May J.がファンに伝えた“歌うことの喜び”と感謝 弦楽四重奏とのハーモニー届けたツアー最終公演
「ふー! 緊張するわ!」と言いながらピアノの前に座ったMay J.。「私はピアノが苦手です。でも苦手なことに挑戦しないと小さな人間になっちゃう気がして」と、自身の思いを吐露する。そして「みんなも苦手なことやってる?」と客席に投げかけ、「やってないー」という返答があると、「やれい!」と一喝(笑)。そんな微笑ましいやり取りの後、ピアノ弾き語りで「母と娘の10,000日~未来の扉~」が歌われた。曲の中盤からは弦やバンドが加わり、美しいサウンドスケープを描き出していく。続く「HERO」でもMay J.はピアノを演奏しながら、ウエットで力強いボーカルを高らかに鳴らしていく。そこで歌われた感動のメッセージと、挑戦心を忘れないMay J.の素敵な歌とピアノに対して、オーディエンスからは大きな拍手が贈られた。
インタールードを挟み、衣装チェンジしてステージに戻ったMay J.。後半戦は、圧巻のボーカリゼーションで会場を震わせたオペラ楽曲「Time to Say Goodbye」からスタートした。どこまでも伸びていくロングトーンに歓声が沸き上がった「Never Enough」の後は、昨年リリースされたアルバム『Futuristic』収録曲や、『Cinema Song Covers』に収録された新曲などをたっぷりと聴かせていく。「My Star ~メッセージ~」では、タイトル通りの真摯なメッセージをサウンドに乗せて鮮烈に放った。力強い疾走系ナンバー「絆∞Infinity」から、みんなでタオルを振り回した「One to Love~心、ひとつに~」の流れでは、ライブハウスならではの心地よい高揚感を感じることができた。ファンキーな「Shake It Off」や、ミラーボールが光の粒を降らせる中で歌われた「Break Free」では、May J.自身のルーツであるブラックミュージックのフレイバーがほんのり香っていたのも良かった。そして、彼女にとって大きな意味を持つであろう楽曲「Let It Go ~ありのままで~」で大合唱を巻き起こした後、「これからもみんなが強く美しく生きていけますように」という一言を乗せて歌われたバラード「ロンド」でライブ本編は感動のうちに幕を閉じた。
客席から自然発生的に生まれた「ありがとう」の大合唱に導かれるようにステージへ戻ってきたMay J.がゆっくりと口を開く。今回のツアー中、夏風邪によって声がまったく出なくなるというアクシデントにみまわれたという彼女は、「そのときに歌えることの喜び、そして心配して支えてくれるファンの大切さをあらためて感じました」と、無事にファイナルを迎えられたことへの感謝を伝える。
そんなMCの後、アンコールへ。次に歌う曲をファンの拍手によって決めるという試みがなされ、僅差で映画『ボディガード』の「I Will Always Love You」が歌われた。歌い終わった彼女はテンション高く、「もう1曲も歌っちゃおうか」と、もう一方の候補だった映画『タイタニック』の「My Heart Will Go On」も歌ってくれた。「結局、両方歌うんかーい!」という突っ込みが聞こえてきそうだったが(笑)、ファイナル公演を楽しみ尽くしている彼女の笑顔が最高だったし、何よりファンにとっては最高の贈り物となったはずだ。
そして彼女は再び話し出す。
「今年デビュー13年目。その間には本当にいろんなことがありました。ツラくて苦しくて悔しいこともたくさんあって、自分らしくいられない時期もありました。でも私はみんなが見捨てずについてきてくれたことに助けられました。みんながいるから今の私がいる。みんなの隣にこれからも寄り添って、みんなと一緒に歌いたい。そう思って作った曲です。たくさんの感謝、愛をこめて歌います」
ラストナンバーは「SIDE BY SIDE」。感情たっぷりに思いを届けるMay J.と、曲中の“♪ラララ”のパートで大合唱するファンたちの思いが美しく重なっていく。それはツアーファイナルならではの、この日だけの美しいハーモニーだったように思う。
「また遊びに来てください。そこでまた新しいハーモニーを奏でましょう」
「橋本はみんなが大好きでーす!!」
満面の笑みを浮かべたMay J.は最後に生声でこう叫んで、約2時間半のライブ、そして約2カ月に渡るツアーは幕を閉じた。弦楽四重奏を迎えた初ツアーの経験はこれからの彼女にとっての大きな糧となり、さらなる表現にきっと繋がっていくことだろう。
(取材・文=もりひでゆき)