カーネーション、結成35年の歳月で培われた豊潤な音楽と歴史 ベスト盤リリースを機に振り返る

カーネーション、結成35年の軌跡を振り返る

 『The Very Best of Carnation "LONG TIME TRAVELLER"』の面白さのひとつに、オリジナルアルバムでさんざん聞き込んだ楽曲であっても、前後に配置された楽曲によって驚くような新鮮さや気づきがあるということ。それはつまり楽曲を文脈や歴史、伝統や段取りから切り離すことで新たな意味性を獲得するということだ。それはヒップホップ以降に一般化した概念だが(そういえば直枝は90年代に、ヒップホップを聴きまくった時期があるという)、いわばカーネーションのが曲における音楽的記憶や記号の配置と共有化は、そうした意味もあると言えないだろうか。楽曲に散りばめられた古今様々なジャンルの記号が新たな文脈を獲得して、新たな楽曲として、新たな音像として鳴っている。だからこそカーネーションの音楽は、いつ聴いても新鮮に響くのだ。

 直枝によれば、『The Very Best of Carnation "LONG TIME TRAVELLER"』の選曲は、シングル曲に加え、既存のベスト盤とかぶらない裏ベスト的な曲を並べ、デビューから現在までの歴史を過不足なく紹介し、マニアにも入門者にも配慮したベスト盤にすべく配慮したという。ロックと黒人音楽の接点を探ったような楽曲が多く収められているようにも感じた。選曲に関しては個々の意見もあるだろうが、私としては初期の代表曲「Edo River」からの長い物語がひとつ完結したような超名曲「いつかここで会いましょう」(『Multimodal Sentiment』収録)が収められているだけで満足だ。聴く者の個人的な体験や記憶と密接に結び付いているだけでなく、新たな情景をも喚起する全30曲である。

 30曲の中には新曲も2曲収められている。現在のライブメンバーが参加し、野音ライブのテーマ曲として作られたという「サンセット・モンスターズ」は<まだ試合は終わらせないよ/この目覚めたバットに雷鳴を>という力強い宣言で、野球ファンの私を泣かせてくれる。そして矢部浩志、棚谷祐一、鳥羽修(そして直枝、大田)という5人編成時代のメンバーが一同に会して作られた「Future Song」。〈意味のない意味をかきあつめ〉ながら〈未来を想像〉してきた日々。それがカーネーションの音楽だったのかもしれないと思った。

 日比谷野音。雨が降らないことを祈りながら待つ。次の35年のための祝祭だ。

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

『The Very Best of CARNATION "LONG TIME TRAVELLER"』

■リリース情報
『The Very Best of CARNATION "LONG TIME TRAVELLER"』
2018年6月20日発売
価格:CD2枚組 3,241円+税

<収録内容>
・DISC 1
1. 夜の煙突(『GONG SHOW』)
2. 未確認の愛情(『天国と地獄』)
3. Edo River(『EDO RIVER』)
4. It's a Beautiful Day(『a Beautiful Day』)
5. Garden City Life(『GIRL FRIEND ARMY』)
6. I WANT YOU(SG『No Goodbye』)
7. New Morning(『booby』)
8. サンセット・サンセット(『ムサシノep』)
9. 月の足跡が枯れた麦に沈み(『Parakeet & Ghost』)
10. Strange Days(『Parakeet & Ghost』)
11. REAL MAN(『LOVE SCULPTURE』)
12. センチメンタル(『LOVE SCULPTURE』)
13. 長い休日(V.A.『Smells Like Teenage Symphony』)
14. やるせなく果てしなく(『LIVING/LOVING』)
15. ANGEL(『SUPER ZOO!』)

・DISC 2
1. スペードのエース(『SUPER ZOO!』)
2. 十字路(『SUPER ZOO!』)
3. 魚藍坂横断(『SUPER ZOO!』)
4. オフィーリア(『WILD FANTASY』)
5. PARADISE EXPRESS(『WILD FANTASY』)
6. ジェイソン(『Velvet Velvet』)
7. さみだれ(『Velvet Velvet』)
8. I LOVE YOU(『SWEET ROMANCE』)
9. アダムスキー(『Multimodal Sentiment』)
10. いつかここで会いましょう(『Multimodal Sentiment』)
11. E.B.I(『Multimodal Sentiment』)
12. Peanut Butter & Jelly(『Suburban Baroque』)
13. Little Jetty(『Suburban Baroque』)
14. Future Song ※新曲
15. サンセット・モンスターズ ※新曲

■ライブ情報
35年目のカーネーション
「SUNSET MONSTERS」
日程:6月30日(土)
会場:日比谷野外大音楽堂
出演:カーネーション(直枝政広、大田譲)
開場:16:00
開演:16:30
ゲスト(50音順:敬称略):
大谷能生、岡村靖幸、岡本啓佑(黒猫チェルシー)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、佐藤優介(カメラ=万年筆)、白井良明、鈴木慶一、鈴木博文、ZOOCO、曽我部恵一、棚谷祐一、鳥羽修、田村玄一(KIRINJI)、堂島孝平、徳永雅之、中森泰弘、張替智広(HALIFANIE、キンモクセイ)、バンドウジロウ、ブラウンノーズ、真城めぐみ、馬田裕次、松江潤、森高千里、矢部浩志、山本精一、ロベルト小山、渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)

料金:前売 ¥6,800(全席指定)
学割チケット(全席指定) 
学割をご利用のお客様も、指定席をお買い求めください。以下の内容でキャッシュバック致します。
大学生・高校生¥3,800(会場にて¥3,000キャッシュバック)
小学生・中学生 ¥1,800(会場にて¥5,000キャッシュバック)
※未就学児童のお客様は入場無料(保護者の膝上にて鑑賞可)

イープラス e+  PC・携帯共通
チケットぴあ 0570-02-9999  [Pコード:107-686]
ローソンチケット 0570-08-4003  [Lコード:71917]
Get Ticket 
(問)ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00~19:00)
そのほか注意事項は公式サイトより

カーネーション公式サイト
カーネーション レーベルサイト

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