XXXTentacionは前向きに歩みを進めようとしていたーー若きラッパーが遺した作品の意義
さらに、最近ではチャリティー活動も盛んに行なっており、今年2月、フロリダの高校で起きた銃乱射事件に際しては、追悼楽曲を発表しただけではなく、『A Helping Hand』と冠したチャリティーコンサートも主宰した。さらに、母親とともにチャリティープロジェクトを計画中だとも発表し、命を落とす数時間前にアップしたInstagramのストーリー画面には「今週末、フロリダでチャリティーイベントをやろうと思う!」と投稿していたのだった(このイベントは、彼の遺志を継いでテンタシオンの盟友でもあったスキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッドが代わりに主催者となり、テンタシオンのメモリアルイベントとして開催される意向のようだ)。
彼の死を悼むと同時に、筆者が危惧してしまうのは過熱しすぎるラップゲームの世界だ。テンタシオン始め、若手のラッパー(彼らはまだ10代である場合も少なくない)たちが主戦場の一つとしているのは、ソーシャルメディアの世界でもある。リアルタイムでライブ配信もできるソーシャルメディア上では、人気や話題の度合いが全て「いいね」やライブ配信閲覧者数の数字で可視化される。きらびやかなジュエリーや抱えきれぬほどの札束、眩い高級車、そして、挑発的な発言は一瞬で拡散され、さらなるフォロワーを生み、それがそのままアーティストの価値へと換算される。テンタシオンが昨年手にしたメジャーレーベルとの契約金は約6億円にものぼると報じられていた。また、メディアはテンタシオンに関して、つねに過激でコントロヴァーシャルな若者として扱いがちだったことも追記しておく。
彼が一人の男性として、そしてアーティストして前向きに歩みを進めようとしていた矢先の、凄惨な事件。意図せずして数奇な運命を辿ることになってしまった若いラッパーが遺した作品が持つ意味は、非常に深いのではないか。そして、これ以上、悲しい運命を背負う若者が増えぬようにと強く思う。
■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
Twitter
blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演