「甲子園」インタビュー
福山雅治が明かす、「甲子園」楽曲制作の裏側 「自分の音楽体験の全てを5分間に詰め込んだ」
MVのイメージはコーチェラのビヨンセ
ーーこの後、テレビの音楽番組やライブでも「甲子園」を披露するわけですけれど、実際に演奏するときにはどういう編成なのかというのも気になります。
福山:最初に言ってしまうと、ブラスバンドの人数はレコーディングの時よりは少なくなります。全員、全パートという再現性は正直難しいです。なぜなら各パートでダビングもしていますし、ステージに乗り切らないというのもある。なので、編成は小さくなるんですけれど、曲の聴こえ方は変わらないと思います。まあ、完全再現するんだったら、今年コーチェラ・フェスティバルに出た時のビヨンセくらいやらないと。
ーーステージの広さが足りない、と。
福山:でも、MVのイメージはコーチェラのビヨンセからインスパイアされたんですよ。
ーーそうなんですか? 確かにあれもブラスバンドでしたね。
福山:そうそう。ニューオーリンズ風味でしたからね。
ーーあのMVはビヨンセのライブに刺激を受けて生まれたところがある。その話、すごく面白いです。
福山:「ビヨンセもそこなんだな!」と思って勝手に嬉しくなっちゃってました(笑)。で、「オレンジの悪魔」と呼ばれる京都橘高校のブラスバンドにお願いしたんです。映像で検索してて出会ったんですが、一発で京都橘高校のファンになっちゃいまして。偶然にもオレンジのカラーがコーチェラの時のビヨンセをイメージさせるところがあって。
ーーその話を聴いてすごく興味深いと思ったんですけれど。コーチェラでのビヨンセのライブって、パフォーマンスのテーマのひとつが「黒人女性の連帯」だったんです。アメリカの大学にはソロリティという女子学生グループの団体があって、そこでの繋がりがその後の人生においても重要な役割を果たしている。チアリーディングというのも、それをイメージしたパフォーマンスになっていた。で、一方で「甲子園」という曲は、球児たちの仲間との絆を描いた曲でもある。そういうことを考えると、形だけMVに取り入れたというよりも、曲のテーマの核心の部分で近いところがある。
福山:奇跡的にビヨンセとつながりましたね(笑)。僕はビヨンセがそういうテーマを持ってライブをしていたという話は今知りましたけれど、チアリーディングも、ブラスバンドも、甲子園自体も、チームワークが大事ですし。チームプレーであって、一人じゃできないもの、ということが歌詞になっている。「One for all. All for one」というのがテーマになっているわけですから。
ーーNHKの特設サイトでも、いろんなブラスバンドが演奏している映像が公開されていますよね。あれを見ても、アレンジのやり甲斐がある曲だなって思いました。どのパート、どの旋律をどの楽器に割り振るかで、それぞれの個性が出る。
福山:そうですね。ただ、作曲家からの勝手なイメージを言わせてもらうと、さっき言ったみたいに、1コーラス目はクラシカルな旋律、クラシカルなグルーヴ感で行ってもらい、で、2コーラス目に入ったら急にスウィングしてもらいたいんです。サビ前のキメのフレーズは譜面で書くと8分音符なんですけれど、実際はもっとスウィングしてるんです。
ーーあのフレーズは曲のポイントになっていると思いました。
福山:あのスウィング感が出してもらえたら嬉しいですね。
ーー練習しがいがある、チャレンジングな曲だと思います。
福山:そこから、さらにみなさんなりの解釈で聴かせていただきたいですね。
ーーそういう意味でも、この曲はこの先ずっと残っていく曲になりそうですよね。来年の甲子園大会でもブラスバンドが演奏している風景が目に浮かびますし。この先10年、20年と定番化していきそうな気がします。
福山:そうであってほしいなと願っています。タイトルの「甲子園」という言葉もそうなんですが、今回は100回記念大会ということでオファーをいただいたんですが、もし万が一100年後の200回大会のときにこの曲が使っていただけるならば、と、おこがましくもイメージしました。もし使っていただけてなかったとしても、「この曲ってなんだっけ?」というのがわかるようにしたかったんですよね。これまた勝手な僕のエゴですが(笑)。
ーーというと?
福山:タイトルは最後まで悩んだんですよ。「あと一歩」というタイトルにしようかなとも思ったんです。
ーーなるほど。それは曲のテーマの言葉でもありますね。
福山:それで「あと一歩」ってタイトルにしようかなとも思ったんですけれど、100年経ったときに、おそらく放送で使われてない可能性のほうが高いし、僕も確実に死んじゃっているわけですよね。あと、50年、100年経ったら、高校野球が「甲子園」と呼ばれなくなる可能性も十分にある。夏の高校野球は暑すぎるからドームでやってるかもしれない。ということで言うと、100年後は誰も甲子園と呼んでないかもしれない。だけど「100年前はこの大会のことを甲子園と言っていたんだよ」という風になったら嬉しいな、と思ったんです。
ーーなるほど。すごく長いスパンの歴史を考えていた。
福山:欲張りすぎですかね(笑)。
ーーたしかに、考えてみたら、ニューオーリンズのジャズも、高校野球も、およそ100年前に生まれたものですしね。
福山:そうですよね。ちょうど同じタイミングでそうなった。勝手ながらそういう歴史にも親和性を感じたんですかね。
(取材・文=柴那典)
「甲子園」
8月27日(月)よりデジタルリリース
ダウンロード:レコチョク、iTunesほか
サブスクリプションサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Spotify、AWA、Google Playほか
ハイレゾ:レコチョク、mora、e-onkyoほか
「甲子園」特設サイト
「甲子園」Original Music Video(Short ver.)+ Making
「甲子園」プロモーション映像
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福山雅治 <ユニバーサルミュージック>オフィシャルサイト