エイベックス 黒岩克巳社長が語る、音楽ビジネスの変化と30周年迎えた同社の新展開

エイベックス 黒岩克巳社長が語る、音楽ビジネスの変化と30周年迎えた同社の新展開

日本の音楽マーケットの行方

ーーちなみに海外ではパッケージの売り上げが落ちていく中、ここ数年でSpotifyといったサブスクリプションサービスが浸透し、特にアメリカや欧州の一部では音楽産業がV字回復のような状況にあります。日本がその流れに続けるかどうかがひとつの焦点になっていると思います。

黒岩:まず、テクノロジーの観点でいえば、日本もアメリカや欧州に追いつけると思います。コンテンツの観点においては、パッケージ全盛期の時よりもなぜ米国や欧米の売り上げが上がっているのか。まずひとつはマーケットの規模がグローバルに広がっている点が挙げられるでしょう。テクノロジーの発達によって、例えばアフリカや東南アジアなど、これまでCDを届けきれなかった国にも音楽を届けられるようになりました。グローバルコンテンツだから1曲の利益率は低いですが、マーケットが広がったおかげで1アーティストあたりの収入は増えている。そう考えると、日本における音楽産業も右肩あがりで上がっていくはずですが、そこでどんなコンテンツを作るかが重要になってきます。

ーー日本には、国内マーケットで愛されてきたドメスティックなコンテンツもあります。その伝統は活かしつつも、グローバルに一歩踏み出すべきでしょうか?

黒岩:難しいところですね。例えば、各サブスクリプションサービスを見ていても、K-POPというジャンルはありますが、J-POPはありません。ただ、K-POPも10年前はグローバルなジャンルして確立されていなかったわけです。2000年初頭は、韓国がそこまでカッコいい音楽をやっていたイメージもありませんし、おそらく日本の音楽の方が、アジア圏では聴かれていたように思います。急に世界を狙うのは難しいかもしれませんが、やはりアジア圏でよく聴かれるようなアーティストが次世代からどんどん出てこないと、日本の音楽は世界に進出できません。さらに言えば、人口比率や少子化などを考えると、外のマーケットを狙わなければ日本の中における音楽産業そのものも徐々に衰退してしまうでしょう。特にデジタルリテラシーの高い若い人たちは最先端の音を聴ける環境にあるので、そういう外に目が向いている世代からアーティストが出てきてほしいですね。おそらく海外で触れられることによって国内でもそのアーティストの価値は上がりますし、マーケットも自然と広がっていくのではないかと。

ーー韓国勢は積極的に海外進出を目指しています。

黒岩:やはり韓国は、日本よりも5年以上、海外の音楽シーンに対するリテラシーは高いと感じます。楽曲作り、ダンスの振り付け、衣装、ファッション、もちろんアーティスト本人のパーソナルな部分を含めて、レベルが高い。弊社もSM(エンターテインメント)さんやYG(エンターテインメント)さんと一緒に制作していますが、15年前はエンタテインメントの勉強をするために日本に来ていたわけで。でも結果的に、コンサートやMVの作り方など、日本のノウハウをしっかり吸収しました。本当、素晴らしいなと思います。

ーー今後は新しいアーティストの発掘や育成も重要になってきますよね。

黒岩:そうですね。エイベックスとしてもこの30周年を機に、国内で活動するアーティストはもちろん、世界で勝負できるアーティストをどんどん輩出していきたいと考えています。言ってしまえば、国籍はあまり関係ないんですよ。最近はTWICEのような多国籍グループが目立ちますが、今後あのようなアーティストは増えてくると思いますし、僕たちも視野を広げて発掘していかなければなりません。同時に、世界に通用するアーティストが英才教育を受けられるような環境を作ることも、レーベルや音楽会社が行うべき使命なのかもしれませんね。

ーー例えば、海外で契約して世界に売り出していく、という方法もありますか?

黒岩:あるでしょうね。特に中国は。

ーー中国はマーケットとして高い潜在能力を持っています。

黒岩:配信市場は非常に大きいですね。特にテンセントが運営している『QQ Music』。現状、月額190円のサービスですが2020年には500円くらいまで上げてくるだろうし、1500万人ともいわれる有料会員も2023年には1億人まで伸びる可能性があります。おそらくSpotifyを超える有料配信サイトになるのではと。自社のアーティストもそういう大きな場所で聴かれてほしいですし、これまで国内中心に考えていたマーケティング手法ではなく、そこを意識したコンテンツ作りも考えていきたいです。

ーーあらためて、エイベックスではどんなところに力を入れていきたいですか?

黒岩:エンタメが与える力は、今後、より価値が高まっていくはずです。エンタメに決まった領域はないですし、どんな産業にもエンタメ要素は必要なんですよね。もちろんトップには音楽がありますが、そこで培ってきた経験やノウハウは横展開に繋げていくべきだと思いますし、会社としても多角的にビジネスを展開しているので、これから先も様々なマーケットを狙いにいきたいと考えています。

ーー最近では医療分野への進出を発表されるなど、会社としてより広がりを見せている印象を受けます。

黒岩:人々のライフスタイル、生活に寄り添うような形で感動を与えていくーーそういうコンテンツを僕たちは提案していくべきです。ただ、これは自社内だけでなく、他の企業とオープンイノベーションで作り上げていく領域だと思っています。他社とマッチングしていくことも大切にしたいですし、そのロールモデルも作っていきたい。例えば、僕たちと組むことで新しい発想やマーケットが生まれたり、前例のないライヴ体験を作ったり、ユーザーにワクワクしてもらえるコンテンツを様々なジャンルで出していくことによって、本当の意味でエイベックスが総合エンタテインメント企業になることができると考えています。医療分野への進出も、“医療”というと堅いイメージも受けると思いますが、そのせいで情報が広がりにくい部分もあると思うんですね。世間的に認知されていない、しかし有益な医療情報を、エンタメの力で広めていきたい。そうやってエンタメの力は使っていくべきだと思いますし、そこから医療系企業とのマッチングがはじまって、これから何ができるのかを話し合っていくところです。

ーーそれがエイベックスのDNAみたいなところがあるのでしょうか。

黒岩:あると思います。社としてのタグラインは「Really! Mad+Pure」になっていて、“マジで!?”(Mad)って思うものでも、“純真さ”(Pure)を持って作り上げることで、今までになかった驚き(Really!)を提供する……これは会社の考え方の原点であり、DNAと言えるでしょうね。そういう意識を持った社員も日に日に多くなってきています。

ーーつまり、これは今後の黒岩さんの経営方針にもなってるということですよね。

黒岩:そうですね。社内のアワードでも「Really! Mad+Pure賞」というのがあって。ただ利益を上げるのとは別に、意欲的な試みを賞賛することも大切だと思いますし、これからも積極的に取り入れていきたいです。

ーー貴社の規模だと大変な部分もあると思いますが、それを続けていくと。

黒岩:そういう社員がどんどん出てくる環境を作っていくことも経営側の仕事だとは思います。僕がなにか行動するというよりも、そういう社員が出てきて世の中に面白いものを発信できる会社は強いですよね。そのためにも制限は作りたくないですし、エンタメであれば何でもトライしていくような社員が増えてほしいと願っています。

(取材=神谷弘一/構成=泉夏音)

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