「桜が咲く前に」カバーも飛び出した、ヒグチアイときのこ帝国による“特別な一夜”

ヒグチアイときのこ帝国“特別な一夜”

 続いて登場したヒグチアイは、ドラムに伊藤大地、ベースに御供信弘を引き連れての3ピース。冒頭にはインディーズ時代の作品『三十万人』から、「ココロジェリーフィッシュ」を演奏した。まるで打ち込みのように精緻なピアノリフが会場内に響き渡り、その軽やかな音色とは対照的な、湿ったヒグチの歌声が今にも泣き出しそうにビブラートする。そう、このコントラストこそが彼女のオリジナリティだ。

 間髪入れずに演奏された次の「黒い影」は、鋼のようにヘヴィなピアノバッキングと、這うようなベースの低音、変拍子やキメを「これでもか!」と言わんばかりに叩き出すドラム、そのギリギリのせめぎ合いがまるでKing Crimsonのようにプログレッシブ。後半は、メンバーそれぞれがキレッキレのソロを順番に聴かせ、オーディエンスを大いに沸かせた。

 続いて演奏された新曲「わたしのしあわせ」は、ニューアルバム『日々凛々』収録予定曲。カントリー&ウェスタン風の軽快なナンバーだ。もう1曲、アルバムからエレピの音が印象的な「かぜ薬」を挟んで披露したのは、きのこ帝国「桜が咲く前に」のカバー。しかも、ピアノ弾き語りバージョンである。ヒグチのアルトボイスはこの曲にとても良く合っていて、ヒグチのファンはもちろん、きのこ帝国のファンからも大きな拍手が巻き起こった。

 再び3人編成になり、ミドルバラードの「わたくしごと」。必要最小限のシンプルなアンサンブルにより、これまで以上にヒグチの歌声やそのアーティキュレーション、ピアノの指さばきなど細かいところまでよく聴こえる。後半は、「わたしはわたしのためのわたしでありたい」、「永遠」と再び新曲を披露し、疾走感溢れる「メグルキオク」、彼女の代表曲「備忘録」を歌って本編は終了。アンコールは新曲「不幸ちゃん」で幕を閉じた。

 これまでのライブで展開していたエンターテインメント的な要素は極力外し、たった3人でストイックな演奏を聴かせたヒグチ。来るべきニューアルバムに、確かな手応えを感じているのがこちらにもひしひしと伝わってくるような、そんな自身に満ち溢れたステージだった。

(撮影=橋本 塁(SOUND SHOOTER))

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

<セットリスト>

■edda
1.グールックとキオクのノロイ
2.夢のレイニー
3.ダルトン
4.チクタク

■きのこ帝国
1.疾走
2.クロノスタシス
3.猫とアレルギー
4. LIKE OUR LIFE
5.愛のゆくえ
6.夜が明けたら
7.東京
8.Dounut

■ヒグチアイ
1.ココロジェリーフィッシュ
2.黒い影
3.わたしのしあわせ(新曲)
4.かぜ薬(新曲)
5.桜が咲く前に(きのこ帝国カバー)
6.わたくしごと
7.わたしはわたしのためのわたしでありたい
8.永遠(新曲)
9.メグルキオク
10.備忘録
EN.不幸ちゃん(新曲)

ヒグチアイ『日々凛々』

■リリース情報
『永遠』
iTunes/AppleMusicにて、配信中

ヒグチアイ メジャーセカンドフルアルバム『日々凛々』
発売日:6月20日(水)
価格:【初回限定盤】2,778円+税/CD+DVD
【通常盤】2,407円+税

<CD収録曲>
01.わたしはわたしのためのわたしでありたい
02.永遠 
03.コインロッカーにて
04.かぜ薬
05.玉ねぎ
06.わたしのしあわせ
07.ぽたり
08.不幸ちゃん
09.最初のグー
10.癖

<通常盤ボーナストラック>
「きっと大丈夫」(長野都市ガス(株)新企業CMタイアップソング)収録。

<初回限定盤DVD収録内容>
新録「ぽたり」&ライブ定番曲「わたくしごと」のスタジオ弾き語りライブ映像。

<購入者特典>
ヒグチアイ本人、カット&手書きシリアルナンバー入り“ひびりぼん”。
※特典はなくなり次第終了。
※対象店舗はレーベルサイトにて発表。

■イベント情報
ヒグチアイ メジャーセカンドフルアルバム『日々凛々』発売記念ミニライブ&サイン会
6月27日(水)タワーレコード梅田NU茶屋町店
20:00〜
7月7日(土)タワーレコード新宿店
21:00〜
※詳細はオフィシャルサイトにて発表。

■ライブ情報
『HIGUCHIAI band one-man live 2018』
7月16日(月・祝)大阪 心斎橋Music Club JANUS
7月21日(土)東京 下北沢GARDEN
チケット発売中
※フルバンド編成のワンマンライブ

■関連リンク
ヒグチアイ オフィシャルサイト
ヒグチアイ レーベルサイト

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