ユーミン45周年記念ベストは“CD文化”の重要なサンプルに 付属ブックレットのコンテンツ力に注目

 音楽面でも語りどころのある今作だが、それ以上に注目すべきなのが今回のパッケージに付属されているブックレットだろう。このアルバムを作るにあたっての心意気、さらに収録曲全てについてのコメントが直筆で記されているこのブックレットは、これ単体で商品として成立するのでは? と思わせる濃密なものとなっている。楽曲の情景を短くまとめたセンテンスが書かれていたり、制作時の裏話が明かされていたり、「日本人が一人もいなくなったら、日本の歌もみんな消えてしまう。」という今の高齢化社会の先にあり得る悲観的な未来像にさらっと触れていたりと、単なる「歌詞カード」ではないコンテンツとなっている。

 日本でも徐々にストリーミングサービスの波が大きくなりつつあり、また「配信限定」という形でのリリースも増えつつある。そんな流れの中で、「歌詞やスタッフのクレジットといった楽曲に付随する情報をどのように伝えるか」といった部分については明確な答えがまだ出ていない。ユーミンが今作で示した「そういった情報自体を手に取れる形でコンテンツ化する」という取り組みは、今後の「配信」と「パッケージ」にかかわる議論に有益な示唆を与えるものになるかもしれない。今作を機に、「文脈を知ることでその楽曲の魅力をより深く理解する」といった楽しみ方をサポートするフォーマットについての検討が進むことを願う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。

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