『やなぎなぎ ライブツアー 2018 ナッテ』
やなぎなぎ、『ナッテ』ツアーファイナルで見せた“クリエイティブへの情熱”
やなぎなぎというアーティストは、モノ作りに対する思い入れが人一倍強い人という印象がある。作詞・作曲を行うシンガーソングライターとしての一面を持っているのはもちろん、昨年にはTVアニメ『Just Because!』の音楽プロデュースを担当し、テーマ曲のみならず劇伴も制作するなど、その創作意欲は留まるところを知らない。CDのパッケージも毎回デザインにこだわりが感じられ、特にアルバムの初回盤における装丁の凝りようは、配信やサブスクリプションで音楽を受容することが当たり前となったこの時代において、あらためてモノとしてのCDの良さを感じさせるプロダクトとなっている。
前置きが長くなったが、そういった多岐にわたるクリエイティブへの情熱が彼女のアーティスト性を象徴するものだとするならば、それをステージという形に置き換えて表現したのが、やなぎなぎのライブだと言える。4月21日に東京・Zepp DiverCity Tokyoで行われた『やなぎなぎ ライブツアー 2018 ナッテ』の最終公演は、今年1月にリリースされた彼女の4thアルバム『ナッテ』の世界観を、さまざまな舞台演出を交えることでより深く体感できる場となっていた。
この日のライブでそのこだわりを最も強く感じさせたのが、開始から序盤の4曲で見られた透過型スクリーンを使った演出だ。公演の開始を告げたのは『ナッテ』でも1曲目を飾っていた楽曲「snowglobe」。『ナッテ』というアルバムには、やなぎが思ういろんな形の宝物たちを「綯って(=糸やひもを1本により合わせること)」ひとつにする、というコンセプトが設けられているが、「snowglobe」はそのたくさんの宝物を収めたスノーグローブをイメージして作られた、アルバムの世界観を端的に示す楽曲となっている。そのテーマを可視化するかのように、ステージ前面を覆った透過型スクリーンにはスノードームをイメージさせる大きな円が映し出され、向こう側に立つやなぎがまるでスノーグローブの中にいるかのような視覚効果を生み出す。その後も上から雪が降り注いだり、下から気泡が浮かび上がったり、スノードーム内に楽器や小物などの形をしたさまざまな「宝物」が登場して回転するなど、曲の展開と連動しながら幻想的な光景が現出。歌詞から引用するなら<グリセリンの海>を泳いでいるかのような感覚を引き起こしながら、ゆったりと『ナッテ』の世界観を会場に染み込ませていく。
続く「時間は窓の向こう側」では同曲のMVがスクリーンいっぱいに投影され、バスルーム、水の張ってない浴槽、金魚、時を逆巻くように上昇する水滴といった、どこか退廃的な美意識を感じさせる映像の中で歌うやなぎの唇の動きと、実際にスクリーンの向こうで歌うやなぎの声がシンクロ。Br’z(Gt)、石岡塁(Ba)、MITSU(Dr)、平野晋介(Key)のバックバンドによるブラジリアンジャズのようなグルーヴ感を持った演奏と合わさって、不思議な熱気が場内を覆う。
その神妙な空気感から一転、MCでは「前に紗幕が降りてるので、今のところ私からみなさんの方がまったく見えてないんですけど、みなさんちゃんといますよね(笑)」と、いつもの和やかな表情を見せるやなぎ。タイトル通りサキュレント(多肉植物)への愛を歌ったボッサ風のナンバー「あなたはサキュレント」では、パステルカラーのイメージ映像が柔らかなムードを作り出すなか、やなぎも可愛らしい振り付けを披露しながら歌唱。次の「スーパーヒーロー」は彼女のゲーム好きな一面が出たテクノポップ風味のナンバーで、ここでもスクリーンを使ってモニターの中の世界を思わせる映像演出が施される。
5曲目「over and over」で紗幕が落ち、ついに透過スクリーン越しではなく、お客さんの前に直で登場したやなぎは、ステージを上手から下手へ楽しそうに行き交いながらパフォーマンス。オーディエンスも総立ちとなり、彼女のイメージカラーであるグリーンのサイリウムを振って大きな盛り上がりを見せる。ステージ後方にはスノードームをイメージしたであろう巨大な球形のオブジェが浮かんでおり、そこにPVなどの映像が映し出されるという仕掛け。このように、この日のライブは聴覚のみならず視覚にも訴えかける演出が盛りだくさんとなっていた。
TVアニメ『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』のオープニングテーマ「here and there」で美しい景色がどこまでも広がるようなサウンドスケープを描き出した後は、東京公演のみのゲスト出演となったDJみそしるとMCごはんを呼び込んで『ナッテ』収録曲の「relaxin'soup feat. DJみそしるとMCごはん」でコラボ。横揺れ系のまったりグルーヴにゆるふわなラップが心地良く響く。続く「海を込めて」もR&B調のレイドバックビートが特徴的なナンバーで、サウンド面でもあらゆるタイプの宝物が詰め込まれた『ナッテ』の魅力を柔らかな歌声と共に伝えていく。