『30th ANNIVERSARY TOUR“THE FIGHTING MAN”FINAL』
エレファントカシマシが辿り着いた今とこれから デビュー30周年を締めくくるワンマンレポ
「男餓鬼道空っ風」「この世は最高!」など、粗削りなロックバンドとしての魅力に溢れた、エレカシ初期の楽曲でスタートした“二部”。それは、その荒々しさと飽くなき衝動が現在も変わることのないことを高らかに示す「RESTART」(ステージから立ち上る火柱!)「夢を追う旅人」といった最近の荒ぶる楽曲へとシームレスに繋がってゆく。そして、しばしの静寂のあと、アコギを抱えた宮本がおもむろに歌い出したのは、〈くだらねえとつぶやいて/醒めたつらして歩く〉というお馴染みのフレーズだった。昨年の大晦日、NHK紅白歌合戦という大舞台から、しっかりとその歌を“届ける”ために、再びアレンジを見つめ直したという「今宵の月のように」。それを、耳を澄ませて聴き入る観客たち。けれども、そこからまたエレカシは、現在進行形で大きく動き始めるのだった。すでに音楽誌などで大きな反響を呼んでいる注目の新曲「Easy Go」だ。〈涙に滲んだ過去と未来/Oh baby/俺は何度でも立ち上がるぜ/Easy Easy Go! Easy Go!〉。性急なビート感と4人のみで掻き鳴らすバンドサウンドが、否応なく聴く者の心を湧き立たせるこの曲には、依然として荒ぶる魂をもったロックバンド、エレカシの“現在”が、しっかりと刻み込まれている。
しばしの休憩ののち、「あなたのやさしさをオレは何に例えよう」でスタートした“三部”は、再び弦と管が加わり、豊かな音色によってクライマックスへと走り出す。巨大な会場を埋め尽くすゴージャスなサウンドで響き渡る「so many people」の興奮。しかし、本編の最後を締め括ったのは、昨年リリースされたオールタイムベスト盤のタイトルでもあり、30周年記念ツアーのタイトルにもなった「ファイティングマン」だった。30年前の3月にリリースされた1stアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』の1曲目に収録され、その後何度も何度も繰り返しライブで披露され続けてきた、彼らのテーマソングとも言うべき一曲を、メンバー4人のみの演奏で披露したエレカシ。ザクザクと刻まれるギターサウンドに、宮本の荒々しいボーカルが響き渡る。〈自信を全て失っても/誰かがお前を待ってる/oh yeah/お前の力必要さ/俺を俺を力づけろよ〉。そう、彼らは今もなお、“掴めないものを掴む”ために、闘い続けているのだ。それに万雷の拍手で応える観客たち。
鳴りやまない拍手を受け、アンコールで再びステージに登場したエレカシが、あらかじめ数曲用意されていたというアンコール曲の中から選んだのは、「四月の風」だった。エピック・ソニーからポニーキャニオンに移籍した彼らが、その移籍第一弾シングルとして1996年4月ににリリースしたシングル曲「四月の風」(「悲しみの果て」と両A面扱いだった)。四月の風に吹かれながら〈毎日何処かで街の空仰ぐ俺がいた〉と独りごちながらも、〈明日もがんばろう/愛する人に捧げよう〉と結ぶこの曲を、さいたまスーパーアリーナという巨大な会場で歌い上げる宮本の胸に去来する思いとは、果たしてどんなものだったのだろうか。その頬を静かにつたう熱い涙。無論、それは観客の側も同じだった。
バンド史上初となる全都道府県ツアー、そして初出場となったNHK紅白歌合戦など、実に充実した内容となったデビュー30周年のアニバーサリーイヤー。それを終えた今もなお……否、むしろ、その勢いまま彼らは、新しい明日へと踏み出そうとしている。4月6日からは、先述の新曲「Easy Go」が主題歌となった池松壮亮主演のドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)がスタート、6月6日には、この日告知された通り待望のニューアルバムの発売が決定。そして、再び全国ツアーへ。さらに、この夏には満を持しての“初出場”となるフジロックフェスティバルへの出演も決定している。さらなる新しい季節に向けて、夢を追う旅人エレファントカシマシは、この日さいたまスーパーアリーナに駆けつけた人々、来たくても来られなかった人々など、数えきれない人々の“人生”を巻き込みながら、ドドドドーン!と進んでゆくのだ。
(撮影=大森 克己)
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。
■セットリスト
『30th ANNIVERSARY TOUR“THE FIGHTING MAN”FINAL』
2018年3月17日(土)さいたまスーパーアリーナ
<一部>
1. 3210
2. RAINBOW
3. 奴隷天国
4. 今はここが真ん中さ!
5. 悲しみの果て
6. 星の砂
7. i am hungry
8. 夢のかけら
9. 風に吹かれて
10. ベイベー明日は俺の夢
11. 昔の侍
12. さらば青春
13. 笑顔の未来へ
14. 桜の花、舞い上がる道を
15. ズレてる方がいい
16. 今を歌え
17. 風と共に
18. ガストロンジャー
19. 俺たちの明日
<二部>
20. 男餓鬼道空っ風
21. この世は最高!
22. RESTART
23. 夢を追う旅人
24. 今宵の月のように
25. Easy Go
<三部>
26. あなたのやさしさをオレは何に例えよう
27. so many people
28. 友達がいるのさ
29. 涙
30. ファイティングマン
<アンコール>
31. 四月の風