アレサ・フランクリンはソウルとポップス繋ぐ架け橋だったーー高橋芳朗が音楽家としての功績を解説

「彼女が素晴らしいソウルシンガーなのはもちろんですが、プロデューサーやソングライターとしても非凡な才能を持っていたことを、この機会に改めて評価すべきではないかと感じています。彼女はジャンルをクロスオーバーする柔軟さも持ち合わせていて、ソウルとポップスを繋ぐ架け橋でもありました。70年代初頭にはヒッピームーブメントの聖地だったライブハウス『フィルモア・ウェスト』に乗り込んで、普段ロックを聴いているようなオーディエンスを圧倒しています。このときの模様はアルバム『Aretha Live at Fillmore West』として記録されているのでぜひ聴いてみてください。また、80年代に入ってもジョージ・マイケルやユーリズミックス、キース・リチャーズ、エルトン・ジョンらと共演しています。ソウルミュージックのパブリックイメージに忠実でありながら、その時代ごとのサウンドにもフレキシブルな対応を示しているんです」

 現在、活躍するアーティストたちにも、アレサ・フランクリンは絶大な影響を与えているという。

「ソウルミュージックはゴスペルやリズム&ブルースから派生して公民権運動の高まりとともに発展していった背景があります。つまりソウルミュージックは、黒人の尊厳を象徴する音楽なんですよ。アレサ・フランクリンの歌声はそれを体現するような力強さがあったのに加えて、女性の権利や自由を強烈に訴えるものでもありました。「Respect」が発売から50年以上経った今でもフェミニストアンセムとして歌い継がれているのは、そんなアレサの歌力あってこそでしょう。『Me Too』や『Time's Up』の運動が盛り上がっている現在、特に女性シンガーが歌を通じてフェミニズムを表現しようとしたとき、アレサ・フランクリンとはいやがうえにも向き合うことになるでしょうね。そういう視点からポップミュージック史を俯瞰すると、アレサはマドンナと双璧を成す存在といえるかもしれません。

 音楽的な意味合いでいくと、積極的にクロスオーバーを推し進めていった彼女のアティテュードは、昨今のインディーR&Bのアーティストに大きな刺激を与えることになりそうです。シンガーとしての資質は異なりますが、例えばソランジュのようなアーティストの作品群からはアレサ・フランクリンに通じる態度を感じます。ソウルファンからはあまり評価されてこなかった70年代のアレサ・フランクリンの諸作が、昨今のボーダレス化が進む音楽シーンの流れを受けて再評価される可能性もあるのではないでしょうか。また、現在のR&Bシーンでは『ドレイク以降』ともいえるラップと歌の境界線を行き交うようなシンガーがもてはやされる傾向にありますが、今回のアレサの件を通じてオーセンティックな正統派のソウルシンガーの良さが再確認されるようになるといいですね」

 現在、レニー・クラヴィッツ、クインシー・ジョーンズ、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニー、ニッキー・ミナージュ、マライア・キャリーなど、幅広いジャンルの大物アーティストがアレサ・フランクリンを哀悼している。その歌声とアティチュードは、これからも多くのアーティストの指針となり、受け継がれていくだろう。

(文=松田広宣)

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