Mr.Children、26年間の歩みで導かれた一つの答え 全曲詩集『Your Song』から紐解く
〈僕が歌詞を書くのは、誰かにとっての「歌」になりたいから。〉
Mr.Childrenがデビューから最新アルバム『重力と呼吸』までの26年間に発表してきた歌詞をまとめた全曲詩集『Your Song』のまえがきで、桜井和寿はそう記している。だが、バンドの詞の大部分を書いてきた彼のまえがきは、冒頭に引用した結論に至る道筋を理路整然と説明しているわけではない。歌詞に対する考えを語ろうとして、話はあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。そうしたまとまりのなさをあえて直さないまま本に残し、ふと思い当たったように答えを書きとめているのだ。〈あなたが主役の、あなたの「歌」になりたい。〉と。
とはいえ、道筋が整っておらず、行ったり来たり思い惑うところはマイナスにならず、Mr.Childrenの、というか作詞家桜井和寿の言葉にむしろ力を与えてきた。だからこそ、思い惑う〈あなた〉たちの歌にもなって、彼らはモンスターバンドに成長したのだろう。ここでは、年代順で本に収録された詞の数々をふり返ってみよう。
Mr.Childrenのデビューミニアルバム『EVERYTHING』(1992年)が、〈途切れた受話器ごしの声 最後の言葉を探して〉の一節がある「ロード・アイ・ミス・ユー」から始まっていたのは、今読むと趣深い。言い淀んで簡単には言葉にならない感情を歌にしたことが、桜井のスタート地点だったわけだ。また、『EVERYTHING』は、子供時代を回想する「CHILDREN’S WORLD」で締めくくられていた。Mr.Childrenーー“子供”という言葉を含む名を持つこのバンドは、子供の頃と大人になった今を比べ、自分の立ち位置を確認するような曲を以後も時おり発表していく。北極星を見て方角を確かめるのに似て、子供時代との違いを意識しつつ人生を歩むのである。例えば、〈世間知らずだった少年時代から〉と始まる「Everything(It’s you)」(『BOLERO』1997年)や、〈「ガキじゃあるまいし」〉と自省する「終わりなき旅」(『DISCOVERY』1999年)のように。
初期のMr.Childrenは、君と僕のなかなかうまくいかない恋を扱った曲が多く、歌詞らしい歌詞を書こうとする意識が強かったようにみえる。それが大きく変貌したのは、サウンド面での新機軸も目立った『Atomic Heart』(1994年)からだろう。「Dance Dance Dance」で世界、正義、未来、「ジェラシー」で宇宙、人類、地球、「ASIA」でアジアなど、大きなテーマを題材にし始めた。一方、「innocent world」、「クラスメイト」では仕事に追われる人々が登場する。恋愛ばかりではなく社会にも目を向け始めたが、大問題だけを扱うのではなく、等身大の生活感もある。そういう大人のバンドに脱皮した。このアルバム以後、桜井の詞は制約がなくなったかのごとく、どんどん自由さを増す。