リオン・ブリッジズが提示する“レトロ・ソウルのネクストレベル”とは? 高橋芳朗が紐解く

 デビュー作が第58回グラミー賞「最優秀R&Bアルバム」ほか2部門にノミネートされた新世代ソウルシンガーのリオン・ブリッジズが、約3年ぶりとなる2ndアルバム『Good Thing』を5月4日に発売し、Billboard 200では全米初登場3位を獲得。23日には、高音質Blu-specCD2仕様でボーナストラックを収録した国内盤をリリースした。

 同作はレトロ・ソウルを継承しつつもモダンな要素が加わり、時代や世代を超えた良質なR&Bアルバム。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏も度々Twitterで絶賛するなど、日本のリスナーとも相性が良さそうな作品に仕上がっている。今回は、そんな『Good Thing』を各時代のR&B・ソウルミュージックに詳しい音楽ライター・高橋芳朗氏に紐解いてもらった。(編集部)

 

  2006年のエイミー・ワインハウス『Back to Black』の大ヒットを契機として、世界規模の盛り上がりへと発展したレトロソウル/ビンテージソウル。主に50~60年代のソウルミュージックやリズム&ブルースのエッセンスを現代に甦らせたそのスタイルは一過性の流行で終わることなく、現在ではブラックミュージックのサブジャンルとして完全に確立された印象がある。

 エイミー・ワインハウス『Back to Black』に端を発するレトロソウルのムーブメントは、その後ラファエル・サディーク『The Way I See It』、ソランジュ『Sol-Angel & The Harley St. Dreams』、ダフィー『Rockferry』(以上すべて2008年)、メイヤー・ホーソーン『A Strange Arrangement』(2009年)といった名作群によって一気に拡大。2010年代に入ってからはさらなる広がりを見せ、全米チャートではシーロー・グリーン「FUCK YOU」(2010年)やメーガン・トレーナー「All About That Bass」(2014年)など、レトロソウルの手法を用いた楽曲がたびたび1位に輝いている。

 そんなメインストリームの動きの一方、メイヤー・ホーソーンを送り出した西海岸アンダーグラウンド・ヒップホップの名門<Stones Throw>は、アロー・ブラック『Good Things』(2010年)、ニック・ウォーターハウス『Time’s All Gone』(2012年。傍系レーベルの<Innovative Leisure>からのリリース)、マイロン&E『Broadway』(2013年)など、良質なレトロソウル作品をコンスタントに発表。こうした流れを追随するようにして、フランスのベン・ロンクル・ソウル『Ben L’Oncle Soul』(2010年)、スウェーデンのジャスミン・カラ『Blues Ain’t Nothing But A Good』(2012年)、ドイツのThe Floorettes『Pocket Full of Soul』(2013年)など、ヨーロッパ各地からも続々とレトロソウルを指向するアーティストが台頭してきた。

 そして、エイミー・ワインハウス『Back to Black』の世界的ブレイクから約10年が経過した2015年。レトロソウルが多様化していくなか、その真打ちとして突如現れたのが「サム・クックの再来」と謳われたテキサス州フォートワース出身のソウル・シンガー、当時25歳だったリオン・ブリッジズだ。

 実に40社に及ぶレコード会社による争奪戦の末の米コロムビアとの契約、そんな「伝説」を強化するような『SXSW』(毎年3月にテキサス州オースティンで開催される大規模フェス)での最優秀パフォーマンス賞受賞など、まさに鳴り物入りで登場したリオンはデビュー間もなくしてそのポテンシャルを見せつけていく。彼はビンテージの機材を駆使してレコーディングした1stアルバム『Coming Home』でいきなり全米R&Bチャートを制すると、第58回グラミー賞では最優秀R&Bアルバム賞にノミネート。惜しくも受賞は逃したが、その直後にはバラク・オバマ大統領がホワイトハウスで開催したレイ・チャールズのトリビュートイベント『Smisonian Salutes Ray Charles』に出演。アッシャーやブリタニー・ハワード(アラバマ・シェイクス)ら錚々たる顔ぶれのなか、新人らしからぬ堂々たる振る舞いでレイの「Lonely Avenue」を披露した。

 『Smisonian Salutes Ray Charles』のステージ上、クラシックなジャケットに身を包み、ディープななかにもほどよい甘さを含んだボーカルでレイ・チャールズのレパートリーを歌うリオン。その姿はまさに60年代のソウルシンガーが現代にタイムスリップしてきたかのようだったが、ちょうど「新しい公民権運動」と呼ばれる「Black Lives Matter」のムーブメントが活発化してきた最中、サム・クックを引き合いに出して語られるような資質の歌い手が現れてきたことにはなにか運命めいたものを感じてしまった。2015年は「Black Lives Matter」のサウンドトラックとしても機能したケンドリック・ラマーの名盤『To Pimp a Butterfly』がリリースされた年だが、その数カ月後に出たリオンの『Coming Home』もまた別の観点からブラック・ヒストリーを讃えた作品といえるだろう。リオンの歌は、単にノスタルジーを喚起させるだけの「レトロ」とは一線を画していたのだ。

 デビュー当時、リオンは「自分が往年のソウルシンガーと肩を並べられるなんて思ってない。だが、伝統的なソウルミュージックのスピリットを次世代につなげていきたいとは思っている」と自らの役割について語っていたが、そんな使命感は『Coming Home』から3年を経ての2ndアルバム『Good Thing』の節々からも聴き取ることができる。

Leon Bridges – Beyond (Audio)

 エグゼティブ・プロデューサーに第59回グラミー賞で最優秀プロデューサー賞にノミネートされたリッキー・リード(メーガン・トレーナー、ジェイソン・デルーロ、Twenty One Pilotsなど)を迎え、さらにウェイン・ヘクター(ニッキー・ミナージュ、One Directionなど)、ジャスティン・トランター(Maroon 5、ジャスティン・ビーバーなど)、ダン・ウィルソン(アデル、テイラー・スウィフトなど)といった当代きっての売れっ子ソングライターを起用した今回の『Good Thing』では従来の50~60年代ソウル色が後退してぐっとモダンなつくりになっているが、リオンの歌が織り成すしなやかなブラックネスはここでもなんら損なわれていない。

Leon Bridges – Bet Ain’t Worth the Hand (Official Video)

 カーティス・メイフィールド「The Makings of You」をサンプリングした70年代スウィートソウルのオマージュ「Bet Ain’t Worth The Hand」、アンダーソン・パークの影響をうかがわせるクールなジャズファンク「Bad Bad News」(早くもテラス・マーティンによるインストゥルメンタル・カバーが出た!)、The Isley Brothers流儀のフォーキーソウル「Shy」、ヴァン・モリソンやFaces時代のロッド・スチュワートが歌ってもしっくりきそうな大らかなカントリーバラード「Beyond」、ファレル・ウィリアムスの作風を想起させるウィスパーズ「It’s a Love Thing」使いのディスコチューン「If It Feels Good (Then It Must Be)」、ネイト・マーセローのシャープなギタープレイが冴え渡るシック調のエレガントなファンク「You Don’t Know」など、曲ごとに多彩な表情を見せていくリオンのソウルスタイリストぶりはどうだろう。『Coming Home』からの大胆な変貌に戸惑いを覚える向きもいるかもしれないが、古風な歌い口からくるリオンのテンダーな持ち味はむしろより強調された印象を受ける。

Leon Bridges – Bad Bad News (Official Video)

 サム・クックと比較されたディープでクラシカルなボーカルの魅力を維持したままにサウンドをモダン化させるという、意表を突くアプローチでレトロ・ソウルのネクストレベルを提示してみせたリオン・ブリッジズ。アメリカの混沌とした社会情勢のなかでブラックミュージックの在り方が問われるなか、いやがうえにも「歴史」と「伝統」を帯びてくる彼の歌にはやはり特別な響きがある。2018年のいま、リオンの声はただそれだけでメッセージになり得るのだ。

■高橋芳朗
1969年生まれ。東京都港区出身。ヒップホップ誌『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。Eminem、JAY-Z、カニエ・ウェスト、Beastie Boysらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。

リオン・ブリッジズ『Good Thing』

■リリース情報
『Good Thing』(国内盤CD)
発売:国内盤CD 5月23日(水)
輸入盤CD 発売中
価格:国内盤CD(高品質Blu-spec CD2仕様&ボーナストラック1曲収録&解説・歌詞・対訳付き) 2400円+税
輸入盤CD(全10曲) iTunes購入リンク
ボーナス・トラック1曲収録

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