メジャー1stアルバム『YES』リリース記念対談
BRADIO、藤井丈司と組んで再確認した“バンドの強み” 「武器はファルセットとグルーヴ」
答えはもちろんYES。起きたことのすべてを肯定する、超ポジティブな攻撃姿勢が生んだメジャー1stアルバム『YES』は、BRADIOの新章開幕を高らかに告げる傑作になった。古き良きブラックミュージックへの尽きせぬ愛を現代的な音色で彩った、熱々のダンスチューンと、精密極まるお洒落なミドルチューンをたっぷりと詰め込んだ全12曲。日本のロック/ポップスシーンの生き証人であり、バンドのプロデューサーとして制作のすべてを知る男・藤井丈司を迎えたトークで、アルバムのすべてを語りつくそう。(宮本英夫)
「やってることに全部理由がある」(藤井)
――今回はアルバムの話をたっぷりしつつ、藤井さんから見たBRADIOとはどんなバンドか? というお話もぜひ聞きたいなと。
藤井丈司(以下、藤井):言えないことばっかりですよ。
真行寺貴秋(以下、真行寺):うははは。
――あとで編集するので、何でも言っちゃってください(笑)。まず、出会いは、去年のメジャーデビュー曲「LA PA PARADISE」の時ですか。
藤井:5月か6月ぐらいに電話がかかってきて、こんなおじさんに何の用が? と思ったんだけど、とりあえず行って打ち合わせをしました。「どうして僕をプロデューサーに選んだんですか?」って聞いたんだけど、何も答えないんですよ。これはあんまりちゃんと詰めてないんだなと。
大山聡一(以下、大山):そんなことないですよ!
真行寺:でも、そう言われると確かに「絶対この人だ」という感じではなかった気もする。なぜかというと、自分たちがプロデュースしてもらったことがなかったから。
藤井:ああ、なるほどね。
真行寺:そもそもプロデューサーって何をする人なんだろう? ということが全然わかってなくて、一度扉を開いてみたい気持ちがあったのは覚えてます。とりあえず会って、話してみて決めたいという気持ちはあったかもしれない。
藤井:やってみて、何をする人だったんですか。
真行寺:俺の印象としては、通りすがりに飴を置いてく人みたいな感じ。
大山:ははは。
真行寺:紳士的なイメージですよ。俺が困ってる時に、何かいいものを置いてってくれる人。
藤井:じゃあいい印象なんだ。ただの通りすがりの人かと思った(笑)。
真行寺:そういうことじゃなくて(笑)。「この人困ってるな」ということに気づいて、何を欲しがってるのかもなんとなくわかってくれて、ヒントを落としてくれる人。答えを落としてくれるんじゃなくて、ちゃんと自分たちの中で消化する時間をくれるというイメージがあります。だから最初はふわっとした感じだったんですけど、決定打になったのは、「日本でこういうことをやってるバンドはいないから、BRADIOをこういうふうにしたい」というビジョンを話してくれた時に「この人は面白そうだな」と思ったから。
――おおっ。何を言ったんですか。
藤井:全然覚えてない(笑)。
真行寺:「日本にこういうバンドはいないから、もっとここを押していきなよ」って。具体的にはファルセットやグルーヴを押していこうっていうビジョンを話してくれて。
藤井:ああ、言った言った。思い出しました。最初にシングル用に3~4曲デモを聴かせてもらって、こんなふうにファルセットを歌える奴は、貴秋と、Suchmosのボーカルと、今はその二人ぐらいなんじゃないの? と思ったので。黒人音楽はファルセットが多いから、そこをもっと押したほうがいいよねという話と、こんなにちゃんとグルーヴを精密にできるバンドはなかなかいないということ。グルーヴが大事って言う人でも、日本語で言う“ノリ”でやっちゃってる人もいるんだけど、BRADIOは綿密に解析してやってるなと感じて、その二つが武器なんじゃないの? と言いましたね。
――なるほど。
藤井:リハーサルに入っても「こんなにきちんと演奏するんだ」と思ったし、歌い方にしても、歌詞にしても、どうしてここでこういう演奏をするのか? という、やってることに全部理由があるから。それはすごいなと思いましたね。
大山:ありがたいです。
――その時点で、藤井さんがアルバムまで一緒に作ることは決まってたんですか。
藤井:全然決まってない。1曲だけ全力投球して帰る、リリーフピッチャーみたいな気持ちだった(笑)。そしたら「次にこんなの出そうと思ってるんですけど」ってマネージャーに相談されて、それが「きらめきDancin’」でした。あの曲の原型を「LA PA PARADISE」を作ってる途中で聞いて、「次のシングルはこうしたい」「アルバムはこうしたい」っていう話になって、自分がやるとは思ってないから、客観的に「この曲がいいんじゃないの?」とか言ってたんだけど。いつのまにか「じゃあ次も藤井さんに」ということなって、「あ、俺がやるのか」と。
大山:なんか、嫌そうじゃないですか(笑)。