『inifinite synthesis 4』インタビュー
fripSide 八木沼悟志が語る、アレンジに対するこだわり「メロディメーカーでいることが第一」
八木沼悟志と南條愛乃によるユニット・fripSideが、10月10日に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム『infinite synthesis 4』をリリースした。同作は昨年15周年を迎えたfripSideの活動を経たのち、「killing bites」「divine criminal」といったシングル曲を踏まえて作り出されたアルバムだ。
今回リアルサウンドでは、ユニットのメンバーにしてプロデューサー、楽曲制作の核を担う八木沼にインタビューを行い、「メロディーメーカーとしての矜持」や「マクロの視点とミクロの視点」、「作詞家としての八木沼悟志」といった様々な視点から、同作について語ってもらった。(編集部)
メロディメーカーとしての矜持の詰まった新作
ーー早速の質問ですが、今回のアルバム『infinite synthesis 4』や2018年に入ってからのシングル曲「killing bites」「divine criminal」のサウンドデザインは八木沼さんと南條さんはこれまでみんながイメージしてきた“fripSideという存在”とは異なるアプローチをなさろうとしているのかしら? と思ったんですよ。八木沼:昨年の15周年の様々なライブ活動を経て、これまでの自分が送り出してきた作品やステージがファンに受け入れてもらえてるなという実感を強く受けまして。ファンとの信頼関係というか……。そういうものをより強く認識できた1年だったんです。それを踏まえて更にお客さんに喜んでもらえるように、恐れずどんどん進化を遂げていこうという気持ちになったのが大きいですかね。もちろん僕自身も同じことを続けていたら飽きますし、もし僕が飽きたとしたらきっとお客さんを飽きさせてしまうだろう、とは思います。おかげさまで長く活動させてもらっている分、特にトラックメイキングにおいては知識や経験が増えており、引き出しの大きさやスキルが上がったという自負があります。だからファンに対して新たな提案として、ストリングスを聴かせる楽曲であったりとか、テンポはゆっくりなんだけど、心は熱く燃えるみたいな楽曲であったり、ロックがあったり、今まで通りの曲があったり、といったバリエーションを含んだ一枚が完成したのだと思います。
ーー今のお話を聞いたことでより一層気になったのが、今回のアルバムの中でも、八木沼さんのおっしゃる「テンポはゆっくりなんだけど燃える」楽曲群。「divine criminal」や「Edge of the Universe」あたりのシンプルだったり、ミニマルだったりするアレンジの曲がそうだと思うんですけど、知識や経験が増えたことによってアレンジが派手になるのではなく、シンプルになっていく、というのは面白い矛盾をはらんでるな、という気がしました。
八木沼:それは曲によりけりで、今回はこういうアレンジを選択した、というだけだったりはするんですけどね。以前だったら「divine criminal」「Edge of the Universe」みたいなメロディを書いても、キャリアが浅かったぶん、今回のようなアレンジはできなかった。繰り返しになっちゃうんですけど、経験を積んだことでメロディに似合うアレンジもできるようになったということなのかな、という気がしています。たとえば手持ちのアレンジのレシピが増えたというか……。
ーーあくまでメロディありきのアレンジである、と。
八木沼:そうですね。極論を言うと、テンポやビートよりも研ぎ澄ましたメロディありきのアレンジですから。特にfripSideのようなサウンドにおいて、逆にビートで保っている曲がホントにいい曲になりうるか? と言ったら、そういう感じはしないんですよね。
ーーあっ、では少し誤解をしていました。多彩なアレンジをなさる方だからアレンジャーとしての自意識みたいなものが強いのかな、と思っていて。
八木沼:いや、あくまでメロディメーカーでいることが第一ですね。アマチュア時代から真ん中にボーカリストを立てて、という形態で音楽活動をしてきたので、その人が歌うメロディを聴いた方が何かを感じてくれるのが一番うれしいことですし。
ーー今回、八木沼さんは既発のシングル曲を除けば10曲以上、新曲を書き下ろしていて。しかもそれがすごくバラエティに富んでいる。ちょっとバカみたいな聞き方になっちゃうんですけど(笑)、なぜここまで「fripSideらしさ」を担保しつつも、多彩なメロディが書けるんですか?
八木沼:うーん……。作曲で悩むことがほとんどないから、なんでいろんなメロディが書けるのかはお答えできないんですけど、先ほどもお話しましたが、ある意味お客さんを信じているというか。僕が「fripSideの新曲です」ということでリリースしたメロディが、今のところちゃんと受け入れてもらえてますから。これがもし誰にも聴かれなくなったら、さすがに「fripSideらしさ」について考えなきゃいけないようになるんじゃないのかなあ。
ーー今回のアルバムを制作するにあたっての構想、ビジョンって具体的に言葉にできたりします?
八木沼:そうだなあ……。そのときやりたいことをつべこべ考えずにやるっていうのが、この「infinite synthesis」シリーズなんですけど。今回はビジュアルもそうですが、宇宙のような大きなものに目を向けながら最終的にはパーソナルなところに話が収まっていく。そういうマクロの視点とミクロの視点を1枚のアルバムを通して表現できたら面白いんじゃないかな、というコンセプトがありましたね。だから「Edge of the Universe」というまさに宇宙視点の曲から始まって、「Like a blink, a short night」=「まばたきするように短い夜」というごく個人的なイメージを歌う曲で終わる構成になっているんです。
ーーその「Like a blink, a short night」と「you only live once」の2曲を除けばすべて八木沼さんが歌詞を書いていますが、共通して感じるのは、どの曲もマクロな視点から物語が始まって、最終的に1人の人間の実存の問題や希望といったミクロな視点に話が収斂する詞になっていること。ある意味それがfripSideらしさでもあるのかと思うのですが、そのfripSideらしい歌詞ってどうやって書くんですか? 最初にキーワードになる言葉が浮かぶのか? それとも風景みたいなものが浮かんでそれを表現する言葉を探すのか?
八木沼:うわー、オレ、どうやって詞を書いてるんだろう……(笑)。
ーーあっ、意識的に「詞を書くぞ」というモードになるわけではなくて、パソコンやノートの前に向かったら自ずと言葉が浮かんでくる感じ?
八木沼:そういう感じかもしれませんね。それにはメロディメーカーであるっていうことも影響しているんだと思います。僕らは先に曲を作って、そのメロディに歌詞を乗せるスタイルでやってるんですけど、作曲の段階で「こういう曲にしよう」っていうイメージがあるから、そのイメージを具体化、言語化している感じなんですよね。だから逆に言うと、歌詞のことは常に考えているんだと思います。作曲をしているときから。