ozzfest』『Downlord Festival』『Wacken Open Air』など名だたる大型メタルフェスで名を馳せてきました。紅一点のドリス・イエ(Ba)はリーダーとしてこのバンドを牽引しつつ、女性権利団体を支持するほか、近年は女優として映画にも出演。フレディ・リム(Vo/二胡)は人権および社会正義の問題など、公共の事柄に積極的に活動し、現在は台湾国会議員として活躍しています。
『政治=阿修羅の戦場』という邦題が付けられた本作は、今まさに彼の人生が直面している現状をユニークかつ的確に表現した内容で、政治というフィルターを通して人々の怒り、悲しみ、憎しみ、希望、愛といった感情を表現しています。台湾の民族楽器を多用したオリエンタルな要素も健在で、シンフォニックメタルサウンドと融合することでよりダイナミックな世界観を構築。また、Lamb Of Godのランディ・ブライス(Vo)やアジアの歌姫デニス・ホーといったゲストをフィーチャーすることで、アルバム全体に込められたエモーショナルさが増す結果となりました。来年2月には久しぶりの単独来日公演も予定されているので、本作の魅力をぜひ生で体感してもらいたいと思います。
ここ日本にも忘れてはならないバンドが1組います。先頃、欧州最大規模のブッキング・エージェンシーX-ray Touringとの提携、そしてヨーロッパ圏での<Nuclear Blast / Arising Empire>との契約も発表されたLOVEBITESが、12月5日に2ndフルアルバム『CLOCKWORK IMMORTALITY』を日本先行リリースします(ヨーロッパでは12月7日発売)。アルバム発売に先駆けて、すでに11月からヨーロッパツアーを敢行中の彼女たちですが、ここ日本ではアルバムからのリードトラック「Rising」が先行配信され大反響を呼んだばかり。LOVEBITESらしいドラマチックでメロディアスなメタルサウンドが展開されるこの曲に、多くのファンが喜んだことでしょう。
アルバム自体もその期待を裏切らない、想像以上の完成度で、バンドとしてより表現の幅を広げることに成功しています。従来の彼女たちらしいメロウでファストなパワーメタルはもちろんのこと、スラッシーなナンバーやダンサブルなハードロック、そして新境地と言えるブリティッシュロック調のブルージーなバラードなど、聴き応えは過去最高。asami(Vo)のシンガーとしての表現力、バンドアンサンブルも非常に冴え渡り、これが“世界”を通過したバンドが生み出すサウンドなのか……と驚かされるポイントの多い1枚となっています。完全生産限定盤には今年6月の単独公演の模様が完全収録されたBlu-ray/DVDが同梱されるので、まだライブを観たことがないリスナーにはこちらもオススメです。
最後は、そのLOVEBITES絡みの新作を。メインコンポーザーのひとりであり、またマルチプレイヤーとしてLOVEBITESに欠かせない存在のMIYAKO(Gt/Key)と、ソロやUROBOROSといったバンドで活躍する実力派シンガー上木彩矢によるユニット、SONIC LOVER RECKLESSが3曲入りCDと3曲のライブ映像を収めたDVDで構成された作品『THE PHOENIX』を12月19日にリリースします。
音源自体は昨年10月にデジタル配信されていたものの、CD化はこれが初めて。どの曲もキャッチーでハードロライヴィングなハードロックサウンドに仕上げられており、安定感の強い上木のボーカルと卓越したMIYAKOのギターワークを存分に味わうことができます。LOVEBITESとはテイストこそ異なるものの、MIYAKOというアーティストの才能をLOVEBITESとは違った形で感じることができるはずです。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。