咲妃みゆ、フルオーケストラと豪華共演 初コンサートで示した“ソロシンガー”としての存在感

咲妃みゆが示した“ソロシンガー”の存在感

 元宝塚歌劇団・雪組トップ娘役の咲妃みゆが5月13日、舞浜アンフィシアターで初のコンサート『First Bloom』を開催した。東京ニューシティ管弦楽団によるフルオーケストラとバンド、総勢62名のミュージシャンとステージを作り上げた咲妃。昨年夏に宝塚歌劇団を退団した咲妃が歌手としての本格的な始動を告げたこのコンサートは、宝塚歌劇で培った特性を活かしつつも、ソロシンガーとしての存在感を示すものになった。

 この日のために用意された新曲「First Bloom」のオーケストラ演奏でコンサートは幕を開ける。やがて舞台中央のカーテン越しに咲妃のシルエットが映し出され、2曲目の「自由への扉」から咲妃の歌唱がスタートする。

 咲妃が最初に歌った「自由への扉」はディズニー映画『塔の上のラプンツェル』劇中歌である。さらに同曲に続いて「Part of your world」(『リトル・マーメイド』)、「どこまでも」(『モアナと伝説の海』)、「Colors of the wind」(『ポカホンタス』)と、ディズニー映画楽曲が次々に披露されてゆく。子供の頃からディズニー好きだったという咲妃のパーソナリティが、この第1部の選曲には大きく反映された。

 そしてまた、第1部でチョイスされたこれらの楽曲は、咲妃が現在までの経歴を通じて蓄えてきた力を、ごく自然に発揮するのに適したものでもあった。上述したようなディズニー映画の楽曲群はそれぞれ、具体的な作品やキャラクター、物語に結びついている。そのため、咲妃のパフォーマンスを通じて披露される際には、その背景に役柄がみてとれるような、一種ミュージカル的な効果をもつ。彼女がいくぶん演じるように歌唱する姿からは、宝塚歌劇団在団時を主としたこれまでのキャリアを、ソロの歌手として昇華してゆく様子がうかがえた。

 第1部終盤では、『アナと雪の女王』の劇中歌として知られる「Let It Go」も披露される。上述したセットリストの流れをくんだディズニー映画からの選曲だが、同曲ではそれまでよりも力強さと奔放さをみせ、“役柄を演じるように”というよりも、“シンガーとして”の面を色濃く感じさせた。

 その“シンガーとしての咲妃みゆ”の顔は、コンサート後半に入るといよいよ強く発揮される。バンドパートとオーケストラパートとのコントラストも印象的な「A Lover’s Concerto」から始まった第2部では、宝塚歌劇団在籍時に早霧せいなとデュエットダンスでパフォーマンスした経験のある「Over the rainbow」など、咲妃の来歴にちなんだ選曲もみられる。けれども第2部では、在団時の面影よりもむしろ、ソロの歌手としてステージに立つ姿が強い印象を与える。「Over the rainbow」をはじめ、「Top of the World」やアンコールで歌った「Heal the world」など英語詞の楽曲も織り交ぜながら、咲妃自身のもつ幅を少しずつみせてゆく。ある役柄を演じるような楽曲が多かった第1部から、コンサート中盤~後半にあたる第2部にかけて一人の歌い手の姿へと趣を変えてゆくセットリストは効果的だった。

 コンサート全体を通して巧みさを感じさせたのは、ステージを広く使ってパフォーマンスしていた点だ。アンフィシアター中央の円形ステージには道具立てはなく、オーケストラやバンドメンバーも後方のステージにいるため、円形ステージはほぼ咲妃ひとりに託された。物語の情景をステージ全体に描き出すように、時にステージの端にポジションをとり、時に移動を多くしながら空間を豊かに使って歌唱する。決して大仰な立ち居振る舞いをするわけではなく、ごくナチュラルにステージを活用してみせるさまからは、彼女のもつ実力のベースが確かなものであることがうかがえる。

 また、このコンサートには咲妃みゆにとっての、いわば初オリジナル楽曲も組み込まれていた。幕開けとなる先述の「First Bloom」は、このコンサートの音楽監督も務めた大嵜慶子が手がけた新曲である。そして、第2部で披露された武部聡志作曲による楽曲「明日(あす)を信じて」では、咲妃自身が作詞を手がけている。初のソロコンサートであるばかりでなく、楽曲制作への参加という挑戦も組み込んでステージを成立させてみせる、実りの大きな第一歩でもあった。

 この先、8~9月にかけては『ゴースト』、そして2019年1~2月には『ラブ・ネバー・ダイ』と、咲妃のミュージカル出演が相次いで発表されている。宝塚歌劇退団から2年目を迎える今夏以降、一人のパフォーマーとしていよいよ厚みを増してゆく時期が到来する。そのための準備であり起点となる1stソロコンサートで、まずは順調に自身の実力の確かさを証明した。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

■セットリスト
『咲妃みゆオーケストラコンサート「First Bloom」』
5月13日(日)舞浜アンフィシアター

<第1部:空と海のファンタジー>
1.First Bloom(新曲:作曲/大嵜慶子)
2.自由への扉
3.Part of your world
4.どこまでも
5.Colors of the wind
6.Let it go
7.First Bloom~Sing for you(新曲:作詞・作曲/大嵜慶子)

<第2部:世界から愛をこめて>
8.A Lover's Concerto
9.Over the rainbow
10.花は咲く
11.明日(あす)を信じて(新曲:作詞/咲妃みゆ、作曲/武部聡志)
12.Top of the world
13.手紙~拝啓 十五の君へ~
14.You raise me up

<ENCORE>
15.Heal the world
16.Smile

咲妃みゆ オフィシャルサイト

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