『The Harvest Time』インタビュー
Caravanが語る、音楽にこめた平和や自由への思い 「いつもそこにあるものとして表現したい」
自由にしても平和にしても結局は自分のなかにある
――では、各楽曲についての話を。まず1曲目「Astral Train」。旅の始まり感があるインストで。
Caravan:インストから始まりたいというのは、アルバムを作る際に毎回あって。何か乗り物がやってくる感じ。
――この曲と8曲目の「Yardbirds Swingin’」の2曲がインストですね。
Caravan:アナログ盤にしたときに、それぞれA面の始まり、B面の始まりみたいなイメージですね。
――インストもいいですよねぇ。いつかインスト集みたいなのも作ってほしい気がしますが。
Caravan:やりたいですねぇ。
――MVにもなった2曲目「Retro」は、今作の核となる1曲です。歌詞のなかに<過ぎて逝くものは色付いて>というフレーズがあります。“行く”ではなく“逝く”。つまりこれは鎮魂歌のようなもの?
Caravan:前からお葬式の歌を作りたかったんですよ。それは自分のなのか誰か近い人のなのかわからないけど。例えば何月何日に死ぬとわかったら、最期にその人は、あるいは自分だったら、どんなことを思うんだろう、それを受け入れる心境ってどんなだろうと考えて。終わりを受け入れるときの心境ってスーパーポジティブだと思うので、その覚悟とか潔さとか名残惜しさとか切なさとかが入り混じった感情はどんなだろうと想像しながら書いたんです。
――そこから一転して軽やかなサウンドの「Heiwa」。ここでの歌詞が、まさしく今、Caravanの言いたいことであり、アルバム全体を貫くテーマでもありメッセージでもあるように思いました。
Caravan:結局はやっぱり心の平和というか。例えば環境がどうであろうと、どんな状況にいようと、心の平和な人は平和じゃないですか。自由というのも一緒で、ここから解放されたいんだというような意味での自由もあるけど、結局はその人の精神状態であり、心の自由だと思うので、そこに導きたい。そういう思いは、ひとつ、テーマとしてありましたね。
――誰かやどこかの国に対して問うたり訴えたりする前に、まず自分自身はどうなのかということですね。
Caravan:うん。自由にしても平和にしても結局は自分のなかにあるものだし、自分次第だと思うので。それとあと、“世界平和は家庭から”じゃないけど、そういうところも絶対にあって。本来は身の回りの半径5メートルから平和にしていけばいいんだけど、大きなことをやろうとしたり、そこで評価を得ようとしたりしてエゴが出ちゃうと、それによって歪んだものになってしまう。そういう意味でもやっぱり結局は自分自身だから、あまり押しつけがましくなく、いつもそこにあるものとして平和とか自由を表現したいと思ったんです。
――何かきっかけがあって、そういう表現に向かっていったんですか?
Caravan:このアルバムを作っている最中に、マンチェスターのテロがあった。ライブ会場は自分が一番大事にしている場所だから、そういうところでテロが起きたのがショックだったんです。でも、そこで誰が悪いとかってほうに話が行くと、また9・11のときの繰り返しになりかねない。そういうやるせなさもあって。そのときに平和ってなんだろうとすごく考えたんですよ。平和や正義を振りかざす、あまりに平和じゃない人が出てきてしまうというのは、人間の歴史のなかでずっと繰り返されてきたことだから……。
――そうした思いを、ここではシリアスに重いトーンでメッセージするのではなく、軽やかなメロディと合わせることで聴く人に想像するきっかけを与えている。漢字で「平和」とするのではなく、「Heiwa」としているのもいいですね。
Caravan:そこがまさしくさっき言ったミュージシャンとしての自分なりのバランスであり、自分なりの温度感で伝えるということでもあるので。
――それから4曲目「Travelin’ Light」。この歌詞のなかには<Everyday 繰り返し刻むリズム>とあって、ここにはCaravanのスタンスというか歩き方が表れている気がしました。
Caravan:自分としてはどんどん身軽になっていきたいし、どんどんシンプルになっていきたいんだけど、それでも核となるところはブレずに持ち続けたい、継続していきたいって気持ちがあって。それは音楽活動もそうだし、何かものを思うってことに関しても。<繰り返し刻むリズム>というのは、そういうところから出てきた言葉ですね。
――この曲では<Travelin’ with you>と歌ってます。<二人 円になって踊り出したら>というフレーズもある。“ひとりで行くぜ”ではなくて、“with you”なんですよね。同じように、例えば7曲目の「Chantin’ The Moon」でも<二人はいつでも自由で孤独なストレンジャーズ>と歌っている。
Caravan:うん。その二人というのは自分とパートナーかもしれないし、自分と友達かもしれないけど、自分と自分というところもあって。宅録だったりとか、基本的にはひとりで完結することをCaravanとしてずっとやってきてるわけですけど、でもそれを誰かとシェアできたときにようやく音楽になるし、ようやくメッセージになるってところがある。自分だけで完結したいんだったら別にリリースなんてしなくてもいいし、趣味で作ってクルマで聴いていればいいわけじゃないですか。でもそうじゃなくて、やっぱり誰かに届けたいから作っている。そういう意味で、自分ともうひとりの相手を気配としていつも考えているところがありますね。
――それはパートナーかもしれないし、友達かもしれないし、CDやライブ会場でCaravanの音楽を聴いている誰かかもしれない。
Caravan:そう。特に音楽というのはマンツーマンになることが多いじゃないですか。大勢の人がいる場所でも、本当にそれが響くときというのは一対一の状態だと思うので。そうなれるのが音楽の醍醐味だったりもするんでね。だから、キャパが20人のところでも3000人のところでも、結局マンツーマンのラインがしっかり結べたときのライブがいいライブだったと実感できるし。
――なるほど。で、5曲目「Rainbow Girl」ですが、これはCaravanの曲のなかでも珍しいくらいポップですよね。
Caravan:最初はポップすぎるかなとも思ったんだけど、これも自分のなかから自然に出てきたものだから。なんか最近は、自分のなかに制約を作って、この曲は違うなっていうふうにするのが嫌なんですよ。これも自分の一部なんだから前向きにそういう曲とつきあいたいと思っていて。
――そう思えるようになったのは、自信がついたからってところもあるんですかね。
Caravan:そうかもしれませんね。自信があるって言いきれるわけじゃないけど、いい意味で開き直れるようになったというか。「だって、それも俺だもんな」っていう。どんな曲でもせっかく生まれてきた子供なんだから可愛がってあげないと、みたいな(笑)。
――この曲、モデルはいるんですか?
Caravan:それはやっぱりパートナーだったりするんですけどね。歌詞に関してはあまりややこしくしたくなくて。最近は特に思うんですけど、本当にシンプルで余計な説明のいらない歌詞を書きたい。身近にいる人だったり自分の思いだったりがダイレクトに出てるもののほうが、Caravanというシンガーソングライターにとってはリアリティがあっていいんじゃないかなと思っていて。自分もシンガーソングライターの作品を聴くのは、曲からその人を察することができる面白さに惹かれて聴いたりするわけだし、その人の考えに興味があるから聴くわけだし。そういう意味で嘘は書きたくないし、なるべくシンプルに書きたいんです。
――以前よりもどんどんそうなってる感じがしますね。
Caravan:うん。かっこよく言おうとか、わざと曖昧に言おうとか、そういうあざとさがなくなってきてますね。前はもう少し変な欲があったかもしれない。深みを感じさせたい、とかね(笑)。