“アイドルゾンビ”が佐賀市を救う 『ゾンビランドサガ』の楽曲&作劇に溢れるオルタナティブな挑戦
この秋、10月のテレビ番組改変期に合わせて、50本以上もの新作アニメが登場。『ソードアート・オンライン アリシゼーション』や『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』といった人気シリーズの続編や、『転生したらスライムだった件』『ゴブリンスレイヤー』など原作の人気が高い作品が出揃い、近年稀にみる豊作ぶりとなっている。そのなかにあって、一風変わった作風でダークホース的な注目を集めているのが、ここで紹介する『ゾンビランドサガ』(以上、TOKYO MXほか)という作品だ。
アニメ制作スタジオのMAPPA、制作会社のエイベックス・ピクチャーズ、アニメ事業への出資にも積極的なCygamesの3社が共同で作り上げたこのオリジナルアニメ。『ゾンビランドサガ』というタイトルから察せる通り、ゾンビを題材にしているのだが、一般的にイメージされる「ゾンビもの=ホラー」という内容を期待すると、完全に裏切られることになる。『ゾンビランドサガ』は、「ゾンビ」「アイドル」「ご当地」の要素をコメディータッチで鮮やかにハイブリッドした新感覚ゾンビアニメなのだ。
その半ば強引とも言える組み合わせから、イロモノのように感じる方もいるかもしれないが、これが意外にもかつてなかったタイプのアイドルアニメとして見事に機能している。アイドルアニメと言えば『THE IDOLM@STER』(TBS系)『ラブライブ!』(TOKYO MXほか)シリーズの隆盛や、『アイカツ!』『プリティーリズム』『プリパラ』(以上、テレビ東京系)シリーズといった女児向け作品の一般への浸透もあって、今や多用化の一途を辿っている状態。なかには「アイドル」×「国会議員」の『アイドル事変』、「アイドル」×「ヤクザ」の『Back Street Girls -ゴクドルズ-』、そして「アイドル」×「魔法少女」×「男体化」の『魔法少女 俺』(以上、TOKYO MXほか)といった異色作も登場し、飽和が進む中で設定を先鋭化させることによって、他にはないオルタナティブな個性を生み出そうとする動きが顕在化しつつある。
そういった流れの中で、「ご当地」×「アイドル」の組み合わせは過去にも『普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。』(TBS系)『Wake Up, Girls!』(テレビ東京系)といった作品で描かれてきたが、「ゾンビ」×「アイドル」を主題に置いたアニメ作品はおそらく本作が初めて。しかもゾンビという存在をコミカルに描写することで、シュールなドタバタ劇の要素も加わっており、本来は死人である登場キャラクターたちの生前の過去を匂わせることでドラマ的な奥行きが生まれるなど、作劇的にも非常にハイセンスなものとなっている。なにより普段はあまり陽の目を浴びることの少ない佐賀という場所を「ご当地」として選び、実際に佐賀県の協力のもと、佐賀の良さをしっかりとアピールする作品としての姿勢が素晴らしい(これはCygamesの渡邊耕一代表取締役社長が佐賀県出身ということに由来するようだ)。