福山雅治は“新たな刺激”を求め続ける音楽家だ 新曲「零 -ZERO-」インタビューから柴 那典が考察

福山雅治は“新たな刺激”を求め続ける音楽家だ

 福山雅治が、新曲「零 -ZERO-」を配信リリースした。

 劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』の主題歌として書き下ろされたこの曲。まず一聴して強く印象に残るのは、ラテンミュージックやフラメンコの要素をオリジナルなやり方で取り入れた曲調だ。

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 筆者がこの曲を最初に聴いたのは、3月6日に行われた福山雅治のライブ『WE’RE BROS. TOUR 2018』の日本武道館公演でのことだった。その日の終演後にも「ラテンを今までにない回路でJ-POPの疾走感に接続した発明の感」とツイートしたが、改めて、その思いを強くしている。端的に言って、とてもユニークな構成の曲なのである。

 楽曲はガットギターのストロークと哀愁あふれるトランペットのフレーズから始まる。マイナー調の歌の旋律はBメロで大きく旋回し、力強く歌い上げるサビへと展開する。リズムパターンも、ゆったりとしたグルーヴや性急なビートなど、パートごとに目まぐるしく変化していく。よく聴くと2番のサビが1番のサビの倍速になっていたりもする。

 こういった忙しない曲構成が、この曲の不思議な感触に結びついている。

 日本においては歌謡曲の時代からラテン音楽の要素を取り入れたヒット曲は珍しくないのだが、その多くは、同じコード進行や“クラーベ”と言われるリズムパターンの繰り返しを軸にするラテンの曲構造に日本語の歌詞とメロディを乗せたもの。しかしこの曲ではリズムやコード進行のシンプルな繰り返しはない。むしろ、アニソンも含む現在のJ-POPの複雑に入り組んだ曲展開が骨組みになっている。

 なかなか説明がややこしいことになってしまったが、とにかく、単に“ラテンの要素を取り入れた”というだけではない刺激的な曲作りが結実しているのである。

 先日、筆者は福山雅治本人にインタビューする機会に恵まれた。この曲でラテンを取り入れようと思った背景について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「僕自身が最初にラテンミュージックを意識して自分のポップスに取り入れたのは1999年の『HEAVEN』という曲です。その頃ヴィム・ヴェンダース監督の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』という映画にハマって、キューバを旅したりしていたこともあって。日本では昔から歌謡曲にラテンの要素が取り入れられることもありましたけれど、それを自分なりに消化するとどうなるのかを表現したのがこの曲だったんですね。今回はそこから時を経て、改めて自分の中でラテンというものがどんな風に熟成されているのかを表現しようと思ったんです。あとは、曲作りやプリプロでガットギターを使い始めたのも大きいですね」

 昨年にリリースされたシングル曲「聖域」でもジャズやスパニッシュミュージックを取り入れ、新境地を開拓していた福山雅治。そこでもガットギターが活躍していたが、この曲でもやはり大きなインスピレーションの源になったようだ。それだけでなく、昨年あたりから彼の中での音楽との向き合い方も変わってきているという。これまでのキャリアで築いてきた“福山雅治らしさ”にこだわることなく、新たな刺激を貪欲に形にしようとしている。

「大きく影響しているのは、以前にやらせていただいた『SONGLINE』というTV番組(『SONGSスペシャル 福山雅治 SONGLINE ~歌い継ぐ者たち~』/NHK総合)ですね。その番組で、ニューオーリンズでジャズの源流を探ったり、ブラジルを訪れてサンバがどのように誕生したかを取材させてもらった。音楽が商業化される以前の音楽と人間の関係性を学ぶことができたんです。そこから、現在の音楽マーケットがどうこうではなく、もっと今の自分がエモーショナルに感じていることをリアルタイムで表現していくべきだと思ったんです」

 こうして作られた「零 -ZERO-」のポイントは、さまざまな音楽のテイストが一曲の中に凝縮されたような曲調にある。なかでも聴きどころになっているのが、ロック色の強い骨太なギターフレーズが繰り広げられる間奏のパートだ。

「この楽曲の中にはラテンミュージック、フラメンコと、J-POP、さらに60年代から70年代にかけてのブリティッシュ・ロック的フレーズも散りばめられています。間奏は、The Kinks的だったりDeep Purple的な、僕らの世代でギターを始めた人だったら誰でも弾いたことがあるような古典的なロックのフレーズを組んでみました。間奏のコンセプトとしては、本当はエレキギターを弾きたいけれどガットギターしか持っていないラテンのバンドがDeep Purpleをコピーしてみたらどうなるか? みたいなことをやっていますね」

 福山雅治は今、音楽家として、とても挑戦的な試みを繰り広げている。それが、「零 -ZERO-」を聴いての筆者の率直な感想だ。

 特に、昨年にルイス・フォンシ&ダディ・ヤンキーの「Despacito」が世界的なヒットとなるなど、ラテンミュージックは再び大きな盛り上がりを見せているフィールドだ。そういうところにアンテナを張り、それを自分なりのセンスで血肉化する。しかもそれを劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』主題歌という、子供から大人まで広くターゲットを見据えた日本語のポップスとして表現する。そういう、とても面白いことを今の福山雅治は試みている。そのことは、もっと広く音楽ファンに知れ渡っていいのではないかと思う。

「僕としては、自分が今感じている世界の潮流をどうやって自分なりのエッセンスにしてオーディエンスと共有していくかを考えています。あくまでも僕なりの解釈ですが。そういうアプローチが『零 -ZERO-』の曲調になっていると思いますね」

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば」Twitter

■リリース情報
福山雅治新曲「零 -ZERO-」
デジタル配信開始日:2018年4月7日(土)

動画配信サイトGYAO!にて「零 -ZERO-」MV(ショートバージョン)独占先行公開中

■関連リンク
福山雅治オフィシャルサイト

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